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ショートショート11月〜4回目

嘆かわしい猫

作者: たかさば

 とある中規模都市の、のどかな住宅街の一角に、三階建てのアパートがある。


 一見、ごくありふれた、なんてことのないアパート。

 しかし、この場所では…、時折、おかしな現象がみられる。


 ゴミの日、1匹の猫が…、ゴミ捨て場の塀の上に、座るのだ。

 なぜか、この猫が……、おかしな表情を、見せるのだ。


 耳が小さめで、顔の丸い、太くて短めのしっぽの、茶虎の大人猫。

 オスかメスかは、わからない。

 おそらく、飼い猫では、ない。


 この猫は、ゴミの日に、どこからともなく現れる。


 ゴミを出しに来た人々を見ては…、えも言われぬ表情で、様子を伺うのだ。

 そして最後に、嘆かわしい顔をして…、どこかに消えていくのだ。


 一階に住む爺さんがゴミを出した時、猫は目を細めて、か細く鳴いた。

 二階の端に住むおばさんがゴミを出した時、猫は残念そうな表情で、見送った。

 車で通りかかった派手な女がブランドの紙袋だらけのゴミを捨てたら、猫はしっぽを膨らませて、睨んだ。

 一階の真ん中の部屋の兄ちゃんがゴミを出した時、猫は目を丸めて、見ていた。

 三階に住む小学生が登校ついでにゴミを置いたら、猫はニャーとかわいく鳴いて、立ち上がった。

 三階の真ん中の部屋の兄ちゃんがゴミのつまった段ボールを捨てたら、猫はため息をついた。

 一階に住むばあさんが小さなゴミ袋を置いたついでに猫を見やったら、目を閉じて、のどを鳴らした。


 おそらく、猫は…住人のゴミの出し方を見て、何らかの感情を抱いている。


 燃えるゴミの日なのに、燃えないゴミを出す人を見て、咎め。

 燃えるゴミの日に、燃えるもので包んで燃えない物を忍ばせる人を見て、呆れ。

 アパートの住人専用のゴミ捨て場なのに、ずうずうしく利用する人を見て、腹を立て。

 いつもきちんとゴミの分別ができていることに、感心し。

 お母さんのお手伝いをする子に、行ってらっしゃいと声をかけ。

 ゴミ出しルールを知ろうとすらしない住人に、幻滅し。

 独り暮らしの住人に、家族のようなまなざしを送り。


 猫は、あんなにも豊かな感情を伝えているのに、誰一人として…気付かない。


 人というのは、こんなにも…猫の表情に無頓着なものらしい。


 人というのは…、こんなにも、気がつかないものらしい。


 ……そうだな。


 僕が、ここで……、ずっと見守っていることにすら、気が付けないんだもんな。


 誰か、一人ぐらい……、気付いてくれても、良さそうなものなのに。



 僕が、恨めしい目を、アパートの二階に向けると。



 ゴミ捨て場の、塀の上の、猫が……、僕の方を、見て。



 …ぅうー、フッ、しゃああああああアアア!!!



 全身の毛を逆立てて、激しく……、威嚇…、したのだった。

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