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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十七話 追う者
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17-2.追う者

 リールとキット達は食材の確認をし、昼過ぎにまた大陸の港へ来た。


「戻りは夕方で大丈夫だな?」


 キットが聞くと、カットが「夕食の分の食料は間に合うはずだ」と答える。それで明日の分の食料を調達しに行く事にした。港を出る前にキットはリールに声をかける。


「おれを大人に戻してくれ」


 キットの台詞にアクロスが驚く。


「え!? 大人に戻っていいのか!?」

「……島外なら」


 リールは静かに答える。


「じゃあおれも戻してくれ!」


 アクロスがリールに訴えると、カットも「……じゃあ、おれも」と続ける。


「わかった。服はある?」

「あ、ねえ……」


 アクロスが消沈しかけている所へキットが口を出す。


「おれのを着ろ。何枚かは持ってきた」


 物陰でキットは服を脱ぎだす。全裸になったキットの後ろにリールは立った。そしてキットの首の付け根辺りに手を当てる。


「痛みは肩代わりしなくていい」

「え、でも」

「いいと言っている」

「……わかった。結構痛いと思うから、覚悟しといてね」


 リールの手の平からキットに熱のような力が流れ込む。百四十五センチメートルの小さな体になっていたキットの体は徐々に膨らみ、元の百九十二センチメートルの巨体に戻った。その瞬間にキットは立っていられない程の痛みを体全体に感じ、膝をつく。


「ぐうう……!」


 思わず声の漏れるほどの痛み。しばらくその痛みに耐えてから、キットは顔をうつむかせたまま笑った。


「ハハ、ハ。おまえ、こんな痛みに耐えていたのか……」

「ぼ、ぼくはある程度は軽減する事はできるから……!」

「え!? 痛いのか!?」


 横から見ていたアクロスが慌てる。


「いや、大丈……」


 ぼくが肩代わりするから、とリールが答える前に、キットが口を出す。


「そいつらの痛みも肩代わりしなくていいぞ」

「で、でも……!」

「子供に戻す時もだ。必要ない」


 そう言われ、リールはためらいながらも痛みを肩代わりせずにアクロスとカットを大人に戻す。


「いってええええ!」


 まずアクロスが叫んだ。アクロスとて身長は百八十センチメートルある。百六十センチメートルだった子供の姿の時からニ十センチメートルも変わるのだから、その痛みは激しい。


「いてええ! マジかよ……!」


 カットも思わず叫んだ。キットと同じように子供の時の姿が小さいカットは、四十センチメートル以上も変わる。涙まで浮かべ、悶絶したくなる程の痛みに必死で耐える。


「あ、あの、大丈夫……?」


 リールは今からでも痛みを取れないかと、おずおずと手を伸ばす。しかしそれはキットが止めた。


「なんとかオーケーだから、向こう向いててもらえるか?」


 痛みの取れてきたアクロスが振り返って言う。


「う、うん」


 リールは気まずそうにアクロス達から離れた。リールが後ろを向いた所でアクロスとカットは服を着る。


「十代の頃の成長痛を思い出したぜ……」


 アクロスが服を着ながらそう言うと、着替え終えたキットも頷く。


「ああ、あの頃おれは毎日泣いていたな」

「おれも……」


 キットに殴られた傷跡がまだ治っていないカットも呟く。大人になった勢いなのか、カットの傷から再び血が滲みだしたのを見て、リールは慌てて鞄を漁り、新しいキズテープを張り直した。





 キットの服に着替えた三人は、三人ともタンクトップに短パンの姿になった。筋肉質なキット、カットと比べて、少し細身なアクロスは恥ずかしそうに頭を掻く。


「ちくしょう、おまえらと比べるとやっぱりおれ貧相だよな。ちょっとヤマシタに上着借りてくるわ」


 上着を借りてきたアクロスはそれを羽織りながらキットに聞く。


「で? どうするんだ?」

「もちろん街を歩く。カット、ヘアバンドもあったろう。耳と尾を隠しておけ。騒ぎにする気はない」

「おう」


 キットとカットはヘアバンドを被って耳を隠し、尾をズボンの中に入れる。少しお尻の方が膨らむ形になったが、たぶん気づかれないだろうというくらいだ。


「街を歩くなら、ぼくは別行動で食材調達しとこうか?」


 リールが聞く。


「いや、一緒がいい」


 キットが答えると、アクロスも「あまり土地勘もねーしな」と続ける。リールは「わかった」と言って、キット達についていく。


 四人は町の大通りに出て歩き始めた。リールは向こうには何がある、こっちには何がある、と説明し始めた。それを聞きながらも、キットとカットは自分達をちらちら見る人間達の視線を感じていた。アクロスもその視線に気づいている。


「有尾人とかどうかじゃなくて、単純におまえら目立つよな」

「なぜだ?」

「でかいからかなあ? 格好もちょいあれだけど。あとはまあ、おまえら面も割といーし、なんとなく雰囲気もあるし」

「ふむ……」


 キットは何か考えている風に少し唇を尖らせる。


「あ、買い物してかねー? ヤマシタの上着小っちゃくって。ていうかできれば全部買い替えたい」


 ヤマシタは百七十に届くかどうかというくらいの小柄な男だ。体に似合わない大きめの上着を羽織っている事がよくあるが、それでもその上着はアクロスには小さかったし、何より古臭いデザインなのでアクロスは早く脱ぎたがっていた。それに兄弟のカットは気にしていないようだが、アクロスにとっては他人のキットの服を着ているのにも抵抗があった。


「あ、でも今、手持ちの金があんまねーや」


 アクロスは財布を覗き込みながら言う。


「じゃあ先に銀行寄る?」


 リールが聞いてくる。


「大人用の服は支給じゃないの」

「それは自費。というか子供の時の服代も上限あるからね」


 リールは言いながら、「あ」と思い出したように言った。


「そう言えばキット達、銀行口座作ってないよね……?」

「作ってないな。おれはあるけど」


 銀行口座とは何だ? と言いたげなキット、カットの代わりにアクロスが答える。


「報酬は現金じゃなくて振込なんだよ。完全に失念しちゃってたな……あとドルもか……口座作りに来させなきゃな……」


 リールがぶつぶつ言っている間に、アクロスはキットとカットに銀行口座の説明をする。


「おれ先にカードで買っとくわ。それから銀行行こうぜ」


 アクロスはどうしてもさっさと着替えたいらしく、適当な服屋を見つけてその中に入った。


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