16-5.ミルキィとメラニア
カットを殴り続けるキットを、アクロスが後ろから羽交い絞めにする。
「キット、やめろ! 落ち着け!」
子供の姿になり、アクロスよりも小さくなったとはいえ、それでもキットは力が強い。
(くそ、子供の姿でよかったぜ。大人の姿だったら抑えきれねえ……!)
アクロスが何とかキットを抑えている内に、カットは上半身だけ起こし、口から流れる血を拭う。そして涙を流し言った。
「できねえ……できねえよ……おれはおまえに色んなものをもらいすぎて、そして捨てさせてきた。でもおまえはこの島で、本当に欲しいものを手に入れる。そのためにおれに頼んだ。頼んでくれた……できねえよ! 大好きな兄ちゃんが、初めておれに我がままを言ったんだ!」
キットは本当に苦虫でも嚙み潰したかのような顔をした。
「おまえは……本物のバカだ……!」
キットは少し落ち着いてから言う。
「離せ、アクロス。こいつをぶっ殺してやりたいが、これ以上殴ってもバカはバカだ」
羽交い絞めから解かれたキットはもう一度周りを見回す。やはりリールの影はない。
「アクロス、ヤマシタとやらに電話しろ。リールの居場所を確認したい」
「お、おう……くそ、携帯、家だ」
家まで走り出そうとしたアクロスは急に立ち止まる。道の真ん中にアラドが倒れていた。
「うお、何でこんな所に」
アクロスはアラドを起こそうとするが、アラドは目を覚まさない。
「キット!」
アクロスはキットを呼び、アラドを一緒に家に連れていこうとする。
「いい、おれが連れていく。おまえはリールの居場所を確認しろ。カット! この男を運ぶのを手伝え!」
カットは立ち上がり、黙って従う。キットとカットはアラドを両脇から抱え、リールの家まで連れていく。そしてそこにもリールの姿がない事を確認した。家を出るとアクロスが走ってくる。
「ダメだ! リールはヤマシタと一緒じゃない!」
「……港には、いなかったはずだ」
カットもぼそっと答える。
「バカは、おれもか……!」
キットは肩を震わせた。キット達が焦燥感に駆られている中で、当のリールは数十分後には姿を現した。キットは泣きそうに顔をしかめてリールに近づく。
「おれはおまえまでいなくなってしまったかと……!」
リールは平静な顔で答える。
「二人が出ていくと言って、ショックだったんだ。だから少し遠回りして頭を冷やしてた。もう大丈夫だよ」
リールはリールの手を取ろうとするキットを避けるように腕を払う。
「大丈夫だよ、キット。ぼくはこの島から出ていかない。この島にいる限りは、君とも一緒にいられるよ」
「本当……だな?」
「ああ、もちろん」
リールは表情を変えずに答えた。
次回 第十七話 追う者