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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十六話 ミルキィとメラニア
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16-4.ミルキィとメラニア

 ミルキィはカット達にこの事態を知らせるために走っていた。キット、カットも既に寝ていた所だったが、起こされて外へ出る。そして港に出る前に、歩くリールとそれを追いかけるアラドの姿を見つけた。


「リール、どうした? 何があった?」


 キットがリールを呼び止めて聞く。


「メラニアが島を出る事になった。仕事で急用ができたんだ。ぼくは彼女を送っていくよ」

「待てよ、リール。いったい何があったんだ」


 アラドも追いついてきてリールに問う。


「メラニアが……」

「その女の話じゃない。おまえに何があったんだ?」

「何もないよ」


 リールの様子には、アラドは勘が鋭い。リールはそれでも無表情を装って答える。


「リール」


 キットとアラドが同時に呼ぶ。リールはしばらく沈黙した後、ぼそっと言った。


「計画が頓挫(とんざ)するかもしれない……」


 リールは二人に背を向けながら言う。


「悪いけど、一人にしてくれないか?」

「嫌だ」


 二人はまた同時に答える。アラドとキットはお互いを見ず、リールだけを見つめている。


「君らには本当に参っちゃうな。わかった。とりあえずメラニアを見送りたいんだ。大人に戻してあげなきゃいけないし。女性の着替えなんだから、兄ちゃんとキットは遠慮してよね」

「……すぐ戻ってくるんだな?」


 アラドが聞く。


「戻ってくるよ」


 リールはそう言って歩き出した。ミルキィはリールの後を追い、追いながらカットに声をかける。


「カット! カットも来てよ!」


 カットは立ち止まっているキットを気にしながらも、ミルキィの後を追った。






 メラニアを港に連れてきたアクロスは、ヤマシタが操縦してくるボートが来るのを待っていた。メラニアは額を押さえ、ふらふらしている。


「なんでリールを殺そうとしたんだ?」


 アクロスはメラニアの様子を窺いながら聞く。


「存在しちゃならないのよ、あの人……メサィアを殺して、メサィアになり替わろうとしてる……」

「そうは思えねえけど」

「メサィアは普通の殺し方ができないのよ。それがよく分かった。だから特別なやり方が必要なのよ。恐らくそれがこの計画……」

「……全部、憶測だろ?」

「憶測で悪い? わたし達は……」


 言いかけた所でメラニアはリールが近づいてきたのに気づき、また肩を震わせた。ヤマシタが運転するボートも到着する。ミルキィはがたがた震えているメラニアの肩を抱え、メラニアについていくと言った。


「わたし、メラニと一緒に行く。カット! カットもついてきてよ!」


 カットはその言葉にためらう。


「でもキットが……」

「キット、キット、いつもキット! わたしとどっちが大事なのよ、バカァ!」


 カットは下がる事も、前に出てミルキィに触れる事もできない。まるで怯えてでもいるかのような表情で戸惑っている。


「……もういいよ! カットのバカ! 大っ嫌い!」


 リールは船の中に乗り込んだメラニアを大人の姿に戻す。そしてその横で震えて立っているミルキィを見る。


「ミルキィ」

「いいから、お願い……!」


 リールはミルキィも大人の姿に戻す。服を着替えたミルキィは船室から出て、再びカットの方を向く。カットは肩を震わせて叫ぶ。


「行くな……ミルキィ……!」

「カットが来てよ! わたしはメラニに助けられた! メラニを放っておくなんて絶対にできないよ!」

「おれは、おれだって……」


 なおも迷って動けないカットを見て、ミルキィは目に涙を溜める。


「もういい……もういいよ。あんたなんかに、許すんじゃなかった……!」


 ミルキィはカットに背を向けて、船内にこもる。その二人の様子を見て、リールはカットにも聞こえる声でヤマシタに話しかける。


「ヤマシタ。ミルキィの身の安全に最大限の配慮をするよう要請しておいてくれ」

「はい。了解です」

「カット……本当にいいのかよ」


 アクロスはカットに声をかけるが、カットは目を閉じ、こらえるように顔をしかめたまま何も答えない。そしてボートが出港し、見えなくなった所で膝を折った。


「ミルキィ……!」


 しばしカットの嗚咽する声が響いた。






 その頃キットとアラドは同じ場所に立って、リールが歩いていった港の方向を見ていた。お互いに目線は合わせない。


 キットには分かった。リールはこの少年の事を兄ちゃんと呼んでいるが、恐らく本当の兄ではない事。なぜならこの男もリールを愛しているがゆえにここに立っているのだろうと思えたから。


 そしてアラドの方も分かっていた。このキットという男はリールを特別に思っているんだと。リールを巡る争奪戦が、今始まったんだと二人は理解していた。


 お互いの無言の牽制が、二人を動けなくさせていた。


 しかしやがてアラドは眠気に耐えられなくなった。大人を子供にするという魔法の負荷が、アラドの自由な時間を奪っている。


「遅い……! くそ……」


 ふらつき始めたアラドは仕方なく踵を返す。


「リールが戻ってきたら、必ず引き留めておけよ……手は、出すな……!」


 家の方向へ戻るアラドには一瞥もくれず、キットはただ前を見て立っていた。






 アラドが行ってからほどなくしてアクロスとカットが戻ってきた。


「リールはどうした?」

「え? あ、わからん。一緒に船に乗ってたか?」


 アクロスは後ろを向いて確認するが、リールの姿はない。カットは何も言わずただうつむいている。そのカットを見てキットは訝しむ。


「ミルキィはどうした?」


 カットは沈黙している。


「メラニアと一緒に行くって」


 アクロスが代わりに答えた。


「それでなぜおまえがここにいる?」


 カットの表情は暗がりの中でよく分からない。アクロスも説明しきれず、ただカットの様子を窺っている。カットはようやく口を開いた。


「おれは……キットといる」


 その瞬間、カットの頬にキットの拳が飛んだ。


「追いかけろ! 今すぐ!」


 キットは怒鳴るが、カットは顔を上げない。


「おまえは、おれと同じ過ちをするのか!」


 カットは何も答えない。キットはカットを押し倒して、馬乗りになり殴り始めた。


「行け……! おれに殴り殺されたくなければ、行け!!」


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