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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十六話 ミルキィとメラニア
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16-1.ミルキィとメラニア

 リールは再会したキット、カット、アクロス、ミルキィと、そしてミルキィを保護していた女性のMA、メラニアを子供の島へ連れてきた。


 島の港で出迎えたアラドは急に人数が増えた事に驚いていたが、黙ってキット達を子供にしていく。キット達はもちろん、MAのメラニアも子供の姿になった事に驚く。


(こんな力、聞いてない! なぜタルタオ様はこれを報告していない……!?)


 この子供の島の住人となっているタルタオはMAではなく、メサィアを神とするリアル教の聖職者の一人だ。しかしリールがメサィアの指示で動いている部下だと思っている法王バイロト・アンダマンの指示で、タルタオはこの島に来た。本来ならタルタオはこの島の現状を報告しなければならないはずだ。だが、この島の内情をタルタオが報告したという話を、メラニアは聞いていない。


 メラニアはメサィアにそっくりなリールを睨むように見つめる。


(まさかメサィアがもう一人現れたという噂は本当だったの……? わたし達は何も聞かされていない。何も! 報告しなければ、あの方に……)






「キット、この妙な力は」


 十二歳くらいの子供の姿に変えられたカットは、子供の服に着替えながら、同じく十二歳くらいの姿に変えられたキットに話しかける。


「ああ、リールが先におれ達に触れたな。あの子供(アラド)の力とは思えない。リールの力だ」

「こんな事に一体何の意味が……」

「わからん。興味もない。おれのやる事はここであいつを手に入れる事。カット、すまんがおまえもそれまでこの茶番に付き合ってくれ」


 カットはぴくっと反応して、大きく頷いた。


「ああ、もちろんだ」


 アクロスはキットとカットの話を後ろで聞いていた。


(こいつはあんなにも熱い目で、あのリールという女を見てる。とてもじゃないがおれには真似できねえ。こいつがリールを手に入れるのを、おれは見てみてえ)


 それぞれの思惑をよそに、船の中で子供の服に着替えてきたミルキィが、ぴょんぴょん跳ねながら出てくる。


「すごーい! こんな魔法が海蛮人の世界にはあるんだ!」


 無邪気な顔でくるりと周り、カットの近くに寄ってくる。


「本当によかったのか、ミルキィ。親の元へ戻らなくても」

「わたしカットの隣がいいもん。カットが行方不明の子を探しに行っている間、寂しかったけど、もうこれからは一緒にいられるんでしょ? なら帰る理由なんかないよ!」


 少し子供っぽい喋り方をするミルキィを、カットは愛しそうに見つめる。キットもそんなカット達を見て、僅かに笑みを浮かべた。






 それからリールに連れられて、キット達は島の中の道を歩いていった。少し崩れかけ、誰も住んでいなさそうな民家のある場所を抜けると、新しめのコテージハウスが見え始める。するといつもスケッチブックを持っている赤毛のカイナルがちょうど家から出てきて、キット達一向を見つけた。


「何? 新しい人?」

「そうだよ。こっちがキットで、こっちが……」

「いいよ、どうせ後でみんなの前で紹介するんでしょ? ぼくはカイナル。どうぞよろしく……って」


 カイナルはキットやカットを不思議そうに見つめ、それからその後ろに回り込んでお尻に生えている尻尾を見つける。


「へー、この島を尻尾の人のために用意したって本当だったんだ」

「カイナル、彼らは少し違う……」

「どっちでもいいよ。じゃ、ぼくは行くから」


 カイナルは手を振って行ってしまう。


「この島は、何のためにある?」


 キットが改めてリールに問う。


「この島にはスパ族やニウエ族の子もいるんだ。彼らを人々の好奇の目から避けるために、今はこの島に滞在しているんだ」

「そうか」


 キットとカットは内心ほっとした。人の好奇の目に疲れていたのはキット達もそうだったからだ。少なくともこの島では自然体でいられる。そう思うと胸を撫でおろさざるを得なかった。






 それからリールはキット達に住む家を決めさせようとした。新しいコテージハウス風の建物にはミルキィとメラニアが住むと言った。


「ミルキィ、一緒の家じゃないのか?」

「だってまだ結婚前だもん。わたしメラニと一緒の家にする」


 ミルキィはメラニアの腕に絡みつく。ミルキィは保護されてからずっと側で面倒を見てくれていたMAのメラニアを、強く信頼していた。メラニアもミルキィを保護対象として以上にかわいく思っているようで、ミルキィを優しい笑顔で見ている。


 カットは少し残念そうな顔をしながらも、ミルキィの言う事も最もだと、一緒の家に住むのは諦める。


 キットとカットは食堂から少し離れた古い家屋に目をつける。その家はほんの少し実家の家に雰囲気が似ていた。その家の縁側に入っていくと、中から長い尻尾を持った女の子、ニウエ族のリントウが腕組みしながら出てくる。


「すまない、先客がいたのか」


 立ち去ろうとするキット達をリントウが止める。


「いいぞ」

「何?」

「おまえ達がこの家を使え。わし一人では広すぎると思っていた所なんだ。わしは隣の小さい家に移る」

「いや、しかし……」


 リントウは縁側に降りて草履を履く。


「おまえ達が来る事はリールに聞いて知っていた。同じ有尾人ならこういう家の方を好むと思ってたんだ。掃除はしてあるから感謝しろ。ああ、こっちの隣にはスパ族が住んでいる。面倒事は起こすなよ」


 そう言いながら庭を出ていこうとするリントウに、リールが声をかける。


「いいの? リントウ」

「いい。わしはずっと待っていたんだ。キットという男を。歓迎くらいはしてやる」

「リントウ……」


 アクロスはその台詞を聞きつけてキットに聞く。


「キット、知り合いか?」

「いや、知らないな」


 キットは不思議そうな顔をしながら、リールに促されて家の中に入った。キット達は縁側に座り、そこに面した庭にリールは立つ。


「じゃあいい? この島で生活するルールを説明するからね。この島では子供の姿で生活すること。それから島での生活はみんな役割分担しているから、その割り当てられた仕事をすること。そうだな、君達には居住区周辺の清掃でもしてもらおうかな。ん~ブラックが暇になっちゃうかな、どうしようかな」


 リールはその他にも外部との連絡は控える事などや、古びた家屋の片付けなどもあると説明していた。


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