15-17.キットゥス・ハウイ
リールはヤマシタの所にいるドルの元へ向かった。ドルは大人しく椅子に座っていた。リールもドルの前に椅子を置き、そこへ座る。ドルは静かな表情で聞く。
「……泣いたの?」
「フフ、そう見える?」
リールは力なく笑った。
「わかんない。けど、痛そうだよ」
リールは瞳を潤ませた。そして肩を落として呟く。
「前は兄ちゃんに抱きしめられるのが好きだった。でも今はそれがとても怖い。気持ちが潰れてしまいそうだ……」
「……おれなら大丈夫?」
「……うん」
ドルは立ち上がってリールに近づく。
「じゃあおれが抱きしめてあげる。痛くて苦しい時はおれが抱きしめてあげる。そしたらまた笑える。潰れそうでも、立って歩けるよ」
ドルはリールを抱きしめた。
「おれが、リールのお兄ちゃんになってあげるよ……」
キットは待ちすぎるくらい待った。既にMAとなったアクロスと、もう一人メラニアと言う女性のMAに連れられて港まで来る。
遠目にリールの姿を確認した瞬間、キットは走った。足がもつれそうになるくらい必死で走った。リールの驚いている表情など見る暇もない。後ろに下がろうとするリールを抱きとめ、その唇にキスをした。またキスをし、またキスをした。
「キ、キット……! やめてくれ……!」
リールの静止の声など聞こえない。またキスをし、そしてリールを抱きしめた。
「会いたかった……! 会いたかった……!」
目からは涙が零れ落ちる。一日置いた時間が、壊しそうなほどキットの心を締めつけていた。
「キット、離して、くれ」
リールは体をよじろうとするが、キットは離さない。ただ抱きしめて男泣きしている。リールは必死で叫ぶ。
「キット、この際だから言っとく! ぼくは、君の気持ちには応えられない! ぼくは今、とある計画に関わっているんだ。ぼくにはその計画が全てなんだ。そこでようやくぼくは解放される。君に関わっている暇は、ない……!」
キットはリールの顔を覗き込んだ。涙が止まらず流れている。
「ならば待つ。もう何度も何度も充分すぎるほど思い知った。おれにはおまえが必要なんだ」
リールは辛そうに顔を歪ませ、キットから離れようとキットの体を押す。
「キット、君は世界を見てきたはずだ。世界は広い。そこでは君を必要としてくれる人が必ず現れる。君にはぼくとは違う誰かと幸せを見つけてほしい」
キットは涙ながらに「ハッ!」と息を吐いて笑った。
「おまえはこれ以上おれを泣かせる気か。おれが出会ったのはおまえだ。おまえ以外の女などいるものか」
「キット……!」
キットはリールの手を自分の頬に当てた。涙がリールの手を濡らす。キットは微笑んで言った。
「おまえがおれのものでないと言うのなら、おれはおまえを手に入れる。おれにはおまえが全てだ」
夏の入り始め、ぐずつきかけている空の雲間から太陽が僅かに顔を出し、その日差しが二人を照らした。
次回 第十六話 ミルキィとメラニア




