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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十五話 キットゥス・ハウイ
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15-15.キットゥス・ハウイ

 キット達を好奇の目で見て、それと同時に恐れる。そのような事が巡る国々どこでもあった。攫われた女達は思いのほか順調に見つかっていたが、それはMAやそれに協力する機関の力によるもので、実質キット達は何もできてはいなかった。


 どこかの国に入ろうとするたびに、身体検査と消毒が行われる。キットとカットは疲れを見え隠れさせながらも、それでも攫われた女達の捜索に当たっていた。






 キットとカットはまた船で移動し、キットは船の窓からぼーっと外を見ている。そんな時間が増えているのがカットには分かった。


「キット、言えよ」

「何だ……辛いのはむしろおまえの方だろ」

「うるせえ! 言えって言ってるんだよ!」


 カットは鼻にしわを寄せて怒鳴る。キットは困ったように笑った。


「ハハ……おまえの怒った時の面、親父にそっくりなんだよな……敵わねえよ」


 それから少し間を置いてキットは呟きだした。


「なんでおれ、手を離した……? 大事にするって、大切にするって言ったのに、なんで……」


 キットはうつむいて涙を流した。


「会いたい……会いたいよ、リール」


 カットはようやく本音を言ったキットをじっと見ていた。だが何も言えはしなかった。お互い恋人を失った痛みを強く感じていた。






 しかしやがて、カットの恋人のミルキィが見つかった。見つけたのはキット達とは別に動いていたリールで、カットとの再会を果たせるよう、ホールランドと言う場所に保護したと連絡があった。ほどなくホールランドについたキットとカットは洞泉宮と呼ばれる宮殿に案内される。


「ミルキィ!」

「カット!」


 ミルキィとカットはお互いを見つけた瞬間に抱きしめあう。二人は涙を流して再会を喜んだ。


 それを安堵した表情で見ていたキットは、ミルキィの来た方向からさらに複数人の者が来ているのに気づいた。黒服の警護の者に囲まれるようにしてゆっくり歩いてくるその姿は、リールにそっくりな少年だった。キットは思わず走り出した。


 カットも歩いてくる者に気づき、それがリールかと思う。だがキットはそれが求めているリールとは違う者だという事は一目見た瞬間から分かっていた。


「リールはどこだ!」


 襲い掛かる勢いで走ってくるキットを、護衛の者達は慌てて取り押さえようとする。しかしキットは止まらず、護衛の者三人を引きずりながら、なおもリールに似た少年の元へ近寄ろうとする。少年はぼそっと言った。


「リールはぼくなんだけどな」


 キットはその言葉になぜか怒りを覚え、護衛の者を振り払い、少年に掴みかかろうとした。その瞬間、横にいた護衛の者がキットを恐れて発砲した。しかしその発砲した銃口の前には少年の手があった。薬指が飛び、その根元からは血が噴き出た。


「痛い」


 少年は指を吹き飛ばされた自分の手を見て、表情を変えずに言った。さすがのキットも驚いて動きが止まっている。


「も、申し訳、申し訳ありません……!」


 発砲した女性の護衛は、全身を震わせて発狂しかける。その護衛の者を他の者が下がらせた。その後姿を眺めながら少年は呟く。


「あのバカ、ぼくのエージェントを壊すなよ」


 そしてキットの方に向き直った。


「大丈夫。気づいてるよ。君を庇ったのはぼくじゃない。あいつ、君がよほどお気に入りのようだ」


 キットは再度護衛の者に抑えられ、少年を睨みつけている。


「君が探しているぼくに会いたいのなら、会わせてあげるよ。今とある計画を計画中でね。行方不明者探しが終わったら、君もそれに参加するといい。あいつはそこにいる。そこでの計画が終わる頃までに君らの夢を叶える方法を考えておけばいいさ」


 少年は護衛の者から飛ばされた薬指を受け取り、飛ばされた部分にまたつけた。そしてそれを驚きながら見ているキットに背を向けて去っていった。






 行方不明者の捜索が順調すぎるほど順調にいっていた中で、有尾人の人身売買をしていた闇の組織の者は、有尾人が取り返されていく事に対する報復をもくろんだ。有尾人の捜索に協力している国際機関GIFTに、リアル教が関わっていると知り、無差別にメサィアの容姿に似た少年少女達を殺害したのだ。それは世界中を巻き込んだニュースになった。


 金色の髪と金色の目を持つ者。それを狙う殺し屋。行方不明になっている有尾人を追うリールを狙ったのは、望まずに殺し屋になったブラックだった。ブラックもその後、子供の島の住人となった。


 無差別な報復を行う闇組織には、リールだけでなくメサィアと呼ばれるもう一人のリールも珍しく怒りを燃やした。MAとその協力機関、そしてメサィアの力を使い、闇組織の幹部の居場所を突きとめ、メサィア自らがその幹部の前に立った。発砲されてもメサィアは倒れず、逆にその心の内に侵入した。


「やめろ……! おれの中に入ってくるな……!」


 メサィアは静かだが冷たい瞳を向ける。


「君はたくさんのぼくを殺した。その罪からはもう逃げられないよ」


 男は胸を掻きむしって、四つん這いに倒れる。


「胸が……潰される……!」

「ぼくは人を殺せるようにはできていない。だが君の心を苦しめ続ける事はできる。一生ぼくの影に怯えて生きるといい」


 メサィアは血を吐き倒れ、目を閉じる。男は自分の体が重力に押し潰されるような感覚を受ける。


「こ、殺してしまった、尊い方を……! 大事な方を……! うわああああ!!」


 メサィアの力により男は発狂し、無差別のメサィア殺人事件は一応の幕を閉じた。






 リールは行方不明者探しに参加していたが、キット達とは別行動で会う事はなかった。リールはイランのいた国で最後の行方不明者の行方を探りだした。キットと別れて八か月、子供の島の計画も始まっていた五月に入った頃だった。


 ただ、もうその子はこの世にいなかった。購入者はその子を大切に扱っていたと言っていたが、慣れない環境のストレスで、その子は衰弱し、死んでいった。


 リールはMA達と帰る道を違え、その子の残した感情を感じて一人でひとしきり泣いた。そして落ち込んだ表情で大通りの歩道を歩く。交差点の歩道橋の上にはイランがいた。イランはタバコを吸い、歩道橋の手すりにもたれかかっていた。


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