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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十五話 キットゥス・ハウイ
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15-9.キットゥス・ハウイ

「ほら見ろ」

「なんだよ、じいちゃん」


 カラムの言葉にゲンジが首を傾げる。


「おれもおまえの親父もそうだった。カットもそうだろう。うちの家系の者は大体そうだ」

「だからなんだよ、じいちゃん」

「みんなこの女と決めたら、それ一筋だ。周りが何と言っても聞きやしねえ。キットの奴も治れば次はこの女、なんて器用にいくタマかよ」

「それはそう……だが、おれは前の嫁が死んだ後、また嫁を取ったぜ」


 ゲンジは黙々とご飯を食べているエクレアを指す。


「エクレアも前の旦那を亡くしたからだろう。その時だって周りは反対してた。おっと、悪いな、エクレア」

「いいえ、お構いなく」


 エクレアは淡々とした表情で言う。


「まあおれはあれが嫁でも悪くねえとは思うがな。他の年寄り連中が何と言うか」

「ぼけたか、じいちゃん。海蛮人の嫁なんてありえねえ。あれはどうせ外に帰る女だ。キットの前から消える女なんだよ。こんな都合のいい相手は他にいねえぜ」


 ゲンジはキットが消えていった襖の向こうを見る。


「あいつがやれるようになりゃそれでいいんだ。それはあいつが頭領になるって事を受け入れたって事なんだからな」


 そうかもしれねえけどな、と言いたそうにしながらも、カラムはただ唸って頭をぼりぼりと掻いた。






 リールを連れて外沿いの廊下を歩いていたカットは不意に振り返る。


「リール、もう一度だけ聞く。本当にいいんだな?」

「う……ん。セックスは好きな人とするものなんだろう? ぼくキットの事好きだよ」


 その言葉を聞いて、カットは少し表情を曇らせる。


「どうしたの、カット。何か迷ってる?」


 カットはリールから視線を外して外の方向を見る。


「さっきのキットの顔を見て思った。おまえ達が本当に好きあってるんなら酷じゃないかとよ」


 カットは厳しい声で呟く。


「でも選択肢はねえ……!」


 リールはこれまでの日々を思い出すように話す。


「ぼくね、キットにはとてもお世話になったんだ。キットの役に立てる事があるなら、ぼくはそれをしたい」


 カットは視線をリールに戻す。


「役に……? それだけなのか、おまえ?」

「うん。ぼく、キットにお礼がしたいんだあ」


 リールは無邪気な表情で笑った。カットはそんなリールを見つめた。


「そうか。そのくらいなら……かえってそれくらいの方がいいのかもしれない。それでもおまえには酷だが。リール、湯浴みをして待ってろ。おれはキットを探してくる」

「うん、わかった」






 キットは庭から続いている林の前にいた。この先をずっと抜けると海岸に出る。リールとはそこで出会った。


 キットはリールが来てからの日々を思い出す。自分が痛みに耐えてまで人の痛みを取る姿。危険なニメクキウヨラ族の少年を、自分が毒に侵される危険を顧みず救う姿。どれもこれもバカな行動だ。だが自分達を有尾人と(あざけ)り、(さげす)んでいたなら絶対にできない行動だ。リールは痛みや苦しみに顔を歪める事はあっても、でもいつも嬉しそうだった。誰かの役に立ちたいといつも言っていた。


「なんて、バカな女なんだ……!」


 キットは木に拳を当て、息をついた。リールの笑顔が胸を絞めつける。キットは思った。抱きたい、抱いてみたい、と。自分に心も体も委ねるリールの姿を見てみたいと。


 後ろにカットが来た気配を感じた。カットが声をかける前に、キットは声を発する。


「カット、おれはリールを抱くぞ。あいつが無理なら、もうどんな女だって無理だ」


 カットは黙ったままキットを見る。


「リールの準備ができたら教えろ。おれが自分で行く。もうおまえに引っ張られていくのはたくさんだ」


 カットは静かに「わかった」と答えた。






 湯浴みを済ませたリールはカットに連れられて離れの家に来ていた。奥の板の間には毛皮の敷物が敷かれ、毛布代わりの布がたくさん置かれている。カットはその真ん中にリールを座らせる。そして「少し待ってろ」と言い、出ていった。


 リールは周りを見渡す。半分が土間で、半分が板の間のその家は天井が高く、一人でいるには中は広い。土間の所は半分物置小屋として使われているようだが、板の間の場所は衝立(ついたて)(ひつ)が置かれているだけで、その他の物はほとんどなくきれいに掃除されている。


 リールの胸はドクン、ドクンと鳴っていた。


(なんだ……? 少し胸がざわつくような……)


 扉が開いてキットが入ってきた。リールはその姿を見て肩を震わせる。


(ぼく、怖いのか……?)


 キットはリールの横に腰を下ろした。そしてリールの肩を抱く。その近づいた体から感じるキットの体温は、リールには熱く感じた。汗の臭いの混じる体臭も、嫌には感じないが、彼が男であるという事を強く意識させられる。


「キ、キット。あの、やっぱりぼく怖い」

「うん、おれもだ」


 キットは怯えているリールを見つめ、そっと触れるようなキスをする。リールは唇をきゅっと閉じた。


「力を入れるな。ゆっくり深呼吸しろ」


 リールは言われた通り、深く息を吸って吐く。「はあ」と息を吐いたリールの肩をもう一度抱きしめ、キットはまたキスをする。またキスをし、またキスをする。リールの頬は紅色に染まり、まだ少し怯えた目でキットを見る。キットはリールの頬を撫ぜた。


「できるだけ、優しくする」


 キットはリールの首筋にもキスをし、リールの着ている服をはだけていく。数分もかからず、リールは完全に服を脱がされた。キットは半分隠れるように縮こまっているリールを見る。


「きれいだな……すごく、かわいい」


 キットは自分も服を脱いだ。下半身を露出させると、リールは少し後ずさった。






 その頃ゲンジとカラムは二人で食後の酒を飲んでいた。カラムがぼそっと呟く。


「しかし、初めてでキットはちと驚くかもな。女の方が逃げてた時もあったんだろ?」

「ま、そこはしようがねえよ。うちはそういうもんだ」


 ハウイ族の頭領が「ハウイの巨人」として有名なのには二つ理由がある。それは百七十強がせいぜいのハウイ族の中で、百九十センチメートル前後の身長があること。そしてその一物の大きさだ。慣れた女ならまだしも、初めての女には驚かれるような大きさがある。リールもキットの下半身を見て怯えた。


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