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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十五話 キットゥス・ハウイ
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15-8.キットゥス・ハウイ

 夕方、食事前にカットは離れの家を掃除していた。それが終わるとガシガシと頭を掻きながら離れの家から出てくる。そして裏門となっている辺りも掃除しようとほうきを取りに行こうとしていた所に、門の向こうから三十代くらいの男が声をかけてきた。男は酒でも飲んでいるのか、顔を赤くしてにやにや笑っている。


「よお、カット。またインポの若頭のために女用意してんのか? ご苦労なこった。あんなのが次の頭領だなんて示しがつかねえよなあ?」


 カットは男のいる所へずんずんと歩いていく。そしてその胸倉を掴んだ。


「てめえ、もういっぺん言ってみろ!」


 カットとて体格はキットと変わらず、百九十三センチメートルの身長がある。歳はだいぶ若いとはいえ、筋肉質な大男に掴まれて、男はたじたじとなる。


「か、陰ではみんな言ってるぜ! 女も抱けねえんじゃ頭領の資格はねえ! キットよりカット、おまえの方が資格はあるんじゃねえかってな!」


 カットは歯ぎしりして、その頭一つ分は小さい男を持ち上げる。


「いいか、頭領になるのはキットだ。あいつ以外ありえねえ。バカな噂話もたいがいにしろよ……!」


 カットは男を突き飛ばすようにして服から手を離し、男に背を向けた。男はバランスを崩して尻もちをつく。


「ったく、服が伸びるぜ。カットの野郎、あいつの兄貴好きももう病気だぜ」


 男はカットに聞こえないように言い、いそいそとその場を後にした。カットは庭の掃除に戻り、乱暴にほうきを取り出しながら一人で叫ぶように呟く。


「キットが一番だ……! おれはその側にいたいんだ。おれが頭領なんてありえねえ。キットにはどうしても女を抱けるようになってもらう……!」


 カットはその瞬間、何かを考え、そして取り出したほうきを投げるようにまたしまった。






 カットは家の裏庭に行き、リールを探した。リールは縁側に腰かけ、ぼーっとしていた。カットはリールの前に立つ。


「カット、どうしたの?」


 カットはリールを見下ろすように立っていたが、リールの問いに答える前に地面にあぐらをかいて座る。


「リール。おまえ、キットの事好きか?」

「うん、好きだよ」


 リールはいきなりの質問にも戸惑わず、素直に返事する。


「彼、優しいよね。ぼくここに来て彼と出会えて、本当によかったって思ってるよ」


 それを聞いたカットは頭を垂れる。


「リール、一度でいい。一度でいいから、キットを男にしてやってくれないか」

「男に……? 彼、立派な男の人だと思うけど」


 カットはじれったそうに顔をしかめる。


「そうじゃあねえ……! あいつはこのままじゃ男になりきれねえんだよ……! バカみてえな事かもしれねえが、おれ達にとっては重要なんだ。あいつに抱かれてやってくれ……!」

「抱かれる……」

「セックスしろって事だ。あいつが女を抱ける本物の男だって事を証明したい!」


 リールは少し困ったように視線を泳がせる。


「ぼく……した事ないけど……」

「それでもいい。あいつだって初めての女に優しくする事くらい心得てるはずだ」

「ん……うん……」


 それでも迷っていそうなリールにカットは再度聞く。


「キットの事好きか?」

「うん……好き、だよ。彼の事を考えると、こう……ほわっと胸が温かくなる」

「ならいい。それでいい。キットに抱かれてやってくれ」


 リールは返答に困りながらも、かろうじて頷いた。






 それから夕食時になり、いつものように頭領のゲンジ、その祖父のカラム、ゲンジの妻のエクレア、そしてキット、カット、リールが食事の席に集う。早飯のゲンジはさっさと食べ終わり、食後の酒をあおる。そしてぐいっと口を拭いて、話を始めた。


「カットから聞いたぜ。リール、キットと寝てくれるんだってな?」


 その言葉にキットが咳き込む。


「ぐっ、ごほっ、ごほっ、な、何?」

「ちょっと嫌ですよ、食事時にそんな話」


 あまり口数の多くないエクレアが眉をひそめる。


「ああ、すまねえな。でもちゃんと確認しときたくてな」


 キットは詰まらせかけた食事を飲んだ後、ゲンジに向かって抗議する。


「この子は一族の人間じゃないんだぞ!?」

「一度でいいんだ。治ればそれでいいんだからな」


 ゲンジの代わりにカットが答える。キットはカットを睨む。


「正気か、カット」

「リールには悪いと思ってる。だけどおれ達に取っちゃ、おまえが治る事の方が重要だ」

「親父、親父も同じ考えか」


 キットは睨む目線をゲンジにも送る。ゲンジは片膝を立てて、キットの視線に対抗する。


「ああ、おれはさっさと孫の顔が見てえんだ」

「大きいじいちゃんもか」


 キットはまだ食事を続けているカラムも見る。カラムは口からこぼれた飯を取りながら答える。


「おれは少し反対だよ。取り返しのつかねえ事になりそうな気がしてな」

「なんだよ、じいちゃん。取り返しのつかねえ事って」

「わかんねえかなあ……」


 ゲンジの問いにカラムはぶつぶつ呟く。キットはゲンジとカットを睨み回した。


「見損なったぞ、親父も、カットも」


 カットもキットを睨み返す。


「何とでも言え。毎回失望してんのはこっちなんだ。ちょっとくらい見損なわれたって考えは変わらねえよ」

「これは命令だぜ、キット。リールさえよけりゃ、寝ろ。幸いリールは胸はちと足りねえが美人だ。おまえの好みからそう外れてもいねえだろ」

「そういう問題か!? リール! リールはどうなんだ!? こんな話を本当に引き受けるのか!?」

「う、うーん。ぼくした事ないけどいいのかな……」


 リールはまだためらっているように呟く。


「初か。まあ物は試しだ。やるだけやってダメなら仕方ねえよ」

「そ、そう。まあそれなら……」


 ゲンジの言葉におろおろとしつつも頷くリールを見て、キットは拳を震わす。


「ただの交尾じゃないんだぞ!? 抱く、という事がどういう事か……!」


 キットはそれだけ吐き捨てるように言い、部屋から出ていく。カットも立ち上がる。


「リール、食べ終わったか?」

「うん」

「母さん、洗い物はおれがやるから置いといて。リール、行こう」


 カットはリールを連れて出ていく。それをカラムがじっと見つめていた。


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