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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第十話 オラデア・カルパティエ
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10-7.オラデア・カルパティエ

 それは逆立った柔らかい金髪の頭に、少し釣り目のドルだった。


「リールに何したんだ!?」


 ドルは過剰とも思える反応で、オラデアを睨みつける。オラデアはそんなドルの様子を不審に思いながらも、静かに答える。


「何もしてねーよ。ただおれはこの島を出ていくって話をしただけだ」


 その言葉にはドルだけではなく、ドルの後ろから入ってきたダンも驚いた。


「な……なんで?」


 ドルが聞く。


「おれはここには必要ねーから」

「ひ、必要ないってなんだよ! みんな必要だからここにいるんだろ! まさかリールがそんな事言ったのか!?」

「ちげーよ。おれはこのままここにいても何もできねー。だからおれはおれのやりたい事を探してえってだけなんだよ」


 ドルは少しだけ考えてまた口を開く。


「それ、この島の計画が終わってからじゃダメなの」

「まあ、今迷ってるとこ」

「じゃあ……さ!」

「バカ、ドル。男の旅立ちを邪魔するような真似するんじゃねーよ」


 食い下がろうとするドルを、ダンが止める。そう言うダンの瞳は潤んでいる。


「ダン……泣いてんの?」


 ドルが言うと、ダンは目をこする。普段涙なんて見せる事のないダンが、鼻をすすっているのを見て、オラデアは少し呆れたように言う。


「何でおまえが泣いてんだよ」

「おれ、おまえの事好きだったからよ。そりゃ泣いちまうわ」

「おれそっちの趣味はねーって言ってるだろ」

「おれもねーよ」


 ダンといつもの掛け合いをしたオラデアは、少しため息をついた。


「まあ何か決めてるわけじゃねーから、いてもいーんだけどよ。ちょっと別の問題も出てきたし」

「別の問題?」


 ドルが不思議そうに聞く。


「この計画が終わると、もうリールと会えなくなっちまうんだとよ」

「えっ、なんでだよ?」


 ダンが驚く。ドルはぴくっと一瞬だけ反応する。


「さぁ……」


 オラデアはリールを見るが、リールは顔をうつむかせたまま答えない。代わりにリールを庇うようにしながらドルが答えた。


「わ、わかった。じゃあせめて終わるまでは一緒にいよう!?」


 オラデアはそう言うドルをじっと見つめる。


「おまえがそんなにおれといたがるなんて思わなかったけどな」

「!」


 ドルは言葉に詰まる。


「まあいー。とりあえずこの話は保留だ。騒がせちまって悪かったな」


 オラデアはドルに連れられて帰りかけたリールに声をかける。


「リール、バカな事考えるなよ」

「おまえ、知ってんの?」


 ドルがオラデアの言葉に反応して聞く。


「何をだ?」


 オラデアはドルの言葉が意図するものが分からず聞き返す。


「い、いや」


 ドルは言葉を濁しながら、リールを送っていった。その後姿が見えなくなると、オラデアはダンに声をかける。


「おい、ダン。この計画の事、ちょっと調べた方がいいかもしれねえ」

「どういう事だ?」

「ドルの事といい、ちょっと腑に落ちねー」

「ドル?」


 ダンは訳が分からず首を傾げる。


「なんかちょっと嫌な予感がするんだよな」


 オラデアはリールが消えたドアを見つめていた。






 夕食前になって、リールはいつも通りアラドに声をかけられた。


「リール、食堂に行こう」

「……兄ちゃん、ごめん、先行ってて。ぼく少しやる事があるから」


 リールはアラドに背を向けたまま答える。


「? 待ってても」

「いいから、大丈夫。すぐ行くから」

「……わかった」


 アラドは大人しく一人で食堂に向かう。リールはアラドに背を向ける向こうで苦悶の表情を浮かべていた。アラドの好意をこんな形で避ける。そんな事が長く続かないのは分かっていた。






 食後になると、今度はキットがリールに声をかけてきた。


「リール、在庫確認の時間だ」

「ああ……ごめん、今行く」


 リールはキットを真っ直ぐに見れない。目線を逸らすように答える。キットはリールを倉庫に行くように促すが、リールがなかなか動かない。


「いい、先行ってくれ」


 リールはまるでキットといる時間を一秒でも短くしたがっているように見える。キットが訝しんでいる所へ、オラデアが見かねて寄ってきた。


「おい、リール。バカな真似はするなって言っただろ」

「なんだ?」


 急に声をかけてきたオラデアに、キットが不思議そうに振り向く。リールは辛そうに顔を歪めているだけで何も言わない。オラデアはリールとキットを押すようにしながら、倉庫まで来た。リールの肩に触れているオラデアを見て、キットは気に食わなそうに顔をしかめながらも、オラデアに促され倉庫の中に入っていく。


 オラデアは倉庫に誰もいない事を確認すると、リールを棚に押し当て、その顔を覗き込むように見た。


「いいか。おれの事は気にするな」


 オラデアはリールに自身の好意を示してしまった事で、リールがそれを気にしてキットに変な態度を取っているのだと思った。自分の好意に気を使ってほしくない。オラデアはそう思っていた。


「おまえ、何してる」


 リールに接近しているオラデアの行動が理解できずに、キットは詰め寄ろうとする。オラデアはそのキットに邪魔されないように右手でキットを制した。そうしながらオラデアはリールに話を続けようとする。


「リール、おまえはおまえの」

「何をする」


 オラデアが何か言う前に、キットは自分の前を遮るオラデアの右手首を掴んだ。そして強い力で抑え込もうとする。それを見たリールがとっさに反応した。


「やめろ! オラデアの右腕に触るな!」


 ほとんど突き飛ばすようにキットを押す。思わぬ攻撃にキットはバランスを崩しかけ、それから睨みつける。


「何の真似だ?」


 キットはリールの腕を捻り上げるように掴む。キットにそのつもりはなかったのだが、本人が思うよりも強いその力に、リールは痛みを感じる。その瞬間、キットの顔にオラデアの拳が飛んだ。オラデアも力は人並み以上にある。今の子供の姿で体の小さいキットは吹き飛ばされるように棚にぶつかり、棚から備品が落ちた。


 キットは口の中を切り、唇から血が流れ落ちそうになるのを手で拭った。リールは怯えて目を逸らした。


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