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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二話 共感
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2-1.共感

 黄土色の髪の青年が一人きり、彼の家のダイニングにいた。青年は背中を丸め、肩を落として座っている。


(なんだったんだ、ぼくの人生は。何か呪われているのか)


 青年はそう考えていた。青年はうなだれたまま、動かない……






 子供の島、子供だけしかいない小さな島。そこには現在二十五人の子供達がいる。それぞれ空き家だった古い家屋や、観光リゾートの成れの果てであるようなコテージハウスに住んでいる。


 子供達はみな十二歳くらいだが、一人だけ十八歳くらいの子がいる。その十八歳くらいの子というのが、身長が百七十八センチメートルあり、よく男の子に間違われるリールという女の子だ。金色のショートヘアの髪に、金色の目を持っている。


 リールはパジャマ姿で足を組んで椅子に座っていた。リールの反対側に座っているのはラウスだ。ラウスは背中を少し丸め、両手の指を交互に組んだ姿勢で座っている。夜は更けており、リールと一緒に住んでいるアラドは既に寝ている。実質リールとラウスの二人きりだ。


 ラウスの表情は厳しく、非難するようにリールを睨みつけていた。


「リール! この計画はなんだ!? なぜ大人が子供にされている!?」

「うーん、そういう実験と思ってもらえれば」


 責められているというのに、リールの表情はどこか涼しげだ。


「聞いた事もないぞ、こんな……」

「だから実験してるんだろ?」


 リールは苦笑したが、すぐに真面目な表情になって答える。


「ぼくに新たな力が発見された。それを検証するための極秘の実験」

「……なぜ、彼、アラド・レイが君の力を使っているんだ?」

「ぼくの強い力を直接受けると、みんなの体に負荷がかかりすぎるからね。兄ちゃんを通す事でみんなの負荷を軽減している。兄ちゃんの負荷は大きくなるけど、兄ちゃんとぼくは相性がいいから、かなりの所まで耐えられる」


 ラウスは少し顔をしかめる。アラドへの負荷が大きいと言うのは心配だが……と思いながらも、次を質問する。


「観測者は誰だ?」

「ん?」

「この実験の観測者は?」

「ああ、ぼく? 一応責任者だし」


 雑にも思えるリールの返答に、ラウスは怒りよりも悲しみに近い感情に襲われた。


「リール……! ぼくにウソはつくなよ……!」


 リールはそんなラウスを見て少し視線を落とす。


「ラウス、ぼくはね、大人を子供にするという実験をする事になり、そしてその間だけ自由が許された。だからこの島を作った。この計画の間、せめてみんなが家族のように過ごせたらいいと思ってね」

「家族……?」

家族が(・・・)いたら(・・・)楽しい(・・・)じゃ(・・)ない(・・)?」


 リールは顔を上げ、にこっと笑った。邪気のない笑顔だった。ラウスはその笑顔に一瞬言葉を失う。


「ラウス、昔みたいに笑ってよ。みんなに危害が加わるような事はない。約束する」


 ラウスはその言葉を聞いて、少し考えた。


「……わかった。でもぼくはこの計画の事を調べる。いいね?」


 リールは少し沈黙するが、諦めなさそうなラウスの目を見て静かに答える。


「……計画の邪魔をしないのなら」


 それがラウスがこの島に来た日の夜の会話だった。






 季節は六月。居住エリアは少し小高い丘になっており、木々の向こう側には海が見える。その上には真っ青な空と白い雲が続く。


 この子供の島には朝、昼、晩の食事の時間に子供達が集まる食堂がある。食堂は座敷のエリアと椅子のエリアがあり、二十五人の子供達が入ってもまだ少し広いくらいの広さがある。


 テーブル席の一番奥に座っているのは、リールに兄ちゃんと呼ばれているアラド。その隣には黒髪黒目のイランが座る。イランはいつものようにタブレットをいじって、新聞記事を読んでいる。


 イランの隣はラウスの席で、アラドの前はリールの席だ。リールとラウスは食事の準備が終わるまでは座らず、壁側に二人並んで立っている。そして他の子に声をかけたり、二人でお喋りしたりしながら、にこにこと食堂を見渡している。


 この島には有尾人と呼ばれる尻尾が生えた希少な人種がいる。キットやカットなどがそうだ。その有尾人達はみんな座敷の席だ。有尾人は椅子に座って食事を取る習慣がないからだ。座敷の席は襖で区切る事もできるが、基本的にいつもそこは開かれ、椅子のあるエリアと繋がれたままになっている。


 キットは入り口に近い座敷の席で壁を背にして本を読んでおり、隣にはアクロス、手前にはカットが座る。隣のテーブルには、キット達と毛色が違う有尾人の子達が座っている。


 食事の時間が近くなって、みんなが揃い始めている。みんな見た目は十二歳くらいの子供だが、食堂内ではあちこちでお喋りが聞こえるくらいで、それ以上の喧騒はない。


 ワゴンを押して、ルテティアという女の子が入り口側にあるテーブル席に食事を運んできた。そこに座っているのはタルタオ、カイナル、ブラックという少年達だ。ルテティアも彼らも、みな有尾人ではない普通の人間だ。


 ルテティアは食事の乗ったお盆を、タルタオの前に置く。ルテティアは色素の薄い髪を後ろで三つ編みにしており、いつもワンピースを好んで着ている。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 タルタオは丁寧な返事をする。タルタオは黒髪で太い眉が特徴だ。そのタルタオの手に、ルテティアの手が僅かに当たる。その時、妙な感覚――思念をタルタオは感じた。タルタオはとっさにルテティアの様子を窺う。ルテティアは特に変わりなく、配膳を手伝うために立ち上がったブラックにお盆を渡して戻っていった。






 食事が済んだ後、タルタオはさっそくルテティアに声をかけた。


「ルテティア、ちょっとよろしいですか」

「え? あたしまだお片付けが」

「少しでいいです」


 イランはたまたま二人の会話が聞こえる位置にいた。ルテティアとタルタオは連れ立って食堂を出て行く。


(珍しい組み合わせだな)


 そんな事を考えながら、イランも追うような形で食堂を出た。


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