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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第九話 六?
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9-3.六?

 いつものラウスなら誰かがケンカしていると仲裁に入る所だが、サーシャの反撃を考えるとどうにも口を出す気にならない。なので、困ったように眺めているだけだ。


「あの二人、あれからずいぶん元気になっちゃったな」

「フン、女が騒がしいのはいい事さ」


 独り言を聞かれていた事に驚き、ラウスは振り向く。そこにいたのはリントウだった。今この島にいる有尾人の中では唯一の女の子だ。赤毛の長い髪と長い尻尾を持つ。いつもきつめの顔をしていて、古臭い喋り方をする。


「ぼーっと突っ立っている暇があれば、テーブルでも拭きな。わしは忙しいんだ」


 リントウはお盆に乗せていた台拭きの一つをラウスに渡す。


「あ、ハイ」


 座敷の近くに立っていたラウスは座敷の席を拭けという事かと思い、靴を脱いで座敷に上がり、テーブルを拭きだす。座敷は主に有尾人の子達の席だ。有尾人に苦手意識のあったラウスが、有尾人の子達の席を拭くなんて、少し前までなら考えられなかった事だ。リントウもまさかラウスが座敷の席を拭いてくれるとは思ってなかったようだ。


「おまえ、もう少しわしらの事を避けているかと思ったが、最近少し変わったな」

「え、ハハ。エドが来た時に自分の狭量さを思い知らされました」


 なぜか敬語で答える。


「気づいて改められるなら、おまえはいい男さ。わしがあと五十年若ければ、嫁になってやってもよかったくらいだ」

「五十……」


 ラウスは思わず今は十二歳くらいの子供の姿のリントウを見るが、リントウは構わず他の子に台拭きを渡しに行っていた。ラウスは少し照れたように、頬を掻いた。






「サーシャ! キーシャ! いい加減にしなさい!」


 アンナの怒声が飛ぶ。どうやら双子はまだケンカしていたようだ。


「ダン! あなた、なんとかしなさい!」

「なんでおれ!?」


 以前の指名に続き、またも名前を呼ばれた事にダンは驚くが、アンナの迫力に負け、渋々双子に近づいていく。


「あ、あのな、サーシャ」


 ダンが近くに来た事に気づいたサーシャは、ダンの腕にまとわりついた。


「見なさい! この人、わたしだけに優しいのよ! あんたなんかに優しくしてくれる人なんていないでしょ!」

「な、な、な……! すぐ、男に、媚び売りやがって……!」

「何よ! 羨ましいからってひがむんじゃないわよ!」


 ダンが入った事で余計状況が悪くなった事に、アンナはしかめ面でため息をつく。そして今度はリールに声をかける。


「リール」

「ん」


 名前を呼ばれただけだったが、何を言わんとするのか察したリールは、仕方なく双子に近づいていく。


「あのね、サーシャ、キーシャ。君ら本当にいい加減にしなよ」

「何よ! おつむの緩い女が出しゃばるんじゃないわよ!」


 相変わらずのサーシャの暴言に、リールはカチンと来たように頬をピクピクさせる。


「は? 何言って……ぼく、君のために……本当に君ねえ!」

「余計なお世話だって言うのよ、このバカ!」

「バ、バカ!?」

「悔しければあんたもそのバカな頭を守ってくれる人探せばぁ? あたしにだけ優しいこの人みたいに!」


 サーシャはまたダンを引っ張りだす。もう堪忍ならないというように、リールも叫びだす。


「なんだよ! ぼくはダンに頭撫でてもらって、おんぶもしてもらった事あるんだからな!」

「な、なんですって、この淫売!」


 ますます混乱する現状に、アンナはまた眉根を寄せて重たくため息をついた。


「おまえ、モテ期?」


 オラデアがダンに言う。


「針のむしろなんだが……」


 ダンは脱力して、サーシャに振り回されるままになっていた。






 その頃、もう一人のリールは法王バイロト・アンダマンと話していた。


「うーん……」


 もう一人のリールは珍しくやや表情のある顔つきで、横を見ている。


「どうなさいました? リール様」

「あっちのぼくが女の子とケンカしてる……」

「おや、いい事ではありませんか」

「そう?」

「今まであなた(・・・)とケンカなんてする方はいらっしゃらなかったのではありませんか? あなたの作った家族はとてもいい家族のようですね」


 バイロトは嬉しそうな顔で笑う。


「そ、そうかな?」


 もう一人のリールは戸惑いながら返事した。






 食堂に併設してある倉庫内では、イラン、キット、ブラックが作業していた。イランが食堂から聞こえてくる声に耳を澄ませる。


「なんか食堂の方が騒がしいな?」

「リール……と、双子の声」


 ブラックが答える。


「女のケンカには関わらないのが一番だ」


 キットはそう言って食堂の喧騒には耳を傾けないようにしている。イランは消耗品を整理して、個数をキットに報告していた。キットはそれを記入している。ブラックはトイレットペーパーなどの補充品を持って出ていった。


「しかし、おまえらが来てからおれ割と暇になっちゃったな」


 イランが倉庫内の品物を並べながらキットに言う。


「おまえは他にもリールの仕事を手伝う事があるんだろう? 最近はアラド達に勉強を教えているようだし、ここは任せてくれても構わないぞ」

「ん-、でもおまえ並べ方がちょっと雑だしなあ」


 イランは品物のラベルをきちんと前に向けていく。


「まあおまえはきれいにしてくれるから、助かるがな」


 その後に二人の間に()が開いた。イランは以前夜中にリールと抱き合っていた影と、ドルがキットとリールに言った「恋人らしい会話すればいいのに」という台詞を思い出す。作業の終わったキットが立ち上がり出ていこうとする所を、イランは呼び止める。


「キット、おまえさ……」

「なんだ?」


 イランは備品の棚の方を見たまま言葉に詰まる。


「いや、やっぱりいい」


 キットはイランに向き直った。


「おまえ、何回か同じ事言ってるぞ。言いたい事があるなら言え」


 イランはそうだったかなと思いつつ少し慌てる。


「いや、ちょっとどう聞いていいものか」


 イランの言葉を待っているキットに、イランはうまい言い回しも思い浮かばないまま喋りだす。


「その、ドルが言ってた……おまえって、リールの事が、好き、なのか……?」


 キットはまっすぐイランを見た。そのまなざしにイランはたじろいだ。


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