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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第九話 六?
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9-2.六?

 この島は小さな島とはいえ、イラン達が住んでいるエリアから離れた北側の方にも建物が密集している地帯があった。恐らく以前は百かそれくらいの島民はいたんじゃないだろうか。


 ラウスは少し休憩するように掃除をしている手を止めて、つけていたゴム手袋を外す。


「この島を用意したのは恐らくMAだと思うが……でも確かに大がかりすぎると言えばそうかもしれない。リールはこの大人を子供の姿にする実験を極秘に行うために必要だと言っていたので、それで納得していたんだが……」

「それにしてはキット達は島外に出てるよな。リールの言う事が嘘だとは思わないけど、でもおれ達は完全に隔離されているわけじゃない」

「つまり、何が言いたいんだい?」


 ラウスは少し眼光を鋭くして、イランを見つめる。イランは「たぶんだけど」と前置きして答える。


「この島を用意したMAって、人数がそんなに増えないって事を知らなかったんじゃないか?」


 MAとはメサィアの指令を受けて動くメサィアの部下だ。メサィアと同等の力を持つリールも、メサィアと同格に見られており、特にヤマシタというMAはリールに従っている。


 イランの回答を聞いて、ラウスは考える。


「もしかして、ヤマシタ以外のMAはこの島で大人が子供の姿にされている事を知らない?」

「その可能性は高いと思う」


 同じくMAのアクロスも知らなかったみたいだし、と付け足してから、イランは言葉を続ける。


「これがどっかの組織とかの実験だったらさ、おれ達は徹底的に管理されて、監視の目があるのが自然だろ? でもこの島にはカメラすら設置されてる気配がない」


 イランが道を歩いている時、時々上を見上げたりしていたのはカメラを探していたのかと、ラウスは合点がいく。ただラウスも監視が全くないと思えるこの計画の状況は不思議に思っていた。


「つまりこの島の計画は、アクロスが言っていたようにリールが個人的に計画した可能性が高いという事か」

「ただリールはこの計画の後に自分の望みを叶えてもらえるみたいな事言ってたし、誰かの指示だという可能性も捨てきれないけどな」

「ならば、その誰かとはこの島の誰かの可能性もあるか? アラド……は、考えにくいか」

「アラドが自分自身に負荷をかけてまで、ってのは考えられなくもないけど、それだとアラドが望みを叶えてもらうっていう方が自然だな。どうしてもリールのためにそうしてるって考えるなら、やっぱりリールの望みを叶える誰かってのは他にいるんだろうし」


 ラウスはまた考え込む。


「やはり初期メンバーがカギ……だな。前々から考えていたが、この島の計画が始まってから、誰がいつこの島に来たのかの記録表を作りたい。そしてできればみんながこの島に来る事になった理由も知りたい」


 イランはそれには頷かず、少し押し黙った。


「ちなみに君は」

「言いたくない」


 イランはラウスから目線を逸らして下を向く。


「めっちゃ言いたくない」


 ラウスはしようがないなと言いたげに頭を掻く。


「まあそうだよねえ。やっぱりみんなそうなのか、そういう話題は避けてる感じがあるし」

「おまえはどうなんだ。誰かを探しに来たとか言ってたよな?」


 ラウスは気まずそうに口ごもる。


「まだ言えない……かな」

「ダメじゃん」


 ラウスは「面目ない」と肩を落とす。そして掃除が終わった二人は帰途につく。


「あー、埃っぽくなっちゃったな。夕食前にシャワー浴びてくるか」


 そう言いながら伸びをしているラウスを見ながら、イランはラウスに聞く。


「ちなみにさ、あの後ローリーに話は聞けたのか?」

「ああ、うん。でもねえ、カイナルに口止めされたって言って話してくれなかったな」






 ラウスは話を邪魔するカイナルがいない時に、子供の島の計画について何か知っていそうなローリーともう一度話した。しかしローリーは後ろ手を組んで、気まずそうに目を泳がせた。


「あのね、カイナルが余計な事言っちゃダメだって」

「なぜ?」

「わかんない。わたしが一番困るでしょって」

「何が困るの?」

「わかんない。だからわたしも今は何も言えないかも」

「そう」


 それ以上聞いても無駄だと感じたラウスは、真顔から優しい笑顔に戻る。


「ごめんね、何か詮索してしまったみたいで」

「ううん、こっちこそごめんね。何も答えてあげられなくて」


 ローリーとの会話はそれで終わった。






「やっぱりローリーとカイナルは初期メンバー、だよな?」

「そうだろうねえ。リール、アラド、ローリー、カイナル。他の初期メンバーも把握したいところだな」


 ラウスは指を一本ずつ伸ばしながら数えていく。


「ブラックとグルジアもほぼ開始直後に来てる。何も知らないとは言ってたけど」

「話してくれるとは限らないけど、もう一度話を聞きに行ってみるか」

「カイナルとブラックは一緒に住んでるから、今度行ってみるか?」

「うーん。ぼく、カイナルは苦手かも。ああいう話の通じないタイプはちょっと……」

「じゃあおれが行くよ」


 イランが仕方ないなと言うように言うと、ラウスは二度目の「面目ない」を答えた。






 シャワーを浴び、夕食の時間が近くなって、ラウスは食堂へ行った。キッチンを覗き、食事の用意をしているブルーに声をかける。


「やあ、ブルー。後で君に話があるんだけど」

「わたしはないわよ」


 そう一蹴してブルーはそっぽを向く。取り付く島もないブルーの態度にラウスはため息をついて落ち込む。ラウスがブルーに振られている後ろで、双子のサーシャ、キーシャのケンカが始まっていた。


「何よ、バカ! 不細工!」

「わ、わ、わたしが不細工って言ったら、お、おまえもなんだからな!」

「違うわよ! わたしはきれいだって言われたもの!」


 今までの静かだった二人はどこへ行ったのか、大声でケンカを繰り広げている。サーシャの暴言にキーシャは必死で抵抗しているが、口ゲンカではサーシャの方が一枚上手のようだ。


 声を聞いて、キッチンのクレイラが顔を出して「ケンカしないで、二人ともかわいいわよ」と声をかけるが、サーシャは「違う! わたしの方がきれいなの!」と叫んでいる。二人のケンカは誰にも止められないのが現状だった。


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