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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第八話 ダン・バハ
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8-7.ダン・バハ

 軍服を着ているダンは、上官がいる部屋の中で椅子に座るよう促され、話をしていた。


「もう、戦えません……!」


 ダンは頭を抱え込み叫んだ。


「ダン・バハ軍曹」

「もう、戦えません……!」


 ダンは同じ言葉を繰り返す。上官はため息をつく。


「いいだろう。退役を許可する」


 ダンは驚いて顔を上げる。


「ある人から君について口添えがあった。本来ならあんな子供の言う事など相手にしないのだが、なぜか……いや、とにかくだ。君はもう自由だ。どこへでも行くがいい」






 ダンはリールの後姿を見つめた。


(やっぱりあれは……)


 上官の言った子供とは、今目の前にいるこの少女の事だろう。ダンはそれを確信していた。


(バカな奴だ。本当は報酬なんて、とっくにもらいすぎるほど、もらってるっていうのに)


 ダンは食堂内を見渡した。ここでは子供達がみんな穏やかに笑っている。


(くっそ、出ていきてえなんて嘘だな)


 ダンはそう思う自分がいるのに気づいていた。






 その後の夕食中、リールは顔をしかめて眉間を抑えた。食事に不満があったわけではない。ただ煩わしい何かが頭の中で響いている。


「リール、どうした?」


 リールの様子に気づいてアラドが声をかける。


「いや、なんでも……」


 そう言いつつも、リールは目を閉じ、明らかに苛立つ様子を見せている。いつもにこやかなリールが、そんな風にしているのは珍しい事だ。リールの隣の席のヴィルマもそれに気づいて声をかける。


「リール?」

「うるさいな! なんでぼくに文句言うんだよ!」


 突然リールが叫ぶ。それに驚く周囲の子供達。


「あ、ごめん、ヴィルマ。違うんだ。えと……」


 そこまで言いかけてから、リールは再び顔をしかめて目を閉じる。


「どうしたおまえ……?」

「うるさい! 直接言えばいいだろ!」


 アラドが言った瞬間に、再びリールが怒声を上げる。アラドは自分に言ったものかと思いびっくりするが、すぐにそうではなさそうだと気づく。


「ハ? 知らないよ! これで話しかけるなってば! 嫌だよ! やめろって!」


 一人芝居をしているようなリールに注目して、食堂内はしんとなる。リールの力を知るタルタオが、立ち上がってリールの側に来た。


「テレパシー、ですか?」

「そう、ぼくの共感能力逆手にとって、通信してくんの。もう変な所でコツ覚えちゃって」

「そういえばそんな事できるみたいな話、してたな。エドが来る前に」


 イランが以前タルタオとしていた会話を思い出すと、ラウスが「そうなの?」と聞く。アラドはそれを聞いてようやくリールの奇行に納得がいく。


「うるさい! もうこれで話しかけてきても、ぼく返事しないからな!」


 リールはまた叫び、頭を抑える。


「これ頭が痛くなってくるから、ホントに嫌なんだよ。喋れるんだから、口で言えばいいのに」

「リール、そんな事言わないでよ」


 そう言ったのはルテティアだ。ルテティアに注目が集まるが、ルテティアはそれを気にせずうつむいたまま喋る。


「喋れない子だっているよ。うまく口に出せない子だっているよ。本当はもっとみんなと話したいのに、それができない子だっているよ」

「わかってる……けど、この子の場合……」


 リールはそれでもなおイラついている様子を見せる。静かな食堂内で、小さなケンカの声がだんだん大きくなってきていた。






 双子のサーシャは片方の手で口を抑えてうつむき、もう片方の手でキーシャの腕を押している。キーシャはそれを嫌がり、サーシャの手を何度も払いのけている。


「……だ。……嫌、嫌だ……って」


 そのサーシャとキーシャの静かな争いに周りも気づき始める頃、キーシャはたまらなくなり立ち上がった。


「やだ……って言ってるだろ! 自分で、行け、行けよ!」


 いつも大人しいキーシャが叫んだので、食堂内のみんなが驚いてキーシャを見る。キーシャはそれに気づき、真っ赤になった。


「おまっ、おまえのせい、だ!」


 キーシャはそう叫んで食堂から出ていってしまう。ローリーがキーシャを心配して追いかける。アンナはしかめ面をしてため息をついた。食堂内がざわつきだす。


「なんか今日うるさくない?」


 カイナルは口にご飯を放り込みながら隣のブラックに言う。ブラックはそれには答えず、静かにサーシャの名を呼ぶ。


「サーシャ」


 名前を呼ばれたサーシャは一瞬ビクッと体を震わす。それからこらえきれないというように、震えて立ち上がった。口を抑え、もう片方の手でテーブルを伝っていく。


「どうしたのよ、あんた」


 通りがかりに聞いてくるブルーにも構わず、サーシャはリールの元へ辿り着く。リールは椅子を半分回してサーシャに向き直った。まだそこにいたタルタオが少し下がる。


「何?」


 リールは怒ったような声で言う。その態度に、リールにテレパシーで話しかけていたのはサーシャなのだと、タルタオは気づく。


 サーシャは震えていたが、口から手を離し、視力の弱い目で必死にリールを見た。そして今まで聞いた事もないような大きな声で言った。


「あんたなんか大っ嫌い! 不細工!」


 誰も予期していなかった言葉に、食堂内は再び凍り付く。一瞬の間を置き、アラドだけが反応して立ち上がりかける。


「おまえ、リールに何を……!」

「うるさい! 低能が、バカみたいにリールの事だけに反応してんじゃないわよ!」

「て、ていの、バカ……!?」


 思わぬ反撃に、アラドは言葉を失くす。代わりにラウスが立ち上がる。


「あのね、とりあえず落ち着いて」

「黙れ! 一番うさんくさいやつが喋るな!」

「え!? ぼく、うさんくさい!?」


 ラウスは隣のイランに振り向く。「まあ……」と返すイラン。アラド、ラウスが怯んだ隙に、サーシャはリールに再び暴言を吐いた。


「あんたなんか大っ嫌い! あんたなんか大っ嫌い! この男好きのバカ女!」

「は……?」


 あまりの暴言にリールも一瞬言葉を失くす。だがすぐ正気に戻り、声を上げる。


「はあ!? それぼくの事、言ってるのかよ!」

「他に誰がいんのよ! 淫売女!」

「い、淫売……!?」


 リールはまた言葉を失くす。その頃マイペースなエドアルドはカットの隣で食事を取りながら、キットに声をかける。


「あれいーの?」

「女のケンカに関わる気はない」


 キットはそれだけ言うと、黙々とご飯を食べ続けた。


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