7-4.ラウスの正体
次の日の午前中、ラウスは畑で土いじりをしていた。畑にはトマトやきゅうり、なすびなどの野菜が植えてある。そこではブラック、グルジアという男の子達と、ローリーという栗毛の女の子も雑草を取ったり野菜を収穫したりしていた。少し離れた所では、ルテティアが花の世話をしている。
「おーい、ラウス。……仕事中?」
イランが歩いてきてラウスに声をかける。
「うん、君もやる? 土いじり。楽しいよ」
「おれはいいや。虫とか苦手」
そう言ってからイランは用件を切り出す。
「それよりおまえさ、オフィス欲しいって言ってたじゃん? よさそうな所あった」
「え、早いな!」
「オフィス?」
ルテティアがどこかへ行ってしまった所で、ローリーが二人の会話を聞きつけた。
「ああ、ちょっと空き家探してて」
「向こうの家はダメだよ!?」
島の中では比較的新しい建物のコテージハウスにも空き家はあった。そこは今は出て行ってしまった子達の家だった場所だ。イランもそれは知っている。
「わかってるって。別のとこだよ」
「……イラン達、何してるの……?」
ローリーは心配そうな顔で聞いてくる。
「おれっていうか、ラウスが?」
「ああ、ぼくはこの島が作られた理由を調べようと思っててね」
ラウスが言うと、ローリーはどこか不安げな表情を浮かべる。
「なんで?」
「ローリー、もしかして何か知ってる?」
「……わたしの質問に先に答えてほしいかも」
ラウスは真顔になってローリーを見た。
「ぼくはある人を探しにこの島へ来た。そしたらこの島では大人が子供になるなんて、不可思議な現象が起きている。その理由を知りたいと思った」
「おまえそれ、めっちゃ個人的な理由じゃないか? 誰かに依頼されたとか言ってなかったっけ?」
ローリーが沈黙している間に、イランが口を挟む。
「依頼されたのはリールの事を調べる事と、この島にいる子達のサポートだよ」
「リールの事を調べる……?」
なお不安そうに眉尻を下げているローリーに、ラウスはにこっと笑う。
「次はぼくの質問に答えてほしいかな」
「えと……何が知りたいの……?」
ラウスはまた真顔に戻った。
「なぜリールはこの島を作った?」
「なぜって……誰かを助けたいと思ったって言ってたけど……」
ラウスとイランは、以前タルタオがリールに言っていた言葉を思い出す。タルタオは「あなたが誰かを助けたいと思ったから、この島を作ったんじゃないですか」と言っていた。それとローリーの言葉は合致する。
「なるほど、じゃあ」
「次、わたしでしょ?」
「ああそうだね、ごめん」
ローリーとラウスが話している間に、向こうから声がして人が歩いてくる。
「なんでよ! いいじゃない!」
「えー、この前もしたじゃない。ぼくも結構忙しいんだよ?」
「あんたあのキット、カットとかいう人達が来てから、だいぶ暇になってるでしょ!」
「暇って……ひどいなあ」
声の主はいつも怒ったように語調の強いカイナルと、それに気圧されながら答えているリールだ。イランはその方向を見るが、ラウスとローリーは構わず会話を続けている。
「なんでリールの事を調べてるの……?」
「これはちょっと説明しにくいんだけど、リールというより、メサィアの事を調べてるんだ」
「メサィアってリアル教の……?」
「そう、元々ぼくの仕事がそれに関連してた事でね。ある人から改めて依頼を受けたんだよ」
カイナルはローリーがラウスとイランに囲まれているのに気づいた。その間にもラウスとローリーの会話は続く。
「リールが不思議な力を持っているのは知っているだろう? リールがメサィアに関係あるんじゃないかと思って調べてる」
「そうなんだ……」
「次はぼくの番。なぜこの島では大人が子供になっている?」
「それは……」
ローリーが言いかけた時、カイナルが側まで近寄ってきていた。
「ちょっとあんたら何してんの?」
ラウスは振り返って、スケッチブックを持っているカイナルとリールを見る。
「ローリーに話を聞いていただけだよ? なぜこの島は作られたのか。なぜこの島では大人が子供にされているのか」
カイナルはラウスを睨みつけた。
「何でそんな事調べてんの」
「今はローリーと話してるんだけど」
「知らないよ。ぼくの質問に答えろよ」
ラウスはため息でもつきたそうな顔をして話す。
「君は疑問に思わないのか? なぜこの島で大人が子供にされるのか」
「思わないね。この島はそういう島。そうってだけ」
カイナルはあっさりと答える。ラウスはますますため息をつきたそうな顔で、今度はリールに向き直った。
「話にならないな。リール」
リールは少し困ったような表情で髪をかき上げる。
「んー、なんでって言われると……というかラウス、君、この島にあの子を探しに来たんじゃなかったっけ?」
「もちろんそれが目的ではあるけど。言っただろ? ぼくは君の事を調べると」
「ああ……うん」
リールの顔から感情が落ち、無表情になり始める。
「この島の事を知る事も、その内の一つだろう?」
「まあ……でも言ったはずだよ? 計画の邪魔はしないようにと」
「邪魔をするつもりはないよ」
「そう、それならいいけど」
そこでカイナルが強い語調で口を挟む。
「ちょっと! 何言う気!? 余計な事を喋るんじゃないよ!」
イラン、ラウスはカイナルに注目する。
「この島の計画はただ終われば、それでいい! 来年の三月三十一日、その日が終わればそれでいいんだよ! あんた達は大したリスクもなく大金が手に入る! バカな詮索してないで、黙って過ごしていればいい!」
「カイナル、君は……」
「それってさ、カイナルには報酬がないって事?」
言いかけたラウスの言葉を遮って、イランが的外れにも思えるような質問を口にする。
「え! なんで!?」
ローリーが驚き、カイナルは一瞬口ごもる。
「……関係ないだろ! とにかくあんたも余計な事は喋るな。わかってるだろ!?」
カイナルがあんたと言ったのはローリーの事だ。だが当のローリーは困惑した表情をしている。
「ほら、来いよ!」
そんなローリーを、カイナルは問答無用で引っ張っていく。それをリールは黙って見送った。




