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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第七話 ラウスの正体
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7-3.ラウスの正体

 その日の昼食が終わった時、イランはみんなが帰る前に声をかけた。


「アラドが勉強したいって言うから、ついでに教材頼みたい奴いる? 参考書とか。リールには許可取ってある」


 するとルテティアが立ち上がった。


「わ、わたしする!」

「オーケー、ルテティっていくつ?」

「十八。戻った時に高校卒業の証明書はもらったの。わたし卒業式とか行けなかったから。リールが学校に申請してくれた」

「じゃエドと同い年か。大学試験の勉強?」

「んーん。その……看護とか、そういう勉強したい!」

「それは普通に学校通わないと……」

「今はまだみんなといたいの。この島での生活が終わったら、学校行く」

「そうか。看護学校って入試試験あるのかな? ちょっと調べとく」

「ありがとう! お願いします!」


 次はドルがやってくる。


「勉強、おれもしよっかな!」

「おまえは十七だっけ」

「そう、高校二年!」

「じゃちょっと自分ができそうなプリント探してやってみてくれるか。そこに何枚か持ってきた。学力レベルが知りたい」

「わかった!」


 ドルがプリント用紙を眺めている間に、イランはアラドにもプリントを渡す。アラドは大人しく取り組みだした。


「あたしもした方がいいのかしら……」


 今度はヴィルマが近寄ってきた。


「ヴィルマ、いくつ?」

「十六。高校は行ってないの。うちお金なかったから」

「そか、じゃヴィルマもプリントやってみてもらえるか」


 最後に来たのは有尾人の一人であるポテトだ。


「なあ、おれこっちの字の勉強したい」

「ああじゃあ共通語でいいか?」

「共通語って何?」

「えーっと、世界中大体どこでも通じる言葉?」

「じゃそれ」

「共通語の勉強ならおれ達も頼む」


 後ろからキットも口を出してきた。


「すでに始めてはいるが、教材は多いに越した事はない」

「ああ……了解」


 イランが頷くと、キットは在庫確認のためにリールと倉庫に向かう。


「ブラック、おまえも勉強しとけ? ヤマシタがいつもおまえがもっと字読めればいいのにってぼやいてるぞ」

「……」


 アクロスの言葉に、寡黙なブラックは無言で返事する。みんなのそんなやり取りを見ながら、ローリーもぼそっと呟く。


「わたしももっとまじめに勉強しようかなあ……」

「あんたも十七だっけ? 高二?」


 隣にいたブルーが聞く。


「高三。二月生まれ。ブルーは?」

「あたしは社会人よ。大学も出てる」


 ブルーは双子のサーシャ、キーシャにも声をかけたが、二人は首を振った。






 アラドはプリントをしながらふと気づく。


「そういえばこの島の生活が終わったらどうなるんだ?」

「確か一度はホールランドに収容されるって言ってたぞ?」

「ホールランドに!?」

「なんでおまえが知らねーの?」


 イランは当然の疑問を口にする。


「計画終了後の身体検査、その後の生活支援はホールランドで行われるんだって。君からしたら実家に戻る形になるわけだし、ちょうどいいんじゃない?」


 そう説明するラウスを、アラドは軽く睨む。


「ホールランドって、一部のセレブしか居住許可が下りない特別区域なんだよな?」


 イランが聞くと、ラウスは「んー」と小首を傾げる。


「必ずしもセレブってわけではないよ。ホールランドは一つの都市だしね。リアル教の聖地だから、住むのには許可が必要みたいだけど。まあなかなか発展したいい街だよ」

「おまえもそこの住人なわけ?」

「ぼくはその隣の都市に住んでるだけ。家は割と裕福だけどね」

「……ちなみにおまえの学歴は?」

「ぼくはモクスフォード大学出てるよ?」

「マジか。世界的有名大学じゃん……」


 イランはラウスの学歴を聞いて、内心気圧された。イランは母国のとある大学に入学したものの、卒業はしていない。つまりは大学を中退してしまったのだ。その後アルバイトで食いつないでいるところでリールに出会い、この島に来る事になった。


 自分が勉強を教えるより、ラウスが教える方がいいんじゃ? と思ってラウスに言うと、「ぼくもサポートはするよ」と、にっこり笑顔で返された。






 みんなのプリントを採点し終わったイランは、アラドのプリントをまじまじと見ながら言う。


「うん、やっぱりおまえが一番やばいわ」

「勉強、する……!」


 みんなと比べられて、ようやくアラドは危機感を覚えたらしい。頭を掻きながら返されたプリントを睨んでいる。


「おう、自分のやばさを認識してくれて嬉しいわ」


 イランはプリントをそれぞれの子供達に返していく。


「ヴィルマはもう少し勉強しような」

「ローリーは悪くはない」


 そしてドル。


「おまえは思ったよりできるんだな。ちゃんと勉強すれば、それなりの大学に行けるんじゃないか?」

「ほんと? おれ勉強は好きだったからね!」


 ドルはにこにこと笑顔を向ける。ドルを見ながらイランはふと最初の頃のドルを思い出した。


(こいつって、確か最初はこんな明るい奴じゃなかったよな? 席がおれの隣だったからか? すぐダン達の所に移ってからはやたらに明るくなったけど……)


 イランはなんとなく気になってドルの顔をじっと見る。


「ドルさ」

「ん?」

「昨日の夜、外にいた? 九時過ぎくらい」


 ドルは意表を突かれたような顔をした。代わりにエドアルドが答える。


「そういえば昨日ゲーム終わった後、急に外出たよね」

「エド、まだいたのか」

「なんかおもしろそーだったから。ぼくも就職に有利そうな勉強しようかな」


 イランとエドアルドが雑談している間に、ドルは元のにこにこ顔に戻り、元気に返事する。


「おれ急に散歩したくなる時あるんだよね! 夜の散歩とか気持ちいーじゃん!」

「まあここ星とかきれいだしね」


 エドアルドが相槌を打つ。


「その時さ」と、言いかけて、イランは言うのをやめた。まさかみんなの前でリールと抱き合ってたか? なんて聞けるわけもない。ドルは相変わらず張りついたような笑顔をしている。


「いや、おれも外に出てたからさ。あれドルだったのかなと思っただけ」

「イランも夜散歩好きなんだね!」

「いや、風呂に行ってただけだけどな」


 ドルと話し終わった後に、イランは軽くため息をついた。


(なんでこんな気にしてるんだ)


 リールが誰かと抱擁を交わしていても、自分には関係ないじゃないか。そう思ってはみても、昨日の事は頭から離れなかった。


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