6-6.ルテティア・サウンド
ラウスとエドアルドは、タルタオを追ってリールの家を覗き込んだ。そして困惑しているアラドと、イラついているようなタルタオを見る。
「何かあったの?」
エドアルドがそう尋ねたが、タルタオは答えずに家の中を見回す。
「リールはどこです?」
「……ダン達とルテティアを探してる」
アラドはタルタオの気迫に気圧されながら答える。
「ルテティア?」
「何かあったのかい?」
エドアルドとラウスが交互に聞く。タルタオは顔をしかめながら、少し間を置いてようやく答えた。
「わたしも今、間接的にではありますが、この島の人達と共感している。思念が強まってきてようやく気付きました。ルテティア、あの子、死にたがっています」
ラウス、エドアルド、アラドの三人は驚く。
「恐らく死ぬために戻ってきた。あの人ならそれに気づいていたはずなのに……!」
なぜそんな事が分かるのと言うエドアルドの疑問には、ラウスが共感能力の事を説明した。そして二人はルテティアを探そうと言って、外に駆けていった。
「わたしはリールを探します」
タルタオも家を出ようとすると、アラドもためらうように追いかけようとした。しかしタルタオはそれを止めた。
「いいですよ、あなたは。わたしが負荷を軽減させているとはいえ、下手に体力を消耗するべきではない。限界時間も近いでしょう」
タルタオの言葉通り、アラドは既にだいぶ眠かった。いつもならとっくに寝ている時間だ。島の仲間に危険が迫っているというのに、何もできない自分をアラドは苦々しく思った。
のんびりと歩きながらルテティアを探していたダン達を見つけて、ラウスはタルタオが言っていた言葉を伝える。それを聞いてダン達も事の重大さに気づき、真剣に探し出す。
「どこに行ったのかな……? 西側の崖とか……?」
ドルは西側の海岸に崖があるのを思い出して呟く。
「ちっさい島って言ってもそこそこ広いぞ。人一人探すとなると結構大変だな。しかもこう暗いと……」
ダンは周りを見渡した。島には外灯なんて気の利いたものはほとんどない。それに今日は空も曇っていて、月明かりもあまりない。
「雨も降ったりやんだりしてるしね……」
ドルが心配そうに空を見上げる。そこでドルは気づいて後ろを振り向いた。
「そういえばオラデアは?」
「え? ついてきてるだろ?」
ダンも振り向くが、やはりそこにオラデアの姿はない。
「おい! オラデアー」
「オラデアー!」
ダン達は一度リールの家の前に戻ってくる。するとちょうどラウスも戻ってきた所だった。
「いたかい!?」
ラウスは少し遠くから声をかける。
「いない! あとオラデア見なかったか!?」
「見てないけど……?」
「途中で姿が見えなくなった。見かけたら教えてくれ!」
ラウスは「わかった」と返事し、なお声を上げる。
「海岸沿いはグルジアやキット達に探してもらうようお願いした!」
「海岸……そうか、そういう所から探せばよかったのか」
ダンはようやくドルが言っていた崖という言葉の意味に気づく。
「あと、この島は空き家が結構あるようだ。家の中に危険物とか残っているかもしれない!」
「わかった! ブラック達には声かけたか?」
「ああ、倉庫や食堂内をチェックして、カギを閉めておいてもらうように言っておいた!」
ダンとラウスが大声で話している間に、イランが家から出てきていた。ダン達は島の中を探しに走っていく。
「おーい、何かあったのか?」
ラウスは驚いてイランを見る。
「イラン! 君に声かけるの忘れてた……というかとっくに探しに出てるものかと。ルテティアを見てないか!?」
「ルテティア?」
その時、向こうの方からタルタオの声が近づいてくるのが聞こえた。
「リール! なぜです!?」
歩きながらタルタオはリールを問い詰めていた。リールは視線を落としていて返事をしていない。タルタオはラウスに気づき、声をかける。
「いましたか!?」
「いや、いない! あとオラデアも居場所がわからなくなっているみたいだ!」
ラウスはそう叫ぶと少し考え込んだ。そしてリールをリールの家の中に引っ張り込んだ。
家の中ではアラドが眠気と戦っていた。そのアラドに構わず、ラウスは強引にリールをソファに座らせる。後ろにはタルタオやイランも続いていた。ラウスはリールの肩を掴み、その顔を覗き込む。
「ルテティアに何があったのかは知らない。でも、リール。君はルテティアが死ぬために戻ってきた事を知っていたのか!?」
リールは視線を落としたまま、静かに答える。
「……彼女、最後にみんなに会いたがってた。もう彼女には愛する家族が誰もいなかったから」
「なぜ、止めない!? 君は、救世主だろう!?」
「……メサィアとしての力を持っているだけだ」
「どっちだっていい! 頼むから彼女を探すのに力を貸してくれ!」
リールは少し沈黙する。そしてゆっくりと口を開く。
「……わからないんだ」
「?」
「死にたがっている人を助けてもいいのか、ぼくにはわからない。死が、救いになるのなら……」
リールが最後まで言う前に、ラウスはリールの頬を思い切り引っ叩いた。
「何を言ってるんだ、君は……!」
ラウスは目に涙を浮かべてリールを睨む。
「おまえ、何しやがる!?」
眠りかけていたアラドは、驚いて立ち上がる。ラウスはそんなアラドをも睨みつけた。
「黙れ、世間知らずのボンボンが。吠えれば女守れると思ってるんじゃねえぞ」
本気で頭に来てるのか、ラウスの口調は荒い。アラドは眠い目を必死に開けて、ラウスを睨む。ラウスをどけて、今度はタルタオがリールに詰め寄ってきた。
「リール様、あなたに主義主張がない事は知っています。あなたは常に中立でいなければならないのだから。でも、この島では違うでしょう? あなたが誰かを助けたいと思ったから、この島を作ったんじゃないんですか……!?」
リールは何も答えない。そこでイランが口を出した。
「なあ、とりあえず落ち着けよ。なんとなく状況は分かった。……助けたいと思ったんじゃないのか?」
タルタオとラウスはイランの方へ振り返った。




