6-5.ルテティア・サウンド
夕食後キッチンの片づけを済ませ、家に帰ったアンナはルテティアを探した。いつものように一緒にお風呂に行こうとしたのだ。
「ヴィルマ、ルテティアは? もうお風呂行っちゃった?」
アンナは一緒に住んでいるヴィルマに声をかける。
「食堂にいなかったの……? アンナと一緒かと思ってたわ」
「じゃ、ローリー達と一緒かしら」
アンナがそう言ったのと同時に、家のドアが開いてルテティアが帰ってきた。
「あら、ルテティア」
「ん?」
「先にお風呂行っちゃったかと思ったわ」
ルテティアは首を振って答える。
「ちょっとローリー達とお喋りしてて、その後サーシャ達ともお喋りしてたから」
ルテティアはアンナ、ヴィルマと一緒に共同風呂へ向かう。脱衣所で服を脱ぎながら、ヴィルマはルテティアを見つめた。
「ルテティア、あなた戻ってきてから機嫌がいいわね」
ルテティアは「えへへ」と笑う。
「なんか嬉しくて。向こうだと一人ぼっちだったけど、ここにはみんながいるから楽しい」
そう答えたルテティアに、ヴィルマも「そう」と笑みを浮かべた。
そして風呂から上がり、ルテティア達は外へ出た。すると雨がパラパラと落ちてくる。
「やだ、雨降ってきちゃった。もう、こういう時はちょっと困るわよね」
アンナがぶつくさ文句を言う。三人は走って家に帰り、帰るとすぐアンナは「わたしもう寝るわね」と個室に入った。アンナは食事係なので、朝の支度がいつも早いためだ。
「わたしも部屋に戻るわ」
ヴィルマはいつも日記をつけるために早めに部屋に入る。
「うん、あたしも。今日は疲れたからもう寝る」
「おやすみなさい」
ヴィルマは二階の部屋に、ルテティアは玄関の手前の部屋へそれぞれ入る。ルテティアは部屋に戻って、髪をいつもの三つ編みにした。そして少しの間、読みかけの本に視線を落とした。そうしてしばらくすると、ルテティアはそっと部屋を出て行った。
自分の部屋で日記を書いていたヴィルマは、ドアが開閉される音を聞いて自分の部屋から顔を出す。
「ルテティア……?」
なんとなく気になって、ルテティアの部屋のドアをノックするが返事はない。ドアを開けてみるが、やはりそこにルテティアはいなかった。ルテティアがこんな時間に外に出るなんて珍しい事だった。やはり気になったヴィルマはルテティアを探し始めた。
ヴィルマは隣のサーシャ、キーシャの家にまず向かい、ルテティアが来ていない事を確認した後、ブルー、ローリー、クレイラが住む家に向かった。
「ルテティアがいない? 一緒に探そーか?」
リビングで本を読んでいたブルーが立ち上がりかける。
「いいわ。リールのところかも。ローリーとクレイラは?」
「ローリーは部屋で勉強中。クレイラはもう寝た」
「そう、それじゃおやすみなさい」
そう言ってヴィルマはブルー達の家を後にした。
その頃のリールの家では、アラドがリールに向かって手を広げていた。
「な、何、兄ちゃん」
リールはうろたえて、僅かに後ずさる。
「いいから来い」
そう言っても躊躇するリールに痺れを切らして、アラドは自分から抱きついた。
「寂しかった……おまえが七日もいなくなるなんて」
「き、昨日も抱きしめたじゃない」
「おれはいつだって我慢してる。またおまえと離れ離れになるんじゃないかと、いつも怯えてる」
リールはわたわたと手を広げながら答える。
「だ、大丈夫だよ、兄ちゃん。ぼくはこの計画があるんだ。必ず戻ってくる。少なくとも絶対に兄ちゃんを見捨てたりなんかしない」
「わかってる。わかってるから我慢してるんだ」
アラドは目を閉じ、リールを強く抱きしめている。その時ノックの音がした。その音に乗じて、リールはアラドを引き離す。ドアを開けるとそこにいたのはヴィルマだった。
「ヴィルマ、どうしたの?」
「リール、こっちにルテティアが来てない?」
ルテティアと聞いて、リールの表情から感情が抜け落ちる。
「もう寝るって言ってたんだけど、部屋にいなくて。戻ってきてからいつもと違うような気がしてたから、気になったの。サーシャ達やローリー達のところにも行ってなかった。他の子の家に行くとは考えにくいし……」
「そう」
「リール、どうした?」
アラドが後ろから声をかける。
「……ルテティアがいなくなったんだって」
リールは背中で返事してから、ヴィルマに無表情で言った。
「ダン達に探してもらおう。あまり大ごとにはしないように」
「うん……?」
ヴィルマはリールがなぜそんな言い方をしたのか気になったが、リールの言う通り家に戻ってルテティアの帰りを待つことにした。
自分の部屋で寝ようとしていたタルタオは、何かに気づいたように振り向いた。タルタオは急いで上着を羽織り、部屋を出る。階下ではエドアルドとラウスが談笑していた。
「タルタオ、どうしたの?」
階段を下りてきたタルタオにラウスが声をかけるが、タルタオは二人に構わず少し厳しい表情をして外へ出て行く。
「何かあったのかな? ぼくちょっと見てくる」
「え……ん、ぼくも行くか」
エドアルドがタルタオの後を追っていくのを見て、ラウスもとりあえず腰を上げる。タルタオはリールの家に向かっていた。リールの家ではアラドが一人眠そうにあくびをしていた。
「失礼しますよ」
ノックもそこそこに、タルタオはリールの家に入った。
「おまえ、何しに……」
警戒するアラドに近寄り、タルタオはアラドの手を取る。
「な、なんだ、気持ち悪い」
振り払おうとするアラドだが、タルタオは強く掴んでいて離さない。そしてアラドの手から何かの思念を感じた後、掴んだ手越しにアラドを強く睨んだ。
「あなた、先日ルテティアに触れたでしょう。これに気づかなかったんですか」
「何?」
タルタオはアラドの手を投げ捨てるように離す。そして憎々しげに言った。
「あの人、なぜこれを放っておいた……!?」




