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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十七話 その後
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37-1.その後

 それから三年の月日が経った。レイリールとキットは有尾人の住む地、カプルカ島を訪れる。たくさんの支援物資と一緒だ。


 カプルカ島は五年前にとある先進国から侵略を受けた。しかし各国の批判もあり、カプルカ島の戦争は比較的短期間で済んだ。一部植民地化された地域もあるが、現在はカプルカ島全体で独立に向けて動いている。


 船から降りると、アクロスが手を振って出迎えていた。アクロスはホールランドに帰ってくる時もあるが、一年のほとんどの時間をカプルカ島で過ごしている。そのおかげですっかりこの地に馴染んでいる。


「あれ? 今回はドルも一緒か」


 レイリールとキットの後ろには、小さな子供と慎重にタラップを降りているドルがいる。もう一人はキットの頭にしっかり絡みついている。またその後ろにはカットとミルキィがさらに小さい子を抱えて降りてきた。


 再会を喜び、アクロスは子供達に「大きくなったなあ」と声をかける。子供達は稀にしか会わないアクロスに人見知りしているのか、そわそわしてそっぽを向く。アクロスはそれを見て「ハハハ」と笑い、その後にドルに同伴してきた理由を聞いた。


「レポートのテーマを有尾人の歴史と文化にしようかと思って」


 今は大学三年生のドルが答える。そして「それに」と続ける。


「おれ、卒業したらレイリールと同じ仕事に就きたいんだ」


 レイリールは今は人道支援を掲げる国際機関GIFTと連携し、主に有尾人やその他発展途上国の調査、支援などをしている。


「なんで? おまえ、レイリールの事好きだっけ?」

「全然違う」


 アクロスの的外れな問いに、ドルは呆れたように答える。


「オラデア達の会社も今はGIFTと関係してるから、おれはその支援をしたいの」

「ああ、なるほどな」


 キットもいまだにテレビに出演する事はあるが、体を動かす事の方が性に合っているようで、GIFTの人道支援活動に積極的に参加している。その様子を撮影しにテレビカメラマンなどが来る事もあって、世界的な有尾人への好感度は上がっている。今もカメラマンがついてきていて、キットや子供達の周りをちょろちょろ動きながら撮影していた。






 アラドは相変わらずモデルの仕事をこなしている。現役モデルの母親ノーラの支援もあって、俳優の仕事も入り始めた。ただドラマの撮影などのキスシーンは苦手なようで、それがあった日には泣きながら愚痴をこぼしている。


 レイリールがホールランドにいる間は、レイリールの家にはよく人が来た。カイナルなんかはいつもまるで自分の家に来るかのようにずかずか入り込んでくる。


「もー、ブラック。またぼくの家、掃除しに来てよ」


 カイナルは無遠慮に椅子に座って、開口一番それを言う。レイリールはそれに気を悪くした風もなく、「やあ、元気そうだね」と声をかける。するとカイナルもようやく「元気だよ。そっちは?」と挨拶する。ブラックも気にせず、出かける準備をし始める。


「ほら、ローリーがさあ、二人目産むからって実家に帰っちゃったでしょ? おかげで掃除する人がいなくて散らかり放題なの」

「カイナル、あなた掃除くらいしてあげないと、ローリーに愛想尽かされちゃうわよ」


 アンナがお茶を出しながら苦言を呈する。


「わ、わかってるよ。ただローリーがいないと、する気が起きないの!」


 カイナルはお茶を一気に飲んでから、準備を終えたブラックとレイリールの家を後にする。


「次の仕事があるからとりあえず一時間だ。報酬はいつもの額でいいな?」

「うん、今はそれがブラックの仕事だろ。ただでやれなんて言わないよ」


 歩きながらカイナルは尋ねる。


「そう言えばブラック、レイリールの家出るんだろ?」

「ああ、いい加減に家を出て、恋人でも見つけろと言われた」

「ふーん、見つかるといいね」


 ブラックは少し苦笑して「そうだな」と答えた。






 グルジアとカールは相変わらずレイリールの屋敷に住み込んでいるが、グルジアは時々、息子や娘に会いに国に帰っている。カールは仕事の合間にラウスの所に下宿しているポテトに会いに行く。


 ラウスはいつの間にか大学の講師になっており、ポテトはその大学に入学した。ポテトは嫌がっているが、有尾人初の大学生という事でたまにテレビの取材が来ているようだ。


 オラデアとキーシャはしていなかった結婚式をする事になり、それに嫉妬したサーシャがダンを責め立てると、ようやくダンもサーシャにプロポーズした。そしてサーシャとキーシャはケンカしながらも式の準備を進め、合同結婚式を挙げた。


 ヴィルマは故郷で高校に通い、その後そのまま故郷の国で小さな会社に就職した。リントウもみんなに会いに来たのは、レイリールが死にかけたあの日だけだったが、故郷の村で元気に暮らしている。


 エドアルドはバイクが欲しいと思っていたのだけれど、ルテティアが看護学校を卒業したら結婚しようかなと考えていて、それなら車を買った方がいいかなと悩んでいる。


 ブルーも無事、子供が生まれた。子供とのりのりで戦隊ごっこをしている所を帰ってきたラウスに見られ、バツが悪そうな顔で照れていた。そんなブルーももう少し子供が大きくなったら働こうかなと考えている。


 リールはタルタオの口添えもあって、だいぶ自由に行動できるようになっていた。ただメサィアという地位がなくなったわけではないので、大抵は洞泉宮の中で司教たちや信者を相手に話している。


 イランは仕事先で出会った女性と親密になっていた。そして一年後、結婚する。






 レイリールは屋敷の庭に出た。子供達も一緒に出てきて喜んで遊びまわる。アラドは仕事で来れない日以外はほとんど毎日来て子供と遊んでくれる。それを見ていると、レイリールは自分の選択が本当にこれでよかったのかと迷う事がある。アラドはレイリールの頭を撫ぜた。


「おれは今、幸せだよ」

「あなたにも、いつか大切な人ができますように」


 すっかり口調が優しくなったレイリールがそう言うと、アラドは朗らかな笑顔を見せた。


「ハハ、ありがとう」


 アラドがまた子供達と遊びに行くと、キットが隣に座ってレイリールの肩を抱き、頭にキスをした。


 子供の島の物語・完


 なんか最後は駆け足で終わっちゃいましたが、いかがでしたでしょうか。この物語を考え始めたのは子供の頃でしたが、実際に形に出来たのは〇十年後の現在でありました。


 この物語で言いたかった事は「どんなに苦しくても辛くても、間違っても卑怯でも、幸せになっていいじゃないか」という事であります。あなたが誰かを想える人ならば、あなたも幸せになっていい人であると思います。


 拙い作品ではございましたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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