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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十六話 レイリール・ゲルゼンキルヘン
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36-3.レイリール・ゲルゼンキルヘン

 立ち上がったリールとみんなは普通に話している。レイリールと入れ替わった事については責められていたが、それでもみんなリールを受け入れていた。


 赤ん坊達が同時にぐずりだして、アラドやカールがあやしている。アンナはミルクを作って持ってきた。みんな食事が途中だったのを思い出して、ビュッフェ形式になっている食事を取りに行く。


 レイリールの手を握っていたブラックが不意に気づいた。


「レイリールの熱が消えていく」

「なんですって?」


 タルタオが急いで寄ってきて、レイリールの反対側の手を取る。


「ラウス、この人は人間になったはずでは……!?」

「ん? ぼく人間になったの?」


 リールが頭に疑問符を浮かべると、ラウスが答える。


「力はまだ残っているかもしれませんが、限りなく人間に近くなったと思いますよ」

「ふーん」


 タルタオは悲しそうな目でレイリールを見つめる。


「普通の人間だって誰にも愛されないと思った時、心が死んでしまう。あなたはリール様の生きる希望のために、命を捨てたのですか」


 キットはそれを聞くと、ブラックの肩を掴んだ。


「ブラック、今すぐレイリールと別れると言え。おれがレイリールを生き返らせる」

「どうやって」

「いいから早くしろ。レイリールが死んでもいいのか」


 そう言われてはブラックは逆らえない。渋々と頷いた。キットはレイリールを抱え込み、頬を撫ぜた。


「レイリール、目を覚ませ。おれに愛されたいと願え」


 キットはレイリールの額にキスをした。






 レイリールは僅かに目を開き、涙を浮かべているキットを見た。


「キット、君はいつも泣きそうな顔をしているね。やっぱりぼくは君を笑顔にしてあげられなかった」

「違う、よく見ろ。おれは笑っている」


 キットはレイリールの手を自分の頬に当てた。レイリールが混沌の夢を見ている時、キットはレイリールが自分に笑ってほしかったと言っていたのを聞いた。だからずっと笑う練習をしていた。そのまま会えば必ず泣いてしまうのがわかっていたから。


 キットが涙をこらえながらも笑っているのを見ると、レイリールも微笑んだ。


「フフ、よかった」


 そしてまた目を閉じた。


「レイリール……? レイリール!」


 キットはレイリールを抱きしめながら泣いた。


「やはりおれではだめなのか?」

「あなた、一つだけ間違ってますよ」


 リールからキットの話を聞いたタルタオは、少しだけ責めるような目線を送る。


「どういう事だ?」

「笑えなくても、この方が苦しんでいる時は側にいてあげるべきでしたでしょう? そういう意味ではブラックやアラドの方がこの人の夫にふさわしいですよ」


 するとブラックも低い声で口を出す。


「おまえがレイリールの側にいてやれないなら、おれはレイリールを渡さない」

「……そうだな、おれが愚かだった」


 キットが自分の浅はかさに絶望して落ち込んでいると、後ろから声が聞こえた。






「おいおーい、あんまりキットをいじめるなー」


 声の主はアクロスだ。今まで会場にいなかったアクロスがいつの間にか後ろで話を聞いていた。


「リール様、遅くなり申し訳ありません。リントウとクレイラを連れてきました」

「ああ、うん。そういえば頼んでたね」

「そういえばってひでーなあ。連れてくる途中で謎の眠気に襲われて、妙な悪夢を見てたんで遅れたんですよ」

「へー、離れてても効果あったんだ」


 ホールランドに住んでいないリントウとクレイラは、久しぶりに会った女の子達に歓迎されて嬉しそうに話している。クレイラに会いたがっていたカールは、ちょうど抱っこさせてと言っていたローリーに赤ん坊を預けて、クレイラの前で号泣している。


「で、レイリールはどうしたん?」


 キットが泣き始めた所からしか話を聞いていなかったアクロスが、レイリールを覗き込みながら尋ねる。レイリールを抱いているキットの異変に気付いて、イランも近くに寄ってくる。


「レイリールが起きないんだ」


 死にそうだとは、キットもブラックも口にはできなかった。言えばそれが本当になってしまいそうで、震えそうになるのを必死にこらえている。事の重大さが分かっていないアクロスは軽く「そうなの?」と答える。そして後ろを振り返る。


「おーい、アラド、ローリー。ちょっと来いよ」


 赤ん坊にミルクを与えた後、あやしていた二人を呼ぶ。


「へー、ローリーの記憶ももう戻ってるんだ」


 レイリールが死にかけているというのに、リールはあまり深刻そうな顔もせず、呑気な事を言っている。アクロスは赤ん坊を抱えたままのアラドとローリーをレイリールの側に座らせた。


「ほら、チビ達が泣けば起きるんじゃね? おーい、チビ達、泣け」


 そう言ってアクロスは赤ん坊達の頭をつんつんつつく。


「あ、おまえもうちょっと優しくしろよ」


 アラドが抗議している間に、赤ん坊二人はアクロスの思惑通り、ひっひっとしゃくりあげると二人同時に大きな泣き声を上げた。あまりに大きな泣き声に、アクロスは「そんな強くしたつもりはないんだけど」と笑ってごまかしている。


 途端にレイリールが、ばっと起きた。


「アンナ、ミルク!」

「もうあげたわよー」

「じゃあ、おむつ!」

「さっき変えたわ」

「じゃあ、なんだよ。ホントぼくお母さん向いてないな」


 レイリールはがしがしと頭をかく。そしてようやく周りの視線に気づいて顔を上げる。


「ん? どうしたの、君達」

「ハハ、やっと起きた」


 レイリールが死にかけていた事など知らなかったアラドが、一番に笑顔を見せる。


「リール、ううん、レイリール、お母さんがんばってるんだねえ」


 ローリーも少し潤んだ目で笑う。キットは後ろでぼろぼろ泣いていた。ブラックも少し涙を浮かばせながら安心した表情をしている。


「まったく人騒がせな人ですよ」


 タルタオもちょっと呆れながらも笑っている。


「ぼくは起きると思ってたけどね。だってこいつ……」

「わあー! リール、久しぶりー!」

「なんだか記憶がおかしな事になってたが、ようやく思い出したぞ、フン!」


 リールの言葉は、割り込んできたクレイラとリントウの台詞に遮られた。二人のおばさんパワーには誰も勝てない。女の子達も集まってきて、レイリールを取り囲み、レイリールに説教しながら目覚めた事を喜んだ。


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