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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十六話 レイリール・ゲルゼンキルヘン
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36-2.レイリール・ゲルゼンキルヘン

 タルタオはリールの側に座る。


「死ぬ事にも生きる事にも怯え、何かを変えたくてもがく。そんなあなただから、わたしは好きなんですよ」


 メサィアと呼ばれたリールは、妻に先立たれてもなお生き続ける自分に絶望した。でもタルタオは思う。


「まだ生きてくださいよ。あなたの命のある限り」


 例え一人で孤独を抱えていても、あなたが差し伸べた手に救われる人が必ずいる。この一年であなたが笑顔を取り戻したように、きっとあなたはこれからも笑って生きられる。






 タルタオは少しリールの顔を見つめた後、「とにかく」と言って周りを見渡した。


「床に寝かせたままじゃかわいそうですよ。誰か起こしてあげてくださいよ」

「おう、任せろ」


 ダンが返事して、リールを起き上がらせる。レイリールは背中をアラドが支え、キットが頭を持ち、ブラックが手を握っている。


「おれ一人で充分だ、どけ」


 キットはアラドやブラックを追い払おうとするが、二人は動かない。


「あの子、相変わらずもてるわね」


 ヴィルマがぼそっと呟くと、ルテティアもうんうんと頷く。


「ホント羨ましい絵面。でもキット、アラド、あなた達は遠慮して? レイリールはブラックのものなのよ?」

「おれの……?」


 アンナの台詞に肝心のブラックが首を傾げる。


「おまえ、レイリールと結婚したんだろ……?」


 アラドは少し落ち込んだ顔で聞く。ブラックはしばらく沈黙していたが、やがて答えた。


「うん、した。だからどいてくれ」


 するとそれを聞いていたグルジアが珍しく含み笑いをする。


「くっく、そういうことか」


 アラドはますます落ち込んだ顔をしたが、キットはブラックに詰め寄った。


「今すぐ別れろ」

「嫌だ」


 即答するブラックに、グルジアはますますこらえきれないと言うように笑っている。


「おい、結局このパーティはカイナル達とブラック達の結婚発表って事でいいのか? あとそこのチビ達はアンナの子なのか? 結婚したって話は聞いてねーぞ」


 オラデアが痺れを切らしたように聞くと、アンナは「あら、違うわよ」と言う。


「だからよ、ブラックとレイリールの子だって事だよ」


 グルジアはまだ含み笑いをしながら答える。みんなが「なんだって!?」と驚く中で、ポテトが呆れたように言った。


「すぐばれるウソつくなよ、グルジア。ブラックの子にこんな耳が生えるかよ」


 アンナの抱いている赤ん坊の帽子を、ポテトはひょいっと取る。するとそこには小さいながらも毛が生えた耳が見えた。


「おい、ちょっと見せてくれ!」


 カットが慌てて近寄っていって、アンナから赤ん坊を預かる。


「まだ首が座ってないから、気をつけて」


 カットは「わかった」と返事しながら、ロンパースの下のボタンを外した。「ちょっとだけごめんな」と言いながら、赤ん坊を傾けてお尻の方のおむつの中を覗き込む。するとそこには赤茶けた色の尻尾が見えた。


「ハウイ族の子だ!」

「何!?」


 カットが叫ぶと、キットが驚いた顔を見せる。


「だ、誰の子だ!」

「おまえ以外にいるかよ、バカ野郎!」


 カットはそう言いながら、アンナに「そうだろ!?」と同意を求める。横ではドルが「あーあ、ばらしちゃって」と残念そうな顔をしていた。驚いているみんなの中から、同じくハウイ族のミルキィも出てきて、赤ちゃんの顔を覗き込む。


「わーほんと、ハウイ族の子だあ。かわいいー」


 ミルキィはぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる。そしてカットから赤ん坊を受け取ると、キットの側に連れてきた。


「ほら、キットも抱いてみなよ! かわいいよ!」

「……無理だ」


 キットが難しい顔をして拒否したのを、ミルキィは驚く。


「なんで!? 自分の子だよ!? 抱っこしてあげないの!?」

「そんな恐ろしい生き物、触れない。触れたら壊してしまいそうだ」

「何言ってんの!? キットってホントそういうとこあるよね!」


 ミルキィがぷんぷん怒っていると、アラドが手を出してきた。


「おれが抱っこするよ」


 ミルキィは「ほら、他の人に抱っこさせちゃうよ!」と言うが、キットは「む、ぐう」と唸ってためらっている。アラドは赤ん坊を受け取ると優しく赤ん坊に笑いかけた。


「そうか、赤ちゃん、できたのか」


 少し寂しそうな顔で、でも嬉しそうに目を潤ませている。するとポテトがカールの抱っこしている赤ん坊を指差しながら、口を出してきた。


「あんた、あっちを抱っこしたら?」

「え?」

「だって、たぶんあっちはあんたの子だろ」

「ええ!?」


 アラドが驚くより先に、周りのみんなが驚く。アラドはきょとんとした顔で、顔に疑問符を浮かべる。


「おれ、レイリールとしかセックスした事ないよ……?」

「だからレイリールの子だってば」


 理解が追いついてなさそうなアラドに、ポテトは説明しだす。


「アクロスに聞いたんだけど、あんた達ほとんど同じ日にセックスしたんだろ? たまたま卵子が二つあって、あんた達の精子がそれぞれ別にくっついちゃったんじゃないの? 気づいたらレイリールは双子を妊娠してたんだよ」

「ポテトー、おまえ賢くなったなあ」

「ただの推論だってば、じいちゃん」


 カールがにこにこしながらポテトの頭を撫ぜている間に、キットが口を出す。


「待て。二人ともおれの子ではないのか」

「えー、たぶん違うと思うよ。二人とも似ても似つかないし」


 アラドは急いで立ち上がって、カールが抱っこしている赤ん坊と自分が抱っこしている赤ん坊を見比べる。確かに顔つきが違う気がする。それに肌の色が全然違う。ポテトが色白の子の帽子を取ると、ブロンドの髪が見えた。大人になったアラドはダークブロンドの髪色が濃くなっているが、確かに子供の頃はブロンドに近かった。


 アラドが本当に自分の子かもしれないと感動していると、「やれやれ」と声が聞こえた。


「君達、ぼくの子に触らないでよね」


 レイリールが起きたと期待を込めてアラド達が振り返ったが、起きたのはリールだった。


「リール様、あなたの子じゃないでしょ」


 タルタオが言うと、リールは「ぼくはこいつで、こいつはぼく」と言いかけたが、少し考えてやめた。


「そうだな、ぼくはぼく。こいつはこいつだ」


 タルタオは「そうですね」と微笑んだ。


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