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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十五話 リール・ゲルゼンキルヘン
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35-5.リール・ゲルゼンキルヘン

「ローリー」


 ローリーは自分の名を呼んだリールを改めて見る。その立ち方の癖は見覚えがあった。


「リール……?」

「フフ、すごいね、ぼくがわかるの」


 リールは先程までの無表情と違い、あどけない笑顔で答える。


「でもこれでわかっただろう? ぼくはこいつになった。正確には元のぼくになったと言った方がいいんだけどね。ぼくはこいつで、こいつはぼく。みんなと過ごした日々はぼくとこいつの中にある」

「違うよ!? リールはリールだよ!?」


 思わずリールに縋りつくローリーを、今度は無表情の顔で見下ろす。


「わからない子だな。ぼくらは一つが二つになった生物。それが一つに戻っただけだという事に、こんなに理解が得られないとはね」


 ローリーはたじろいで数歩下がった。






「それよりもさ」


 リールは軽く髪をかき上げながら言う。


「ローリー、君はこの島の計画が終わる日、ぼくの願いを叶えてくれるという約束を覚えているかい?」


 ローリーは不安そうな表情でこくんと頷く。もうリールなのか、もう一人のリールなのか分からなかった。


「君はぼくの望みも知ってしまったね?」


 リールの望みは、死ぬ事、消える事だと言っていたのを思い出す。


「あ、あれはもういいって……」


 リールは金色の目でじっとローリーの顔を見る。


「最初は君とぼくの命、どちらかを選ばせようと思っていた。人の記憶から消えるっていうのはそういう事だ。あの島での生活から一年後の今日、君の命の灯は消える」

「え?」


 ローリーは言葉を発する事ができずに首を振る。


「安心しなよ。君の命はカイナルが繋いだ。この日が終われば、みんなから消えた君の記憶は戻る」


 ローリーは息苦しそうに自分の首元を抑えた。


「わたし、わたし、リールに殺されそうになってたの……!?」

「そう。ただどっちにしても君の命は助かるはずだった。君が自分の意思でぼくの事を忘れるという事を選べば。それはぼくを作った造物主、つまりは君の祖先の意思。ぼくは役割を終えて、機能を停止する。ぼくが死ねば、当然君はぼくの力から解放される」


 リールは、はっはっと息をしているローリーを静かに見る。


「ぼくを消す……忘れる気になったかい?」


 ローリーはぼろぼろ泣きながらリールを睨む。


「そんな事できないよ! わたし今日みんなに再び出会って、そして思った。勝手にいなくなるなんてダメ、一人で苦しんで消えるなんてダメ。あなた(・・・)()愛していた人がこんなにいたのに……!」


 ローリーの言葉にリールは視線を落とす。


「君は優しいね、ローリー」


 リールは会場の方へ目をやった。ローリーの角度からは中の様子はあまり見えない。リールは寂しそうな目をしていたが、口角の端を少し上げた。






「みんなの命と引き換えだと言ったら……?」

「え?」

「いや、命は言いすぎだな。ぼくにみんなの命を取る力はない。だが……これはぼくが意図していた事じゃないんだけど、ラウスがね、ぼくらを混ぜたんだ。そろそろみんなにも影響が出る頃かな」

「混ぜる……?」


 リールの視線の先、みんながいる会場の方へローリーは思わず走る。会場の中へ入ると、さっきまでお喋りしていたはずのみんなが倒れていた。ローリーはとっさにお腹の大きかったブルーを探すが、ブルーはいない。みんなを見渡すとラウスもいない。リールもローリーの後ろから会場内へ入ってくる。


「みんな、どうなったの!?」

「だから混ぜられたんだよ、意識と記憶が。ブルーはお腹に差し障りがないように、ラウスが別室へ連れていったんだろう。ぼくはぼくの力の影響を受けたみんなの様子を見るために、定期的にこうしてパーティを開いていたけど、それがラウスにも都合がよかったみたいでね。ぼくが気づいた頃にはもうみんな混ぜられた後だった」

「よくわかんない! みんな、どうなるの!? ちゃんと目を覚ますの!?」


 詰め寄るローリーをリールは感情のない目で見下ろす。


「さっきも言ったろう? これはぼくが意図してた事じゃないんだ。ラウスだって完全にはコントロールできないはずだ。だがまあ利用はさせてもらう。さあ、選べよ。ぼくか、みんなか」


 ローリーはよく分からないという顔をしてリールを見つめる。


「これはぼくの力を元に行われている事だ。ぼくのメサィアの力が消えれば、みんなを蝕んでいるこの力も消え、みんな目を覚ます。だがこのままだとまともに目を覚ます事はできないかもなあ? みんな狂ってしまうかもしれない。さあ、みんなの人生が天秤にかけられた。君はそれでもぼくの命を取るか?」


 ローリーは何も言えずに首を振った。






 三時間が経った。ローリーはバルコニーにずっといて、泣きそうな表情で海を見つめている。リールはみんなが眠る会場の真ん中の椅子に座っていた。


「ぼくらは死ねない生物……愛されたいと願う力が、ぼくらに不老不死と不思議な力を与えている」


 リールの呟きに応えるように、リール自身の口が開く。


「夢の中で、イランがぼくを殺す事を決意した」

「本当はその役目はポテトにやってもらう予定だった。ローリーを追い詰める計画をポテトに暴かせて、ぼくなど必要ないと言わせる。そうする事でローリーに決断させるつもりだった」

「悪魔のような計画だ。純粋なローリーとポテトに、悪魔の言葉を言わせようとしている」

「まったく唾棄すべき計画だな。だがそうでなくてはならなかった」


 リールは頬杖をつきながら、軽くため息をつく。


「消える前にやる事が残っているな。いい加減、ぼくらは一つに戻ろう。体が二つに分かれたからと言って、意識まで二つに分かれる事はなかったのに」

「ぼくはおまえと一つにはならない」


 リールは一瞬間を置いて「何?」と眉をひそめる。


「ぼくがおまえと一つの存在である事は認めよう。これまではそうだったし、これからもそうかもしれない。だがみんなが教えてくれた。ぼくはぼくだ。おまえと違う思いを持ち、違う感情を持つ。だからもうぼくらは一つには戻れない」


 リールは途端に強い眠気に襲われた。


「眠れよ、リール。最後の決着をつけよう」


 リールは椅子からずり落ちながら目を閉じていく。


「まさか、このぼくが出し抜かれるなんて……」


次回 第三十六話 レイリール・ゲルゼンキルヘン

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