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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十五話 リール・ゲルゼンキルヘン
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35-3.リール・ゲルゼンキルヘン

 ヴィルマはリールをじっと見つめた。リールは言葉を続ける。


「夢の中ならどんな魔法も思いのまま。ぼくらはずっと夢を見ているのかもしれない」


 ヴィルマの髪とスカートが強い風に吹かれてなびく。


「わたしは現実よ。この島にいる子達はみんな現実」


 リールの髪も風になびいている。


「君は昔のぼくの奥さんに似ているなあ。ぼく、君が好きだ」

「あら、わたしはあなた好きじゃないわ」


 ヴィルマは躊躇(ちゅうちょ)なくリールを振る。リールは無表情のまま落ち込んだ。


「あーあ、振られちゃったか。でも君はこの島の計画が終わったら、帰っちゃうんだものな」

「……わたしの母は歳の離れた町の有力者の人に迫られ、精神的に追い詰められておかしくなった。その心が落ち着くまでの間だけ、わたしはこの島に来た。あなたもわたしの母と同じなのね。あなたの心は落ち着いた……?」

「フ、フフ、ハハハハハ」


 リールは初めて表情を見せて笑った。驚いた目で見ているヴィルマには構わず楽しそうに笑い続ける。


「あなた、本当にわたしの知っているリールなの?」


 リールは笑いすぎて、少し涙目になっている。


「フフ、ぼくはあいつで、あいつはぼく。本当は記憶のすり替えなどしなくたって、ぼくはぼくのはずなんだけどな」


 リールはなおも楽しそうに笑った。






 それからリールは子供の島で残りの数日を楽しそうに過ごした。リールはよく笑顔を見せていた。


 そしてみんなが引っ越しの準備をし、島での最後の食事の時間、リールはみんなを見渡した。


「みんな、長い間この島での生活を支えてくれてありがとう。アラド、タルタオ、長い間、子供の姿にする魔法の負荷によく耐えてくれたね」


 アラド、タルタオは頷く。


「アンナ、リントウ、クレイラ、毎日の献立を考えてみんなに合わせて料理を作ってくれた。カール、ポテト、ヴィルマ、サーシャ、キーシャもよく手伝ってくれた」


 呼ばれた子達は頷いたり、軽く手を振ったりしている。


「ダン、オラデア、グルジア、ブラック、島の中をきれいに清掃してくれたり、雑用をこなしてくれたりしてくれたね。ルテティア、いつも花を飾ってくれてありがとう」


 ルテティアははにかんで笑う。


「イラン、ラウス、みんなの勉強を見てくれてありがとう。エドアルド、ドル、ブルー、ローリ……いや、洗濯や風呂掃除を毎日してくれたね。キット、カット、アクロス、食料や備品の配達をいつもしてくれた」


 やはりみなその言葉に応えるように頷く。


「カイナル、君が絵を描きながら島内の様子をいつも見回ってくれていたのを知っているよ。今呼んだ中には先にこの島を出ていった子達もいるが、でもぼくはみんなには本当に感謝している」


 リールは手を広げた。


「みんなを子供の姿にするという実験は無事終わる。これから始まる新しい生活にも、ぼくはできる限りのサポートを約束するよ」


 そこでダンが手を上げる。


「おれ達のサポートもいいんだけど、おれはおまえの仕事のサポートをしてえな」

「ハハハ、ダン、君にはぜひぼくのMAになってもらいたいと思ってるよ。他にもみんなそれぞれお互いに協力し合える関係でいられたらいいね」


 リールが挨拶を終えると、みんな順々に大人に戻してもらいながら、ボートに乗って島を出ていった。






 リールが女だった事を忘れた子供の島の住人達の中から、もう一人消えた子がいた。それはローリーという女の子だった。


 子供の島を作りたいと望んだローリーは、その代償に島での生活が終わった後、自分の記憶をみんなから消すという約束をリールと交わした。その事を事前に知ったカイナルだけが、報酬を得ない事を条件にローリーを忘れない約束をした。


 カイナルはその後、みんなの記憶から消えたローリーを見つけ出し、学校を卒業したローリーと旅をしていた。そしてローリーの実家を訪れた後、ローリーと結婚するとイランに電話で宣言した。しかしそれはローリーにとっても寝耳に水の話で、ローリーは狼狽してまた実家に戻ってしまった。


 仕方なく一人で戻ってきたカイナルは、気をもみながらローリーが戻ってくるのを待った。ローリーは五ヶ月近く何のかんのと言い訳して戻ってこなかった。カイナルは最後は半分泣き落としで、みんなに紹介したいからと言ってローリーを呼び寄せた。


 ローリーは改めてカイナルのプロポーズを受けると伝えた。みんなの前に現れる事についてはためらっていたが、それでもうんと頷いた。


 八月二十六日、ローリーが消えたちょうど一年後のその日、リールはパーティを開き、ローリーもそこで紹介してもらう事にした。






 洞泉宮の一部の会場を借りて、サーシャを含めた洞泉宮の従業員達が準備している。


「ありがとう、もういいわ。後は片付けの時にお願いします」


 サーシャがそう言うと、洞泉宮の従業員達は会場を去っていった。


「カイナルが結婚なんてなあ」

「相手、誰なんだろうね」


 みんなの飲み物を用意しながら、ダンとドルが話している。他のみんなもカイナルが連れてくるという結婚相手を楽しみにしていた。やがてみんなが揃い始めた会場にカイナルが現れた。


 カイナルの後ろから、ローリーはおずおずと出てくる。ボブだった栗色の髪は肩より長くなっている。でも誰もそれに気づかない。ローリーは気まずそうに少しうつむき、みんなを上目で見上げた。


「……ローリー・ニューバーンです。は、初めまして」

「へえ、結構かわいいな」


 カットがぼそっと呟くと、カットの腕に絡みついていたミルキィがほっぺを膨らませてカットを睨む。カットが慌てて弁解している後ろで、女の子達がローリーを呼んで真ん中に座らせた。その横に座っているブルーのお腹は、明らかに膨らんでいる。


「あ、あの、赤ちゃん……?」

「そう、今五ヶ月。あれが旦那」


 ブルーが指差すと、ラウスがひらひらと手を振る。


「お、おめでとう!」

「ありがと」


 ブルーはにこっと笑う。それから女の子達は一人ずつ自己紹介をしていった。男性陣もあれが誰で、あれが……と紹介されるが、アンナが「すぐには覚えきれないわよね」と笑いかける。


「いえ、大丈夫、わかります」


 ローリーは少し潤みそうになっているのを必死にこらえながら、みんなの顔を一人一人確認していった。


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