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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十五話 リール・ゲルゼンキルヘン
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35-2.リール・ゲルゼンキルヘン

 キットはリールを探し回っていた。探している理由はただ会いたいからだ。リールの笑顔が見たかった。リールを探しているキットの後を、アラドも追っていた。


 キットとアラドは誰よりもリールを追い求めている子達だ。二人ともリールを愛し、リールを自分の物にしたいと思っている。


 キットは風呂掃除が終わって一度家に戻っていたドルを見つけた。そのドルにリールがさっき食堂に向かっていたという事を聞いて、キットもアラドも食堂に向かった。






 キットが食堂のドアを勢いよく開くと、いつもの席にリールが座っているのが見えた。入り口からはリールの背中しか見えない。リールはタルタオと何やら話している。


 キットは駆け寄りながら、何か違和感を覚えた。


「リールはどこだ!」


 途端にキットは血相を変えて、座っているリールに掴みかかる。


「ちょ、ちょ、何してんの!?」


 キットの後に続いて食堂に入ってきたドルは驚いて、リールを庇いに走り寄る。


「怖いなあ、キット。ひさしぶり、か。君、ぼくに会う度にそう怒鳴り散らすのはやめてもらいたいね」

「ど、どうしたの、リール」


 ドルはそう言いながらリールを見る。そして少し驚いた表情をしている間も、キットはリールの胸倉を掴んでいる。


「うん、ぼくこそがリール・ゲルゼンキルヘン。とりあえず離せよ、キット」


 リールは言いながら、キットの肩に手を置く。キットは頭の中に何かが走ったように感じ、徐々に手を離す。


「……?」


 キットはなぜ自分がリールに掴みかかったのかを忘れた。その間にアラドが近寄ってくる。


「あんた、あのリールにそっくりな人」


 リールはアラドの肩にも手を置く。アラドも途端になぜ自分がリールを探していたのかを忘れた。


「ど、どうしたの、おまえら」


 ドルは急に威勢を失ったキットとアラドを見て、慄くように言う。


「わからん……」


 キットとアラドの目から、今までリールを追っていた熱いものが消えた。そんな二人を見ながらリールは呟く。


「残酷だね、愛する者を失った事にすら気づけないなんて。まあ、ぼくのせいか」

「もうみなさんの記憶をすり替え終わったんですか?」


 キット達が離れていったのを見計らって、タルタオが尋ねる。リールはうーんと唸る。


「それがねえ、みんなからローリーの記憶を消したのもあって、誰の記憶をすり替えてないか分からなくなっちゃったんだよねえ。まあぼくを見て、あいつじゃないと言ってくる子の記憶をすり替えれば問題ないと思うんだけど」

「ローリー?」


 タルタオはその名前に憶えがないと言うように眉をひそめる。


「まさかわたしの記憶もいじったんですか?」

「ああうん、あいつがね。それより君の中のあいつの記憶もぼくとすり替えさせてほしいんだよね」


 言いながらリールはタルタオの肩に手を置く。タルタオは頭の中に何かが走ったような感覚を覚えた。


「メサィア、いえ、リール。わたしに何かしました? すごく不快な気分ですよ」

「うん、ごめんね。ぼくの力の影響下にいて、長く心を繋げた君達。つまりは家族のような絆を持った君達の記憶から消える事で、ぼく達の存在を消す計画なんだ。ただあいつを追うことに心を費やしているキットやアラドには記憶消去が効かない可能性があった。でも記憶のすり替えならそう難しくもない。あいつはぼくで、ぼくはあいつだからね。これで二人もぼく(・・)を追いかける事を諦めるだろう」






 メサィアがいた場所、洞泉宮にはレイリールがいた。一人掛けのソファに座り、両手をひじ掛けに乗せている。そこにリアル教の法王バイロト・アンダマンという老齢の男が来る。


 バイロトはメサィアの行動指針を決めるメサィアの主でもある。メサィアと呼ばれるリールはいつもバイロトに「ぼくは君の道具だ」と言っていた。


 バイロトはレイリールの前の椅子に座りながら、レイリールを見て驚く。レイリールの見た目はメサィアと呼ばれる少年とほとんど変わらない。実際、護衛の者達はいつものメサィアの席にいるのが、メサィアでないと気づかない。


「あなた……は?」

「やはりぼくの事がわかるのか、バイロト。ぼくはもう一人のぼく。君が会いたがっていたぼくだ」


 バイロトは目を細めてレイリールを見る。


「あなたがもう一人のメサィア……!? 失礼ですが、あなた、もしや女性では?」

「そうだ」

「まさか今までの有尾人の調査や捜索などは、あなたがしていたのですか……!?」

「もちろん」


 バイロトは額を押さえて頭を振る。少し顔をしかめているバイロトを見ながらレイリールは言葉を続ける。


「バイロト、君は外部の人間にぼくの存在を知らせてはいないと言っていたね?」

「ご存じでしたか。メサィアが嘘を申し上げているとは思いませんでしたが、わたくしは正直、分身と仰るほど有能な部下ができたのかと思っておりました」

ぼく(・・)に話を合わせてくれたわけか。まあそうか、君は狂っているぼく(・・)の話し相手だものな」


 バイロトはじっとレイリールを見つめた。


「あなたも……お心を乱されておられるのですか?」


 レイリールはふっと笑う。


「あいつはぼくで、ぼくはあいつ。あいつが狂っているのなら、このぼくも狂っているさ」

「……メサィアは今いずこに?」

「ぼくが家族と呼ぶ人達の所」

「それもメサィアのお考えの中だけの事ではなかったのですね」


 レイリールは苦笑する。


「ハハ、ひどいな、バイロト。ぼく(・・)の言葉を全然信じてくれてなかったのかい」

「申し訳ありません」

「まあいいさ。あいつはこれからその家族と触れ合う事で、空いた心の隙間を埋めるだろう。あいつが戻ってくるまでの間は、ぼくがメサィアとして活動するよ。いいだろ?」

「あの方は戻ってこられるのですね……?」

「ほんの一週間ほどだよ、バイロト。道具は主の元に戻るものさ」






 レイリールは洞泉宮のバルコニーに出て、風に吹かれる。男のリールは小さなヴィルマと散歩しながら小さな丘まで来ている。


「どこからどこまで夢」

「どこからどこまで幻」

「ぼくらにとってはこの世の全てが幻想と変わらない」


 レイリールとリールの言葉が風に乗って一つとなり、飛んでいった。


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