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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第一話 子供の島
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1-2.子供の島

 彼女。そう、金色の髪に金色の目の少年(・・)、リールは実は女だ。彼女の事を少年と言っていたのは、彼女が少年に間違われやすいからだ。ショートヘアで女性としては少し肩幅がある高身長の体。中性的な顔立ちに少年のような声。そして一人称が「ぼく」のため、彼女を男だと誤解する者は多い。


 キットが着替えるのを待っているリールは、なんとはなしにシャツのボタンを一つ留めた。






 リールがキットから離れると、アクロスとカットが入れ替わりに近づいていく。キットはナップサックに入れていた大人用の服を取り出し、それを着ていく。格好は子供の時と変わらない、タンクトップにハーフパンツといういで立ちだ。キットが着替えている間に、カットはキットが先程まで来ていた服をナップサックにしまっていく。


 アクロスはキットを下から眺めた。


「相変わらずでっかいな、おまえ」

「なんだ、おまえだって大人に戻れば割とでかいだろ」


 キットは精悍な顔立ちをしている。大抵の事には動じなさそうな雰囲気で、声変わりした男らしい声で答える。


「おれはガキの頃から身長あるけどさ、おまえ達はチビじゃん。何食ったらそんなでかくなるんだよ」


 十二歳くらいの子供の時点では、キットの身長はアクロスより十五センチメートルも低い。それが大人になると百九十二センチメートルの巨体になるのだ。アクロスが驚くのも無理はない。


「うちはそういう家系なんだよ」


 キットの代わりにカットが答える。カットはナップサックから紐付きのバンダナキャップを取り出し、それをキットに差し出す。


「ほら、耳を隠せ」


 キットとカットが耳を隠すヘアバンドをしているのは、耳に毛が生え、動物の耳のように尖って見えるからだ。それから長袖のシャツを腰で結び、お尻にある毛が生えた五十センチメートルくらいの尻尾を隠す。


 キットとカットは有尾人(ゆうびじん)という尻尾が生えた希少な人種なのだ。その存在はほとんど世間に知られていない。だから街に出る時は耳と尻尾を隠している。


「じゃあおれはリールの荷物持ちしてくるから、おまえ達はいつもの荷物頼んだぞ」


 大人になったキットの表情は、愛想のなかった子供の時と違って少し明るくなっている。


「……嬉しそうだな」


 キットが横を通り過ぎる所でカットがぼそっと呟く。


「触りたい気持ちはあるからな」

「そうか……!」


 キットが明るい調子で返すと、カットの表情も少し明るくなった。






 キットは背中を向けているリールの肩をぽんと叩く。リールは驚いたように体をビクッとさせる。そして「どこから行くんだ?」と問いかけるキットとあまり目線を合わせようとはせず、少し冷たくも見える表情で買い物リストが書かれた紙を広げた。






「メサィアは普通では考えられない不思議な力を持つ。例えば……大人を子供の姿に変える」


 イランはラウスのその言葉に驚きはしなかった。なぜならキット達同様、イランも元は大人で、不思議な力で今は十二歳くらいの子供の姿になっているからだ。


「リールがメサィアだって言うんなら、何百年生きてるんだって話になってくるな。それに金色の髪と金色の目はメサィアと同じとはいえ、メサィアは『少年だった』んじゃないのか。いつも男装してるから間違えられたってオチじゃないよな?」


 イランはリアル教のメサィアについてさっき調べた事を頭に巡らせながら喋る。ラウスは話が早いと言いたげに笑った。


「ハハハ、リールがメサィア本人だと言っている訳ではないよ。ただそれに近しい存在である事は確かだ」






 リールとキットは島の子供達に頼まれた品を調達するために、服屋、雑貨屋、スイーツショップなどを回っていた。銀行でも所用を済ませ、酒屋にも入る。


 酒屋では店員のお姉さんがにこにこしながらキットに試飲を勧めた。大人になったキットは筋肉質な巨体で威圧感はあるものの、ハンサムなので女性受けはいいようだ。キットは二十二歳であるため、お酒も飲める。もちろん試飲程度の量では酔いもしない。キットが色々な種類の酒を勧められている間に、リールは酒瓶を持って会計を済ませた。


 その後はタバコ屋に入った。狭いショップ内ですれ違う人を避けるため、キットはリールの肩を抱いて引き寄せる。リールは体を強張らせるも、極力表情を変えないようにしている。


「酒にタバコ……あのじいさん達か」


 タバコ屋を出たキットは、タバコを鞄にしまうリールを見ながら言う。その「じいさん達」というのも、子供の島の住人の事だ。


「キットが来てくれて助かったよ。ぼく一人だと売ってくれない事もあるから」


 助かったと言っている割に、リールは笑顔も見せない。距離を寄せて歩いてくるキットから、いつも一歩離れて歩く。


「こんなの買っていったら、リールが怒られるだろう?」

「うーん、それは嫌だなあ」


 そうは言ってもリールはやはり感情を表情には出さない。淡々と答えている。


「まあおれが買った事にはしとくが」

「キット、タバコ吸わないじゃない」

「それはそうだが」


 キットと話しながら、リールは買い物リストが書かれた紙とは別のメモ用紙をじっと見つめる。


「これはどこに売ってるんだろう……」


 ぼそっと呟くリールの手元の紙をキットは覗き込もうとしたが、リールはそれが見えないように畳んでしまう。どちらにしてもキットはリール達の使用する言語の文字をまだあまり読めないのだが、それでもリールは見せたくないようだ。


「ああ、ここかな……」


 リールはビデオショップの中に入り、「ADULT ONLY」と書かれた暖簾の中をちらっと見た。そしてキットに外で待っておくように言って、中に入る。何本かのDVDケースを持って出てきたリールのシャツのボタンは襟まで留められていた。


 尻尾のない普通の人間の文化にまだ慣れているとは言えないキットでも、半裸の女性が映っているDVDケースの表紙を見てそれがどんなものか察した。


「……こんなの誰が頼んだんだ」

「アクロスが渡した紙に書いてあった」


 リールは努めて表情を崩さないように答える。アクロスが言っていたリールが一人じゃ買いにくい物というのはこれの事か、とキットは呆れてため息をつく。リールはポーカーフェイスを保ったまま会計を済ませた。


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