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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十五話 リール・ゲルゼンキルヘン
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35-1.リール・ゲルゼンキルヘン

 子供の島の生活が終わる五日前の事。島の真ん中の広場から、十八歳くらいの少年が歩いてきていた。


 身長は百七十八センチメートル。金色の髪はウルフカットの髪型で、遠目でも端正な顔立ちをしているのが分かる。服はシャツとスキニーパンツを着用している。少年の目は髪の色と同じ、印象的な金色だ。小さな瞳は少年の感情を読みづらくしている。


 少年は軽く前髪をいじり、ため息をつくように少し息を吐いた。






 この世界にはポピュラーな宗教の中に、リアル教というものがあり、その神は救世主(メサィア)と呼ばれている。メサィアは金色の髪に金色の目、そして普通では考えられない不思議な力を持つ。


 例えば不死。彼の人は四百年前から存在し、死んでも生き返る。そして不老。歳を取っているように見せる事もできるが、基本的には十八歳くらいの少年の姿のままだ。


 それから人の心に共感し、人の気持ちを操る力がある。メサィアを傷つけようとした者は、メサィアを愛していると錯覚し、死ぬほどの後悔に苛まれる。


 メサィアは他にもテレポートの能力を発現したり、人を若くする力を使ったりもする。そして長く心を繋げた人の記憶をいじる事もできる。






 港から反対側の広場から来た少年は、近くのコテージハウスのドアをノックする。するとヴィルマが出てきた。ヴィルマはあまり人と視線を合わせない癖のあるため、ちらっとだけリールを見てすぐに視線を落とす。


「リール、何?」


 そう言ってからヴィルマはもう一度リールを見た。


「あなた、男……?」


 リールはいつも男の子のような格好をしていて胸も大きい方ではないが、夏場の薄いTシャツではごまかしきれない膨らみはある。だが今の目の前にいるリールにはそれがない。表情もいつものリールよりずっと無表情に見える。


 リールはヴィルマの肩にぽんと手を置いた。そして金色の目がきらりと光る。


「ヴィルマ、君、やっぱりかわいいなあ。ぼくの好みだ」


 リールは無表情なまま素っ頓狂な事を言う。その間にヴィルマは頭の中に何かが走ったような気がした。


「リール……リールは男よね、何言ってるのかしら、わたし」


 また視線を落としたヴィルマを見て、リールは頷く。


「うん、よさそうだ。それじゃヴィルマ、後でね」


 リールはひらひらと手を振りながら去っていく。






 それからリールは共同風呂へ向かった。共同風呂ではエドアルドとドルが男風呂の、ブルーとルテティアが女風呂の掃除をしていた。


「あ、洗剤がもうないや。おれ取ってくるよ」


 ドルが共同風呂から出て、備品を置いてある倉庫に向かっている間に、リールが共同風呂に入ってきた。


「あれ? リール?」


 リールはエドアルドの肩に手を置く。エドアルドは頭の中に何かが走ったような感覚を覚える。そしてさっき感じた違和感が分からなくなり首を傾げる。


 それからリールは女風呂の方に行き、ブルーとルテティアの肩にも手を置いた。ブルーとルテティアは顔を見合わせて、リールが男だった事を確認しあう。


 リールはサーシャとキーシャの家にも向かう。視力の弱いサーシャは目を細めながらリールを出迎える。


「リール……よね?」


 サーシャはリビングテーブルに置いてあるメガネを探してかける。その間にリールはサーシャに触れた。


「リール……? なんか、男、みたいな……」


 奥から出てきたキーシャもリールを不思議そうに見る。リールはキーシャにも触れた。キーシャの頭に何かが走る。


「あ、リールは、男、か。わたし、何言ってるんだ……?」


 キーシャは頭を捻らす。


「うん、よさそうだ」


 リールはサーシャ、キーシャを見て頷く。サーシャは両手で自分の頬を抑えてリールを見つめている。


「リ、リールってあんなにかっこよかった?」

「何、言って、るんだ、おまえ。ダンは、どうした」

「わ、わかってるわよ、なんか急にそう思っただけよ」

「それ、より、そろそろ食堂、の手伝い、行かなきゃ」


 たどたどしくしか喋れないキーシャの言葉に、サーシャは「わかってるわよ」と答えながら、自分の髪を撫でつけ身支度を整えようとする。リールはそんな二人を少し止める。


「悪いんだけど、十五分くらい待っててもらえる? 混ざっちゃうと分かんなくなっちゃうから」

「何が?」

「記憶のすり替えを完了した子が……ああ、気にしないで。こっちの事だ」


 サーシャとキーシャはよく分からないと言うように二人揃って首を傾げていたが、リールはそんな二人を後にする。






 リールは次にイランの家に入った。イランは午前中の勉強会が終わって、午後の分の準備をしようとしていた所だった。イランはリールを見て軽く首を傾げる。


「……誰だ、あんた」


 リールは無表情でイランに近づいていく。


「やっぱりこの島の子はすぐにぼくの事が分かるな。まああいつは自分を見つけてくれる子にすぐ気を許しちゃうからな」

「何言ってるんだ?」

「普段は男……つまりぼくに見えるようにしてるのに、女だとすぐ気づいちゃう人があいつは好きなのさ。でも君達の中のあいつはぼくになっちゃうけどね」


 リールはイランの肩に手を置いた。イランの頭の中にも何かが走る。


「……あ、リール、リール……だよな?」

「そう、ぼくこそ本物のリール」






 荷物の入荷から戻ってきたキット、カット、アクロスは、ダン、オラデアと一緒に荷物を倉庫や食品の貯蔵庫に片付けていく。キットはそれが終わるとリールを探しに走り出していった。アクロスは汗をかいたから、食事前に着替えたいと言って一度自分の家に戻っていった。


 残ったカット、ダン、オラデアの前にリールが現れる。


「リール?」

「じゃねえな、誰だ?」


 ダンとオラデアは首を捻ってリールを見る。カットはそのリールにそっくりな少年に見覚えがあった。


「あんたは……」

「久しぶりだね、カット。いや、今までこの島で一緒に暮らしていたんだから、久しぶりはおかしいのか」


 リールは三人に順々に触れていく。そしてダン、オラデア、カットもリールが女だった事を忘れた。






 一通りの子の記憶をすり替えたリールは食堂のいつもの席に座った。そして指を折りながら首を傾げている。


「五、六、七……さて困った。最初から数えとけばよかった。誰の記憶をすり替えてないのか分からなくなっちゃったぞ」


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