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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十四話 終わらない悪夢
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34-1.終わらない悪夢

 子供の島の生活が終わってからもうすぐ一年が経とうという日、洞泉宮の一部の広間を借りて、パーティが開かれていた。子供の島の住人だったみんなが、自分達の近況を報告しあうためのパーティだ。そこにはいつものように男のリールが立っていて、笑顔でみんなに声をかけている。


 まだ宵の口にも早い頃、集まっていた子供達は一人、一人とその場に崩れ落ちるように眠り始めた。男のリールもずるずると体から力を失くしていく。


「まさか、このぼくが出し抜かれるなんて……」






 みんなといる場所とは違う場所で、レイリールはゆっくりと目を開く。


「みんなの心を繋げる……そしてぼく(・・)の心を埋める……」


 それがあの計画だった。そうする事で狂っているリールの心を癒す。そしてメサィアの愛されたいと願う力を弱らせる。レイリールが再び目を閉じようとすると、どこからか声が響いた。


「それじゃあ足りないよ。一度みんなを混ぜるんだ。そこから新しい君を取り出す」

「ラ、ラウス?」

「違うよ、ぼく混沌。さあ、遊ぼうよ、レイリール」






 イランはホールランドの街中を歩いていた。オラデアと会社を立ち上げ、アラドやキットのマネージャーとして働いている今は非常に忙しかったが、とても充実していた。帰るのもいつも遅い時間になる。すっかり暗くなってしまった空を見ながら、イランは自分のアパートに向かって歩いていた。


 繁華街の道を抜け、角を曲がった時だった。いつもの親しげな笑みを浮かべた人物がそこに立っていて、イランに手を振った。


「ラウス、何してるんだ、こんな所で」


 イランの問いにラウスは「君を待ってたんだ」と答える。


「実はね、君にぼくの準備が整った事を報告……いや、警告しようと思ってね」

「警告?」

「ようやくみんなを混ぜ終えた。新しい計画が始まる。イラン、惑わされるなよ」


 その時イランのすぐ横をバイクが通り過ぎた。危ないなと思ってイランは走っていったバイクに目をやる。そしてまたラウスの方に向き直った。


「あれ? あいつどこ行った?」


 その一瞬の間にラウスの姿は消えていた。イランは軽く周りを探したが、見つからないので不思議に思いながらも家に帰った。夕食はもう済ませていたので、風呂だけ入ってすぐにベッドに横になった。






 朝になり、イランはコンコンとドアを叩く音で目を覚ました。ぼーっとした頭で携帯電話を探して時間を確かめる。イランは慌てて飛び起きた。


「やばい! 遅刻!」


 起きた瞬間、違和感に気づいた。ベッドに寝ていたはずが、ベッドはなくなり布団が床に敷いてある。部屋は狭くなり、物の配置が変わっている。いや、見覚えのある配置だ。イランが子供の島に来る前、コンビニのバイトしかしていなかった頃に住んでいたアパートの中と同じだ。


 イランはしばし状況を把握しようと考えこんだが、やはりわからない。元々の自分の家に戻っている。


 放心していたイランは、またドアがノックされる音で我に返った。とりあえずドアを開けてみる。そこにはウルフカットの金色の髪と金色の目を持った男装の女の子が立っていた。その子は笑顔でイランに手を差し出した。


「やあ、イラン。迎えに来たよ!」


 イランは目の前にいる子の名前を呼ぼうとしたが、なぜか出てこない。


「ぼくはレイリール・ゲルゼンキルヘン。イラン、新しい子供の島が始まる。さあ、行こう!」

「子供の島……?」


 聞き覚えのある単語だが、やはりこれも分からない。


「おれはコンビニのバイト……いや、マネージャーの仕事が」

「マネージャー? なんだいそれ?」


 レイリールはにこにこ笑顔で聞いてくる。


「あ、あれ? なんだったっけ……? そうだ、そうだよな。おれはコンビニのバイトでやっと食いつないでいるだけの、何もないおれ……それが本当のおれ……」

「それがこれからは変わるんだ。とにかく行こう、イラン。みんなが待っている!」


 イランは釈然としないまま、上着を羽織り、レイリールの導かれるままについていった。






 アラドとキットは子供の島の港で対峙していた。アラドは子供の姿で、キットは大人の姿だ。キットはアラドを見ながら呟く。


「おまえは……?」

「あんたは、誰だ?」


 アラドも不思議そうにキットを見上げている。そこへ後ろから声が響く。


「ほら、君達、こんな所にいたらダメだよ。もうみんな集まってるよ?」


 その声はリールだった。リールの姿を見ると、キットは泣きそうな顔で近づいていく。


「おまえはおれの愛する者、おれの愛する者だな……!?」

「あー、うん、違うと思うよ、キット」

「いや、おまえだ! なぜ男の姿をしている!?」

「だってぼく男だし」


 そのリールには胸がなく、体格も心なしか男性的だ。キットはなおも訴える。


「いや、違うぞ! 普段おまえが男装しているのは知っている! だがその体はなんだ!? 本物の男だ!」

「だからぼくは男だって」


 キットとリールが話している間に、アラドが何か思い出したように近づいてくる。


「レイリール、そうだ、おれはレイリールに会いたかった」


 リールはふうっと鼻でため息をつく。


「やれやれ、君もか、アラド。体を取り換えてもぼくを見つけてくるなんて、驚きだね」


 とにかく二人ともおいで、という言葉に導かれて、キットとアラドはリールの後ろについていく。


「おれが好きなのはおまえ、おまえは女のはずだ」


 キットは少し涙目になりながら、ぶつぶつ言っている。リールは「はいはい、わかった、わかった」と言いながら、食堂に向かっている。


「……あ、ダメだよ、キット! 正面から入っちゃあ!」


 キットが入り口から食堂に入ると、途端にキットの体は子供の姿に縮む。キットの服はぶかぶかになり、ズボンがずり落ちた。そのキットを見て、食堂に集まっていた子達が笑った。


「おいおい、ダメだろ。この中に入ったら子供になっちゃうんだぞ。裏から入って着替えて来いよ」


 子供の姿になっていても背が高いダンがそう声をかけてくる。キットは慌てて服を掴んで、食堂の裏に回った。そして裏の倉庫で着替えると、キッチンを通って食堂の中に入ってきた。そこには女のリールと、男のリールの二人がいた。


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