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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十三話 混沌
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33-2.混沌

 レイリールにもう時間はない。せめて一瞬でも長く、子供達の顔を見ておこうと立ち上がりかけた時だった。


「へえー、君が死を願っているってホントだったんだ」


 不意にどこからか声が響いた。レイリールは一瞬その声の出どころがわからず、周りを見渡した。


「まあそれも一興かな。あ、外を探してもムダ。探すなら中だよ」

「な、なんだこれ……?」


 レイリールは自分の口を塞いだ。その声はレイリールの口から出ていた。レイリールはもう一度周りを見回し、それから頭の中に響いている声に言われて目を閉じた。


 いつもの精神世界に誰かがいた。男のリールではない。よく知っている彼だと思えるが、顔がよく見えない。その人物は「やあ」と、親しげな笑顔で手を振っている。


 その人物の後ろには薄い影がいくつもある。その人物は言う。


「実はね、ぼくは君とみんなを混ぜてみたんだ。ちょっと効果が出るのに時間がかかっちゃったけど、でも君があの島でみんなと心を繋げていてくれたからできた」

「混ぜる……? なんだ、混ぜるって……」


 レイリールがそう言った時、アンナの声が降ってきた。






「レイリール? 何を一人でぶつぶつ言っているの?」


 レイリールが目を開けると、そこはさっきのダイニングルームだった。アンナはミルクの瓶を片付けている。


「あの子達、ミルクを飲んだらまた寝ちゃったわ。また夜中に起きる気かしらね、フフ」


 アンナはそんな事を言いながらも楽しそうだ。そして「ドルは帰ったわ」と言いながら、レイリールの方へ振り返った。


「レイリール、どうしたの?」


 アンナをじっと見つめていたレイリールは、にやっと歪んだ笑みを浮かべた。アンナは今まであまり見た事のないようなレイリールの表情を見て、訝しげにしながら座る。


「アンナ……」


 レイリールは低く声を出す。そして指と指を交互に組んだ。


「君にお礼を言いたくて来たんだ……」


 さっきからそこに座っているレイリールがそんな言い回しをするのを変に思いながらも、アンナは「何のお礼?」と聞き返す。


「君、カールに復讐してくれたんだろう……? グルジアにも冷たく当たっているようだね」


 レイリールはゆっくり喋っている。それも普段のレイリールとは違う喋り方だと思えたが、アンナは頷く。


「だってあの人達があなたを壊したんでしょ? あなた、あの人達を罪悪感で苦しめるためにここに置いてるんでしょ?」

「ん~、レイリールがそんな事考えるかなあ?」

「え?」


 やはり変な言い回しをするレイリールを、アンナは不思議そうに見つめる。


「だって壊したのってぼくだしねえ。昔の記憶をちょっとつついてやったら、途端にもだえ苦しんじゃって」

「レイリール、何を言っているの?」

「レイリールがカールなんかと結婚するとか言いだして、むかついたんだよねえ。レイリールのバカめ、あんなじじいを選ぼうとしやがって。グルジアもあんな奴を選ばせようとしやがって」


 アンナはようやく今話しているのがレイリールではないとわかり始めてきた。顔をしかめて、レイリールの体を借りているものを睨む。


「あなた誰?」


 レイリールの中の者は「ん~ふ~」と軽く鼻歌を歌う。


「実はね、ぼくは今、君達と混ざっている。だから君達の事がなんでもわかる。カールのバカ、追い詰められて君にも手を出したんだね」


 アンナは子供の島にいた時、カールがアンナの体に触れようとした時を思い出す。アンナはその時のカールの行動に驚いて怒りと恐怖ばかりが湧いていたが、思い出せばカールは決して恐ろしい顔はしていなかった。


「カ、カールはすぐやめたわ。泣きそうな顔で、ずっと震えてた……」

「フフ、それなのに復讐してくれたの? あいつ、いまだに怯えて震えている事があるみたいじゃない。君も律儀な人だ」


 カールを追い詰めたのはやりすぎだったのかもしれない。そんな予感が湧いて、アンナの手は震えた。


「カールは何も悪くないの……?」

「あ? 悪いだろ」


 レイリールの中の者は途端に顔を歪めて口調を荒くする。


「ぼくのレイリールを取ろうとしやがって。責任取ってまだ結婚するとか言うから、じゃあ一緒に死のうって言ったんだ」

「な、何を……」

「苦しいからもう生きたくないんだって言ったんだよ。あいつ自分が壊したと思ってるもんねえ。ぐしゃぐしゃに泣いてたなあ」


 レイリールの中の者はクフフ、クフフと笑う。アンナの唇が震えだす。


「ああ、復讐した事、後悔した? でも少なくともグルジアは大丈夫だよ? あいつがレイリールを手に入れるために有尾人と結婚させようとしたのは事実だし。子を産めば女は幸せになれるとか、マジでじじいの考え」

「もうやめろ」


 クフフと笑っていたレイリールの口から、違う声色の声が出される。


「君はカールやグルジアを苦しめてやろうとか思っていない。罪の意識を被ろうとするな。君、泣いてたじゃないか。カールが死を選ぼうとした時、泣いて止めてたじゃないか」

「レ、レイリール……?」


 レイリールらしき声に、アンナは少しだけほっとする。


「君がぼくを壊したんでもない。ぼくはなるべくしてなっただけなんだ。自分を追い詰めるな、ラ……」


 レイリールは最後にその者の名前を呼ぼうとしたが、それはその者の声に遮られる。


「クフフ、レイリール。君は優しいなあ。でもねえ、ぼくは君が思うよりもうちょっと複雑にできてるのさ。二面性があると言ってもいいし、二重人格と言ってもいい。さて、アンナ。ぼくは一体誰でしょう?」


 アンナは答えられない。まるで一人芝居をしているようなレイリールを、固唾を飲んでみているしかできない。レイリールの中の者は続ける。


「ぼくはね、混沌だよ。みんなが混ざったあいつ。さあ、眠れよ、レイリール。パーティはもうすぐだ」


 レイリールの体ががくんと崩れるように力が抜けた。


「レイリール!?」


 レイリールは意識を失っていた。いくらゆすっても起きない。


「カール! グルジア! 誰か来て!」


 アンナは屋敷にいる者を呼んだ。


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