表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十二話 カール
189/209

32-2.カール

 レイリールは有尾人の住む島に訪れた時、頭領の息子だったキットと心を通わせた。そしてキットに一度抱かれかけた。しかし心に迷いを抱えていたキットはレイリールを抱けず出ていき、翌朝、顔を合わせた時は泣きそうな顔をしていた。


 レイリールはキットのために何かしてあげたかったのに、できたのはキットを悲しませる事だけだった。本当はキットに……


「笑ってほしかったんだあ……」

「おまえ、初めてを捧げた男のために、そんな事までするのか……!?」


 リントウは涙を流す。


「一年だ。一年だけ待て……! 一年経ってもそいつがおまえの前に現れなかったら、カールと結婚しろ! だがキットという男が一年の間に現れて、おまえの側にいるのなら、見極めてやる。そいつがどんな男か、わしが見極めてやる!」


 リントウはゆっくりと立って、カールを睨む。


「カールゥ、リールを幸せにしろ。幸せにできないなら、わしはおまえを殺す」


 カールは殺気立っているリントウの目を見て、何も言えずに唾を飲む。


「おまえがわしの命を望んだ。だから一年だけいてやる。一年の間にリールが幸せになる未来が見えなかったら、わしはおまえを許さない」






 それからカール、グルジア達は子供の島の中に入る。ポテトが一緒の時もあったが、カールとグルジアは二人きりでもよく話した。土間がある少し古い造りの家で、グルジアはいつも猟銃を磨いている。


 カールは囲炉裏を挟んでグルジアの前に座った。


「なあ、もうあいつを解放してやれよ。好きな男と一緒にさせてやれ」


 グルジアは目を細めて顔をしかめる。大した話題のない島の中の生活だ。もうその話だって何度目かわからない。だがそれでもグルジアは答える。


「カール……自分だけきれいぶるなよ。あいつをあんなにしたのは誰だ!? キットの奴のせいだ。あいつが壊した。あいつがあいつを不幸にしてるんだ! あんなバカにかわいい娘をやるかよ! あいつはブラックにやる! ブラックは痛みを知ってる。ブラックならレイリールを幸せにしてくれる!」


 グルジアは以前キット達と飲んだ時、レイリールと子供を作った男は消えてしまうという話をキットから聞いた。しかしそれはキットをごまかすためのウソだとレイリールに白状させていた。レイリールはキットと一緒になりたくはない。グルジアはそう判断していた。


「子を産めば、女は幸せになれる。最初はおまえでもいいと思ったんだ。歳は離れてても、おまえはまだ若い。嫁を貰ってもいい歳のはずだ」


 カールは何も言わない。ただあぐらをかいて座っている。


「だが違う。おまえはあいつを手懐けた。それを面白がってた。おまえにリールを愛する資格なんてねえ! おまえが一番汚ねえんだよ、カール。おまえはリントウがいなけりゃ子供の姿だろうがなんだろうが手を出してた」


 カールはあぐらを解いて膝を立てた。そして軽くため息をつく。


「しようがねえだろう……おれ達の安全はあいつにかかってるんだ。あいつを手懐けとかなきゃポテトが危ねえ。アンナやローリーにも手を出したけど……」

「おまえ、まさか……!?」

「んー、ちょっと触っただけだ。ローリーなんかすぐにひいひい泣きだしてよ。アンナが代わってくれるって言うからアンナにしたけど、触るとこ見せてたらぶるぶる震えてたなあ」


 グルジアは戦慄した。


「本物のバケモンはおまえじゃねえか……!」

「おめえほどじゃねえよ。おまえは自分の嫁だって手籠めにしたんだろ? おれはちょっと遊ぶだけだ。一生縛りつけよーなんて、おまえくらいしかしねえよ」


 グルジアは猟銃の銃口をカールに当てた。


「出ていけ……! 二度と戻ってくるな! ポテトはおれが面倒を見る。ポテトをおまえみたいにさせてたまるか……!」


 カールは銃口を向けられても動じず、ただ視線を落とす。


「ポテトには知られたくねえなあ。あいつはきれいすぎる。きれいすぎて、時々本当のおれを見せてやろうかと思うよ。でもできねえなあ。おれのたった一人の孫だもんなあ」

「おれはなんでおまえを連れてきちまった……」


 グルジアは歯ぎしりしながらぶるぶる震えている。


「おめえはなんだかんだ言ったって優しいんだ。キットならとっくにおれを殺してる。そういう意味じゃああいつは犯罪者と同じ。おれ達と同類」

「一緒にすんじゃねえ!」


 グルジアは怒鳴って、銃を握る手に力をこめる。


「あいつがリールを愛しているのはわかってる。あいつは犯罪者にはならねえ。底に優しさがあるのくらい、おれにだってわかる。あいつはおれ達とは違う。あいつが気づけば本当はそれでいい。気づかねーから気に食わないだけだ……! バケモノめ! おまえはおれが必ず殺す!」

「んー、期待しとく」


 カールは表情を変えずに答える。


「大変だね、人間てのは。殺す、消えたいなんて言ってもそう簡単にはできない」


 グルジアは顔をしかめながら座り、酒を注いでそれをあおった。






 カールは梁が組まれている天井を見上げた。


「あー、クレイラに会いてえなあ」


 酒を睨んでいたグルジアは、カールに視線を戻す。カールは膝を抱えた。


「あいつ、帰ってこないのかなあ。寂しいなあ。また会いたいなあ」

「会えれば、もう女達に手は出さないか?」

「うん。おれ、あいつに嫌われたくねーもん。もう一度会えたら殺してもいいよ。でも、ポテトが泣くかなあ……」


 グルジアはタバコを探した。空になっているケースを見て、舌打ちする。仕方なくまた座り直した。カールは話を続ける。


「ポテトには勉強させたいんだ。おれみたいなバカになる前に。どうすればいいのかなんてわからねえ。でもキットが来たら、勉強したんだ」


 ポテトは勉強熱心なキットに感化されて、海蛮人の勉強を始めた。


「おれはキットには感謝してもしきれねえ。でもリールを幸せにできねえんじゃおれと同じだ。キット、頼むから幸せにしてやってくれよお……おれ、死んでも死にきれねえよお」


 カールは膝に顔を埋めた。グルジアはふんっと鼻を鳴らす。


「おれはおまえに死んでほしいがな。計画が終わったら死ね! おれが心中してやる!」

「色気ねーなあ……」


 カールは涙を拭きながら頭を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ