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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十一話 グルジア・シュワルナゼ
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31-7.グルジア・シュワルナゼ

 アンナを乗せた車を見失い、キットは落ち込んだまま電話をかける。電話口にはアラドが出た。


「結婚!?」


 アラドは驚くが、すぐに声を落ち着かせる。


「で? 諦める?」

「違う……」


 キットは携帯電話を握り潰しそうなほど力を込めた。


「腹立たしいだけだ。あいつはまたおれを選ばなかった。おれの事を好きなくせに、おれの事を愛しているくせに……!」


 アラドは笑う。


「ククッ、おまえそれ、言うとこ間違ったらストーカーだからな?」

「何でもいい。あいつがおれの事を愛してるのは知ってる」

「ハハッ、おまえ完全にストーカー。まあおれもか。おれもあいつがおれの事愛してるの知ってるし」

「うるさい」


 キットは電話を切る。


「フン……結婚くらい」


 キットは泣いた跡のある顔で、すねたように唇を尖らせる。


「奪われたら、奪い返せばいいだけだ」


 キットは今度はイランに電話した。


「イラン、アンナの居場所を調べてくれ。アンナはレイリールと同じ場所にいるはずだ」


 それだけ言って電話を切る。切れた電話口ではイランが増えた仕事にため息をついていた。






 イランはいつものように会社の事務所に出社する。社長となったオラデアに最近の話をする。


「何? カイナルの結婚式に、ローリーとかいう人物と、アンナの居場所を調べる?」

「あー、あとリールが結婚したとか言ってた」


 イランは落ち込んで机に突っ伏している。記憶の中のリールはまだ男だが、それでもなぜかショックを受けた感情があった。


「何!?」


 オラデアも驚いて立ち上がるが、なぜそんなに自分が驚いたかも分からず座り直す。


「リール、この前会った時そんな事言ってたか?」

「あー、あれは本当のリールじゃないってよ」

「おまえ……わかるように話せ」


 イランは少しだけ顔を上げて話し出す。


「おまえはさ、あいつがリールだと思う?」

「……違和感はある。おれはリールが好きだったはずだ。けどおれにそんな趣味はねー」

「おれも。そもそもあの島には女の子が十人いたはずだろ? ヴィルマ、ルテティア、アンナ、クレイラ、ブルー、サーシャ、キーシャ、リントウで八人」


 イランは指を折りながら言う。


「もう一人は多分さっき言ったローリーって子」

「覚えがねえな」

「多分みんな記憶を消されてる。カイナル以外」


 イランは子供の島で色々調べていた時の事や、アラドやカイナルの話を総合して説明する。


「なるほどな。それで最後の一人が……」

「多分リール」


 イランはスケジュール帳とにらめっこしながら、頭を掻いた。


「アンナの事は誰か女の子に聞けば分かるかな? ローリーって子はカイナルが連れてくるらしいからそれを待つとして、あとカイナルの結婚式……」

「おい、イラン。おまえは頭がいいのに時々バカだ。一人で全部やろうとするんじゃねー。それにリールが男になったってんなら、普通に異常事態だ。全員に確認とるぞ。カイナルの結婚式なんて誰かに任せちまえ」


 イランはため息をついて、「そうするか」とようやく肩の荷をおろした。





 しばらくして事務所にイランしかいない時に、カイナルが顔を出した。いつものように不機嫌そうな顔をしている。


「結婚式はまだ先!」


 怒ったような声で言いながら、どさっと椅子に座る。


「延期って事か? おまえその結婚相手どこ?」

「両親とこ。挨拶に行ったのに、もっかいちゃんと話すとか言って、戻っちゃったの!」


 話を聞くに、どうやらカイナルはローリーが結婚したがっていないんじゃないかという事を心配しているようだった。「嫌ってわけじゃないの。ただもうちょっと考えさせて」と、言っていたらしい。カイナルの顔は怒っているが、だいぶ落ち込んでいる様子が見て取れる。


 イランはカイナルの話を聞き終わってから、カイナルに尋ねた。


「おまえ、なんでそのローリーって子の事、忘れない約束したんだ?」

「え? 好きになったから?」


 カイナルは照れる素振りもなく言い放つ。イランは半分感心したような呆れたような顔をする。


「いや、うん、つまり、なんで記憶が変わるって知ってたんだ?」

「あの島の計画は、リールとローリーの記憶を消すものだと聞いたから」

「リールに?」

「そう」

「何で記憶を消す必要があったんだ?」

「知らない」


 そう答えてから、カイナルは少し考える。


「夢の……代償。何かが欲しいと願えば、必ずその代償が必要になる。そんな事、このぼくにだってわかるくらい当たり前の事だ」


 イランは「うん」と頷く。カイナルはそのまま続けた。


「でももしその代償があまりにもでかすぎるものだったら、そのせいでその子が苦しむのなら、ぼくが代わってやる。代われないのなら、せめてそれを軽くしてやる。そう思ったんだよ」


 金にうるさいカイナルが、あの計画の報酬を蹴ってまでローリーを忘れない約束をしたのはそれが理由だった。


「おまえって実はすげーいい奴だよな」

「ハ? 今頃気づいたの?」


 毒づくような言い方だが、カイナルが少し照れているのは分かる。カイナルの答えはイランが意図した答えとは違ったが、イランはハハッと笑って、カイナルの恋人が戻ってくるのを待とうと言った。






 子供の島の生活が終わる日まで、時は遡る。まだ子供の姿のままのアクロスとドルはグルジアを睨むように立ち、グルジアはまたレイリールを叩いていた。


「リールゥ……全て台無しだ……! 一からやり直しだ、このバカめ……! 全てがおまえのためだったって事がわからんのか!?」

「何言ってんだ、おまえ……!?」


 アクロスとドルはグルジアの言動が理解できずにいる。レイリールはお腹に手を当て、膝をついて縋るような表情で叫ぶ。


「お、お父さん、グルジア。ぼく、成功したんだ。生まれてみないとわからないけど、アラドか、キットの子が! もしキットの子なら、あなたの望みが叶う! だから……!」


 それを聞いたグルジアは、かざしていた手を下げ、そっとリールの頭を抱いた。


「……そうか、ならいい。よくやったな」


 アクロスは涙目でグルジアを睨む。


「おまえは、最悪だ!!」

「……当たり前だろ。こんな異常な島、底には人間の悪意しかねえよ」


 ドルは震えながら絶叫した。


「何言ってんだ……何言ってんだよお!!」


次回 第三十二話 カール

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