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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十一話 グルジア・シュワルナゼ
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31-4.グルジア・シュワルナゼ

 アラドは胸の中の直感を信じる事にした。


「あいつじゃあない。おれが愛した女はおれに笑ったんだ。あいつじゃあない」

「おれ達が追いかけた女がいる……けど、それをあのリールだと思ってる……って事は、おれ達の記憶がすり替えられてる……?」


 イランはしばらく考えてその結論に達した。そんな事が可能なのか? なんて事は考えてもしようがない。リールは人の言葉の壁を失くしたり、大人を子供の姿にしたりという魔法が使えるのだ。人の記憶もいじる事ができると考えた方が、胸の中のもやもやに説明がつく。






 イランが考えている間に、アラドは島でリールと話した事を思い出す。細かい事は思い出せない。だが確か、カイナルの名が出たはずだ。


 アラドは会場を見回してみたが、カイナルは来ていない。


「カイナルはどこにいる?」

「カイナル? あいつどこかに絵を描く旅行に行くとか言って、もう二週間くらい……」

「カイナルを探せ。あいつがカギを握っているはずだ」


 アラドは上着を羽織る。


「明日は一日オフのはずだな?」

「あ、うん。そうだけど、どこ行く気だよ?」

「とりあえずあの島へ行く。何か思い出せれば……」


 アラドはそう言って会場を飛び出していく。それと同時にキットもイランの所へ来て、仕事を調整しろと言ってきた。そしてキットも会場を後にする。二人のマネージャーをしているイランは頭痛を覚えたが、「しかたねーな」と言って携帯電話を取り出す。そして電話を鳴らす。


「くそっ、カイナルの奴、電話出ろよ……!」






 その翌日になって、イランの携帯にカイナルから電話がかかってきた。


「ああ、イラン。久しぶり」

「なんで電話出ねーんだ、おまえは!」


 イランは挨拶もそこそこに、思わず大声を出す。


「なんだよ、いきなり。電源切れてたの。それよりさ、え、何? リール? リールは男だろ? 何言ってんの? それよりこっちの要件。ぼく、結婚するから!」

「は、はい?」


 いきなりの話に困惑しているイランに、カイナルはすごく大雑把に説明する。


「そういう事だから、準備しといてって言ってるの! 今日帰るから! 名前はローリー・ニューバーン」

「え、だから何言って……」

「だからあ! 結婚するの! 式場とか色々あるでしょ! じゃ、頼んだからね!」

「おい、こら、待て! 誰だよ、ローリー・ニューバーンって」


 イランが最後の台詞を言い終わる頃には、電話は切れていた。イランは仕方なく、カイナルと連絡がついた事だけをアラドに連絡する。


 アラドも電話の向こうで首を傾げた。


「ローリー・ニューバーン? 聞き覚えがないな」

「なんかいきなり結婚するとか言い出してて……それにカイナルもやっぱり記憶が変わっているみたいだ。リールを男だと思ってる」

「そうか、わかった。ありがとう。こっちも何かあったら連絡する」


 そう言ってアラドも電話を切った。






 アラドを乗せたタクシーは、子供の島に通じる大陸の港に着いていた。ほとんど同時に別のタクシーが着き、キットが降りてくる。


「同じタイミングだな」


 キットもアラドに気づく。キットはアラドに尋ねる。


「リールはどこだ」

「おれも探している所。あの島に行きたいんだけど……」

「……ヤマシタの住んでいたアパートを見てくる」


 アラドは周りを見渡し、ボートの上で作業している漁師らしい男を見つける。


「おじさん、悪いんだけどこの先の島まで連れてってくれませんか」


 帽子を目深にかぶった、色の白い男だ。野暮ったい格好で歳がいっているようにも見えるが、よく見ると三十代くらいの若い男だ。


「あの島は今はリゾート地にするために開発中だよ。近い内にオープンするとは聞いたが、あんた関係者かい?」

「まあそんなところです」


 アラドはとにかくそこへ連れていってほしいと言って財布を出す。漁師は金なんか要らないと言うように手を振った。


「連れていくのはいいが、今は誰もいないと思うよ? 今日は人が入ったのを見ていないから」


 アラドがそれでもいいと言っている内に、キットも戻ってきた。


「二人で行くのかい?」

「はい、お願いします」


 二人が乗ると、漁師はボートを走らせた。その間にキットとアラドは話す。


「ヤマシタは?」

「やはりいなかった」

「そうか」


 キットは運転している漁師に視線を送る。


「あれは本当に漁師か?」


 漁師ならもう少し日に焼けていそうなものだが、と思う。それにボートには釣り道具もあまり乗っていない気がする。


「さあ……去年までおまえ達が出入りするのを見てたとは言ってたけど」

「それはない。おれ達はヤマシタに頼んで、必ず人のいない時間、人の目に触れにくい場所で荷物の上げ下ろしをしていた。ヤマシタは優秀だ。いい加減な仕事はしない」

「まあどっちでもいいよ。連れてってくれるならありがたい」

「そう……だな」


 子供の島だった場所に着いた後、漁師は二人にペットボトルの飲み物と軽食を渡す。


「どうせしばらくかかるんだろう? 持っていきな」

「ありがとうございます……」

「恩に着る」


 島の中へ歩きながら、キットとアラドは顔をしかめる。


「用意がいいな」

「全く……ちょっとむかついてきた」

「同じく……だ」


 二人が島の中に入るのを確認すると、漁師は電話をしだす。


「……はい、二人。キットゥス・ハウイとアラド・レイです……はい、大丈夫です。安全に送り届けます」






 アラドはリールと住んでいた家に向かった。子供達が住んでいたコテージハウスはリゾートにそのまま利用されるようで、何も変わっていない。崩れそうだった古い家屋などは取り壊されていて、空き地には新しいコテージハウスも作られている。


 カギはかかっていなかったので、アラドはそのままリールの部屋だった場所に入った。そこには子供向けの絵本が一冊取り残されている。リールは気に入った絵本を持っておく癖があったのを知っている。アラドは何の気なしにそれを読み始めた。






 旅するウサギ


ぼくは幸せを求めて旅するウサギ

幸せはどこにあるの?

幸せはどこにあるの?

ぼくには何もない

何もない

何もない

泣かないで

眠ってしまわないで

旅をしよう

ぼくは旅が好きなんだ






 アラドはレイリールの笑顔を思い出す。


「絶対に……いるんだよ……!」


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