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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十一話 グルジア・シュワルナゼ
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31-3.グルジア・シュワルナゼ

 パーティ会場になっている洞泉宮の広間からバルコニーに出たアクロスは、色々な考えを頭に巡らせながら頭を振っていた。カットはそんなアクロスに声をかける。


「アクロス?」

「カット、おまえはどこまで知っている……!?」

「落ち着けよ。最初から話せ」


 アクロスは少し深呼吸してからカットに向き直った。


「カット、もし今から話す事をおまえ達が……キットが知らなかったら、絶対にキットには知らせるな」

「……ああ、わかった」

「そしてもし、おまえ達が知っていたのなら……消えろ! 二度とおれと、レイリールの前に現れるな!」

「レイリール……? リールの事か?」


 感情が昂っているアクロスは潤んだ目でカットを睨んでいる。カットはそんなアクロスを真っ直ぐ見た。


「アクロス……アクロス、キットを信じろ。キットは確かに間違った。けど、絶対に意識してリールを傷つける事はしない」


 アクロスは目を閉じ、自分の知っているキットを思い起こす。そしてようやく頭が冷えてきた。


「そう、だな。確かにそうだ」


 アクロスは話し始めるのを待っているカットに頭を振った。


「悪いな、カット。やっぱりおまえにも話せない」

「?」

「知れば、おまえもキット同様、あいつらを許さない。おまえ達にその気がなくたって、おまえ達のパワーだとあいつらを殺してしまうかもしれない。おれは墓場までこの話を持っていく」


 カットは普段は軽い雰囲気のアクロスが、真剣な目をしているのを見る。カットはもう聞くまいと頷いた。


「一つだけ、教えておいてやる。子供の島の計画はまだ続いている」


 カットはそれも詳細を話せないのか? と無言の問いかけを送る。アクロスもそうだ、と無言の返事をする。


「キットにリールの事は忘れろと伝えろ。あいつはもう別の幸せを手に入れた」

「忘れる……と思うのか」

「おまえ達の中のリールは、もうリールじゃないんだろう?」


 カットは眉をひそめる。


「忘れられるさ。キットも、別の幸せを手に入れられるといいな……」


 アクロスはカットの隣を通って会場に戻った。カットは少し考えてから、キットの元へ戻った。






 会場に戻ったアクロスに、ドルが陽気に声をかける。


「アクロス、久しぶり!」


 そう言った後、周りには見えないように神妙な顔で二人は話し出す。それをキットは見ていた。


「久しぶり……という顔じゃないな」


 キットはアクロスとドルの様子を見ながら、戻ってきたカットの名を呼ぶ。カットもアクロス達を見ながら話し出す。


「計画はまだ続いている。アクロスは話を墓場まで持っていくと言った」

「……なるほど」


 たくさんの言葉でなくとも、二人の間では通じ合う。キットは顎に手を当てて考えた後、口を開く。


「カット、あのリールは本当にリールか?」

「おれもそう思ってた所だ」

「正直、考えないようにしていた。リールを朝まで抱いた日……」

「あ、ああ、うん」


 カットは思わず微妙な返事をする。キットも冷静を装っていた顔が崩れ、眉間にしわを寄せる。


「い、いや、思い出したくはないんだが……」


 キットの記憶の中では抱いたリールは、男のリールになっている。それを思い出すのははばかられたが、しかしキットはなんとか記憶を手繰り寄せた。


「あの時、おれは確かにあいつの乳房に噛みついたんだ」

「え? か、噛み……?」

「ああすまん、後でまた殴ってくれ。……乳房、だった。男じゃあない」

「じゃあやっぱり……」

「あいつはリールじゃない。少なくともおれが追いかけて、抱いた者ではない」


 キットは会場内を見回し、元は子供達だったみんなを見る。


「おれはリールを探す。カット、おまえもテレビに出ろ」

「え? なんで?」

「おれと仕事を分担しろ。でなければおれはリールを探す時間を作れない」

「お……おう」


 カットの煮え切らない返事に、キットはじろっと目を向ける。


「なんだ、その返事は」

「だって、おれ顔知られたくない……」

「諦めろ」

「ひでえ……」


 キットとカットの後ろで、ドルとアクロスはひそひそ話していた。


「カットに何話したんだよ……!」

「何も言っていない。おまえも絶対に言うな。このままごまかし続けるんだ。あいつらにもうレイリールは必要ない」

「わかってる……」


 ドルは悔しそうに頷いた。






 パーティ会場の中で、アラドは女の子達と談笑している男のリールを見ていた。アラドも今はモデルとして活躍している。そして勉強の方も、高校卒業の認定試験を受けるため頑張っていた。


 ただその忙しい日の中で思い出す暇がなかったが、こうして改めてリールを見ていると思う事がある。


 睨むようにリールを見ているアラドにイランが声をかける。


「どうした、アラド。浮かない顔して」

「……おまえ、あいつをどう思う?」

「あいつ?」

「リールだ」


 イランもアラドの視線の先にいる男のリールを見て、軽く頭を掻く。


「ああ……うん。なんか違和感はある……んだよなあ。おれ、本当にあいつを追いかけてきたのか……?」


 イランはリールを追いかけて子供の島に来て、そしてみんなと知り合う事ができた。だが追いかけた理由がいまいち思い出せない。


「追いかけて……」


 アラドも出会ってからずっとリールを追いかけていた。リールを想うあまり、自分をぼろぼろにしながら一月近く放浪していた事もある。子供の島にいる間も、リールのためならと、子供の姿になる負荷をずっと背負い続けていた。


 そこまでしたのはリールを愛したからだ。でも子供の島の生活が終わってから不思議とその気持ちが消えた。本当に愛していたのは、この会場の真ん中にいるリールなのだろうか?


 時々、母のノーラが「またリールを家に連れてきなさいよ」と言う。でも今はそんな気分になれない。なぜかと思いながら、アラドはリールとの思い出を探り、少し頭を掻いた。


「おれの記憶違いか……? あいつ、血が出たって言っていた」

「血?」

「初潮だよ。あいつ、おれの家にいる時に初めて生理が来たんだ」


 イランは首を傾げながら、男のリールに目をやる。


「つまり……あいつは女……?」


 アラドはリールを見つめる。あのリールは女の子達の前ではよく笑っている。だがアラドはその笑顔に惹かれていた自分の心がなくなっていると感じていた。


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