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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十一話 グルジア・シュワルナゼ
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31-2.グルジア・シュワルナゼ

 アクロスはくすんだ茶色の尻尾を持つグルジアを見て、レイリールの肩を掴む。


「おまえ、キットとグルジア、先に会ったのはどっちだ!?」

「キットだけど……?」

「おまえ、まさかグルジアにキットを見たんじゃないだろうな!?」

「ああ、そうかも。同じ有尾人だし、助けになってあげたかった」


 キットにあげるべき真心を、レイリールはグルジアに与えた。それに気づいたアクロスはさらに肩を強く掴む。


「全然、違うぞ!? キットとこいつは全然違うぞ!?」

「お、お父さんは本当は優しい人なんだ。たまにかっとなってしまう事があるけど、こんなぼくの事を辛抱強く待っててくれた……!」






 あくまでもグルジアを庇おうとするレイリールが理解できないまま、ドルは尋ねる。


「何をやらされようとしてるの、おまえ。グルジアに一体何を……」

「ドル、違うぞ、ぼくは……」

「フン、孕ませようとはしたな」


 レイリールの言葉を遮ったグルジアの言葉に、ドルの表情が一気に崩れる。


「な、何言ってんの、おまえ」

「ただおれも歳だ。久方ぶりだってのに、立ちやしねえ」

「う、ウソだろ……? ウソ……だよな?」


 アクロスも信じられないと言うように首を振る。レイリールはなおも「違うよ、お父さんは」と言いだしていたが、グルジアは構わず続ける。


「だからカールにやらせた。ポテトの奴はどうしてもダメだって言うからよ。しようがねえからあいつにやらせたんだよ」

「真面目に話してんだぞ!?」


 アクロスは涙目になってグルジアを睨む。


「ポテトには勉強させてえって言うんだ。おれだって鬼じゃあねえ。年頃だったし、ちょうどいいと思ったのによ」


 ドルも泣きそうになりながらも、なんとか言葉を絞り出す。


「なんの、ために……?」

「そいつはおれに主になってくれと言ったが、おれは信用していない。女を捕まえとくなら孕ませるのが一番だろ」


 アクロスはブチッときて、グルジアに体当たりを食らわせる。


「ちょ……!」


 レイリールはグルジアに駆け寄る。グルジアはレイリールに助けられて起きた。


「ってえな、本当に。何を怒ってるんだ、おまえ。キットだって同じ事をしようとしたろ」

「違う……全然ちげーよ……!」

「何が違う? 違うと言えるか? だからこいつはキットを選ばなかったんだろ」






 まだ子供の島の計画すら持ち上がっていなかった前、グルジアは滞在していたホテルでカールと話していた。グルジアは室内でも深く帽子をかぶり、タバコをくゆらせている。


「なあ、なんでそんな事するんだ? いくらおれだって罪悪感ってものがあるぞ」


 グルジアの計画を聞いたカールは、さすがに困惑の色を隠せていなかった。


「そりゃあおれは嫌じゃねえけどよお」


 孫持ちとはいえグルジアより一回り以上若いカールは、グルジアに逆らう事はできずにいる。グルジアは煙を吐き出しながら、いつもの唸るような声を出す。


「どーもこーもねえだろ。おれ達には後がない。もう嫌なんだよ。逃げ回って隠れて過ごすのは。せめて人生の終わりぐらい楽に生きさせろよ」


 カールとて有尾人だ。グルジアの苦労は痛いほどわかる。カールは渋々頷いた。






 レイリールは子供の島に来る直前のホテルでの出来事を思い出していた。ブラックはその時初めて百九十七センチメートルも身長があるダンと会った。ダンは気さくにブラックやグルジア達に挨拶していたが、ブラックはその巨躯にかつて自分を暴行していた男達を思い出した。


 レイリールはそんなブラックの話を聞き、ブラックの震える手を引きながら部屋を出る。そこをグルジアが見つけた。


「どうした?」

「あ、あの、彼、大きい男の人が苦手みたいで……でも他に居場所がなくて、もう帰れる所もないし……」


 レイリールはあまり詳しい事も言えず、たどたどしい説明をする。グルジアの身長は百六十六だ。グルジアが「おれは平気か?」と言うと、ブラックは頷く。


「じゃあ落ち着くまでおれが一緒にいておいてやる。どこか別のホテルでも取ってくれ」


 レイリールはほっとした。


(よかった。お父さん、やっぱり居場所がない人には優しい……)






 アクロスはグルジアに向かって叫んだ。


「おまえは、最悪だ!!」

「……当たり前だろ。こんな異常な島、底には人間の悪意しかねえよ。だからせめてもの親心で、愛する男と寝ろと言ったんだ。有尾人のガキであるのが一番だったが、まあそうでなくともいい」






 子供の島の住人だったみんなは大人の姿に戻り、ホールランドという都市まで来ていた。そこでそれぞれの生活を始めた。


 イランとオラデアは芸能事務所を立ち上げ、キットとアラドを売り出した。有尾人のキットはすぐにテレビの番組に取り上げられ、アラドもその美貌にモデルの仕事がついた。新しい生活を送る子供達の日々はあっという間に過ぎ、もう三月になった。


 レイリールにすり替わった男のリールは、みんなの生活が順調に進んでいる事を祝い、パーティを開く。


 子供の島の生活が終わった後、キットとカットを保護する仕事から離れていたアクロスは、久しぶりにキット、カットと再会した。


「アクロス、おまえどこに行ってたんだ?」

「ああ、おれは別の仕事が入っててな」


 アクロスはMAとしてまだ秘密厳守と言われている仕事をしていた。ろくな連絡も取れなかった事を謝りながら、キット達の近況を聞いた。しばらく話した後、すっかり垢抜けたキットとカットを眩しく思いながら、島での最後の日の事を少し話し出した。


「グルジアの正体? 知っているぞ、あいつは有尾人だろう?」


 キットの言葉にアクロスは驚く。


「知ってたのか!?」

「おれ達も隠していたからわかる。それに恐らくあの島を作ったのはあいつだ」


 アクロスはキットが予想以上の情報を知っていた事に、一気に不信感が湧く。


「キット、おまえどこまで知ってるんだ!?」

「どこまで?」


 キットは島でのグルジアの様子などから単にそうだと推測していただけだ。しかしアクロスはキットの答えは聞かず、余計な事まで喋りだしそうになった自分の口を塞いで、会場の外へ走り出した。カットがそれを追う。


「キット、久しぶり!」


 キットもアクロスを追おうとしたが、過剰にも思える陽気さでドルに話しかけられ、足止めされた。


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