30-12.モンスター
食堂にいたリールと別れたキットは、外に出て、ちょうど食堂の前を歩いていたカットとアクロスに聞く。
「おれ達はなぜこの島にいた……?」
「……?」
何を言っているんだと言いたげに、カットは眉をひそめる。
「答えろ、カット。おれ達はなぜこの島にいた?」
「なぜって……」
カットは上を向き、下を向き、しばらく考え込む。そして完全に混乱してしまったのか、なんとも頼りない表情になる。
「あ……あれ……? キ、キット、おまえ、男と寝た……?」
「違う! おれが抱いた女は女だった……! だったはずだ……!」
キットも目頭を押さえて、うんうん考え込む。アクロスは二人を不思議そうに見ていた。
アクロス達が食堂に入ると、リールは食堂に集まってきた女の子達と和気あいあいと話していた。誰もリールが男になった事に疑問を抱いていない。アクロスはリールを見て、また一度外に出て電話をかけ始めた。
「……ヤマシタ、アクロスです。ちょっと何がどうなっているのかわからないんだけど……リールが男になった」
ヤマシタは「そうか」と言い、自身の任務――キット、カットの保護管理――以外の事は考えるなと答えた。レイリールがどこに行ったのかはわからないと言った。
食堂ではいつも通り食事が始まった。グルジア、カール、ドル、アクロスは、リールをちらちら見ながら食事している。リールはにこやかにアンナに話しかける。
「アンナ、食後のコーヒーもらえる?」
アンナは一瞬、躊躇するが、すぐににっこりと笑って「ええ、いいわ」と返事した。
それから五日後、子供の島の生活は終わった。島を出た子供達のほとんどは、ホールランドで暮らし始めた。
エドアルドは看護師の勉強を始めたルテティアと同棲し、自動車の整備会社に勤めた。
ブラックはグルジア、カールと一緒にハウスクリーニングを主とした便利屋の仕事を始めた。
ダンはサーシャと、オラデアはキーシャと、それぞれ一緒に暮らすようになった。
オラデアはイランと一緒に芸能会社を立ち上げた。有尾人の認知度を上げるため、キットを売り出す事にしたのだ。容姿に優れたアラドも同時に売り出す。それにカイナルの絵を販売する仕事も手掛けた。
カットは必死にミルキィに頭を下げ続けた結果、ようやく許してもらい復縁した。
タルタオはリアル教の司教として活動している。
ラウスはブルーと結婚した。そしてポテトに勉強を教えながらも、とある研究に没頭している。
ダンはMA――リールの部下――として、オラデアの会社をサポートする業務につき、ドルも学校に通いながらそれを手伝う。
アクロスはキット、カットを保護する任務からは離れたが、そのままMAとしてリールをサポートする仕事についた。
子供達の生活は何事もなく順調にいっていた。リールが男になってしまった事以外は。
そしてその前にまた一つ、隠されていた計画が明らかになる。
次回 第三十一話 グルジア・シュワルナゼ




