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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第五話 学校
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5-1.学校

 座敷の席で並んで座りながら、エドアルドはまだ少し涙に濡れた目で、だが笑顔で、ドルの言葉に答えていた。エドアルドの背中をさすっていたリールも嬉しそうに笑う。カットもそれを見ながら珍しく笑みを浮かべている。立ち上がって睨み合っていたアラドとタルタオも、座敷の席の穏やかな雰囲気を見て、仕方ないというように頭を振って座った。


 一方テーブル席に座っている女の子達は静かだった。笑顔で話しているリールを見て、一人が小さな声で呟いた。


「……淫売」






 イランも笑顔がなかったエドアルドが笑うようになった事にほっとしていた。「死にたがってる」なんて言葉を聞いたからなおさらだった。


 エドアルドが来てから少なからず島の雰囲気が変わった。有尾人以外の子達は有尾人の子達に気持ち距離を置いていた部分があったが、それがなくなってきたような雰囲気があった。


 イランは有尾人の子達に対して強い興味も嫌悪感もなかったが、話しかけづらいと思う部分はあった。それが今では一番普通の人間を嫌っているポテトでさえ、話しかければ返事するようになった。


 それからイランは年齢を聞くのがタブーじゃないと知って、気になっている事が一つあった。それを確かめるべく、リールを見つけて声をかける。


「学校?」


 島の中の道を歩いている所で声をかけられたリールは、振り返って足を止める。


「うん。ここの奴らの中に十代のやつって何人かいるみたいじゃん。普通に学校行かせてやらないとまずいんじゃないの?」


 イランが気になっていたのはそれだ。エドアルドは高校を卒業したと言っていたが、エドアルドと歳が近いと言っていたドルは十七、ポテトは十五だと知った。


「学校……」


 リールは神妙な面持ちで呟くように繰り返す。


「まさかその辺無視?」

「そういう訳ではないんだけど……」


 リールは複雑な表情を浮かべて答える。


「ここにいる十代の子達は、元々学校へ行ってなかったり、学校へ行けなくなった子達……なんだよね」

「そうなのか」

「正直学校に行くように強制できる立場ではないんだ。説得はしてみたんだけど、結局行ってくれない子達もいるし……勉強はしてくれてるとは思うんだけど……」


 イランはまたそうなのかと頷いてから、リールの顔をじっと見る。


「リールは?」

「うん?」

「前に十八歳って言ってたよな? 子供になる力がリールに効かないって事は、今が本来の姿って事でいいのか? 少なくともおれより年上じゃないよな?」


 今はこの子供の島にいるため、リールとアラドの力で十二歳くらいの子供の姿になっているが、イランは元々は二十三歳だ。リールが自分より年上だったらちょっと複雑だなと思いながら、リールの返答を待つ。リールは少し沈黙した。


「……聞かない方がいいか?」


 やっぱり今の十八歳くらいの姿はフェイクなのか? なんて事が頭によぎった所で、リールは先程よりも複雑な表情を浮かべて答える。


「いや、なんていうか、ぼく、本当は自分の年齢わかんないんだよね。実を言うと、学校も通った事ないし」

「小学校も?」

「うん」

「………………」


 イランは表情を変えずに絶句した。年齢どうこうという事よりも、そっちの方がショックだ。


「何か言ってよ」


 リールは沈黙に耐えかねて困ったように言う。


「いや、ごめん。衝撃的過ぎて。親は?」

「親はお父さん……がいたと思うんだけど、正直全然覚えてない」


 リールは一体どうやって育ってきたんだろう。気にはなったが、こんな道端で簡単に聞いていいものか分からない。リールもあまり聞かれても困る、という顔をしている気がする。イランはとりあえず頷いた。


「そうか。うん、オーケー。とりあえず他当たるわ」

「うん、ごめんね」


 イランはくるりと踵を返し、リールは去っていくイランの背中を見送っていた。






 イランは食堂の近くでラウスを捕まえて、ラウスに相談した。


「リールの年齢?」

「いや、本題は学校の方なんだけど」


 ラウスは少し考えるように、あごに手を当てた。それから食堂の隣の広場にあるベンチの方へ行き、座って話そうと言った。ラウスはベンチに座ったが、並んで座るのもな、と思って、イランはそのまま横に立った。他の人の気配がない事を確認して、ラウスは話し出す。


「学校の事はひとまず置いておいて、リールの年齢の事、ちょっと話そうか」

「……うん」


 イランはどちらかというと学校の事を問題にしたかったのだけれど、リールの年齢も気になっていた所なので、とりあえず頷く。


「この前エドアルドがリールに聞いたろう? リールは子供にならないの? って」

「ああ、力が強すぎるからなれないとか言ってたな。アラドよりリールの方が力が強いって事だろ?」

「いや、違う。前も少し言ったけど、大人を子供にするなんて超自然的な能力は、本来アラドのものではなく、リールのもののはずなんだ」

「そうなのか?」


 そう言えば以前そう聞いたなと思う。


「リールは自分自身を子供の姿にする事ができない。それはリールが自分の子供の頃の姿を知らないからだ」

「記憶喪失、とか?」


 イランはリールが自分の年齢も覚えていないという事から、そう推測する。しかしラウスは「いや」と首を振る。


「これはぼくの上司から聞いた話なんだけど……」


 イランは上司という言葉を聞いて、改めてラウスが何者かという疑問が浮かんだが、とりあえずその事は今は気にしない事にして、静かにラウスの言葉に耳を傾ける。


「リールは発見された時からあの姿だったらしい」

「発見……?」


 何か大事な話になりそうだとイランは思った。実際ラウスの表情は真剣だ。


「これ一応機密事項だから、そのつもりで聞いて」

「了解」


 イランが頷くと、ラウスは一呼吸置いてから言った。


「リールが発見されたのは、今から五十年近く前だった」


 イランは内心、リールがそんな年上だという事にショックを受けた。でもなぜ自分がそんなにショックを受けたのかは分からず、表情には出さなかった。


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