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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十話 モンスター
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30-10.モンスター

 ヴィルマがまったく逆側の席に座ってしまい、ローリーは不安げに戸惑う。


「え、わたし一人……?」


 カールがグルジアの隣に来た事もあって、カットがローリーの隣に座る。


「おれがいてやるよ」

「う、うん?」


 ローリーはしばらく何を話していいものか迷っていたが、意を決して話し出す。


「あの、キットはリールの事、好き……なんだよね?」

「そうだ」

「じゃあ、リールの会いたかった人って、キット、なんだよね……?」


 キットは小首を傾げる。


「わたし、最初キット達が来た時、怖い人達なのかな、って思ったの。いつもにこにこしてたリールが、辛そうな顔してたから。だからなんで連れてきたのって聞いたら、会いたかったから……って。会いたかったけど、会いたくなかったって。今でもよく意味は分からない。けど……キット達が来てから、リールはよく買い出しに行くようになった。それまで仕事の時以外は島の外に出るなんてあまりなかったのに」


 キット、カット、アクロスは驚く。ローリーは目線を下に向けた。


「わたし、リールはキット……の事、好きなのかなって思ったよ。でもわたしはこの島に来る前からリールと一緒にいて、リールがどれだけアラドを大切にしているか知ってる。だから嫌だった。二人も好きな人がいるなんて、気持ち悪いって心の中では思ってた」


 ローリーはまだ言葉を続ける。


「今でも思う……けど、アラドはリールを大切にしてる。リールのやりたい事をやらせてあげるために辛抱強く見守ってる。ブラックやイランもリールが好きで、リールの負担を軽くするために、リールの仕事を手伝ってる。キットもそうでしょ……? リールの負担を減らすために、リールの仕事を代わりにするようになった。キット……普段はあまり表情を変えないけど、リールを見ている時はすごく優しい目をしてたから」


 ローリーは手をぎゅっと握る。


「大切……なんだなあって、思ったよ」


 キットは驚きの表情でローリーを見ていた。ローリーは狼狽する。


「ご、ごめん。なんかよくわからない事言っちゃった。その、つまり……」


 キットの目から、ぽろっと涙が零れた。キットは祈るように手を合わせた。


「おれ、大切にしてたか……? 守ってやるって、大事にしてやるって言ったのに、傷つけてばかりだった。求めるばかりで、リールを全然見ていなかった。あいつはおれを許したのに、また傷つけた……」


 カットはキットを見る。


「あいつがおれに笑いかけたのはいつだ……? 最後に笑ってくれたのはいつだった……? 会いたい、リールに今すぐ会いたい……!」

「キットが……帰ってきた」


 カットは小さく呟いた。






 キットは涙を拭き、立ち上がった。


「リールの所へ行く。ありがとう、ローリー、ブルー、ルテティア、サーシャ、キーシャ、ヴィルマも……おまえ達もありがとう」


 キットは僅かだが頭を下げる。カットもアクロスもそんなキットを驚いて見ている。


「わたし、あなたに初めて名前を呼ばれた気がするわ」


 ヴィルマはお茶を飲みながら言う。


「そ、そうだな」


 ヴィルマはぼそっと話し出す。


「あの子、泣いてたのよ。わたしに初めて会った時、目からいっぱい涙を零しながら、わたしを見てた。辛くて苦しくてたまらないって、そう叫ぶかのように泣いてた。わたしはあの子、好きじゃないけど……」

「え!? そうなの? いつも隣に座ってるのに?」


 ポテトが驚いて口を出す。


「あの子がわたしを隣に座らせてるのよ」


 ヴィルマはまたお茶を飲んでふっと息を吐く。


「でも笑っている顔は嫌いじゃないわ」






 朝食を済ませたアラドは、女の子達がキットと話しているのを横目で見ながら、家に戻ってきていた。そこでレイリールと対峙しあう。レイリールは足を組んでソファに座り、その向かい側に座ったアラドは少ししかめ面しながらレイリールを見ていた。


「リール……いや、レイリールと呼んだ方がいいのか」

「ああ、うん。ぼくは元々リールと同じ人物だった。でもそれが分かれたのがぼく、レイリール。だからリールは本来君も会った事あるあいつの名前……」


 アラドはレイリールにそっくりなメサィアと呼ばれる男の事を思い出して頷く。


「まあ、どっちでもいいよ。ぼくがぼくである事に変わりはないし」


 アラドは昨日、レイリールがキットと二人で外に出ていた事に気づいていた。二人の仲が決して終わっていない事を、本能的に感じた。実際レイリールはアラドに近づいてこない。


 だがそれ以上に気になったのはレイリールの態度だ。今までのレイリールなら、二人の気持ちの板挟みにあうと、戸惑い困惑していた。それが今は何でもない事のように平然としている。


 気持ちをはっきりさせようと責め立てれば、振られるのは自分かもしれないと恐れて、今までは何も言えなかった。でも今は、レイリールの気持ちが自分にもあると知って、立ち向かう気になっていた。それなのに、レイリールはもうそれに苦しんではいない。


 アラドはイランから聞いた事を思い出した。一度はレイリールが邪魔をして聞き損ねたが、その後にイランはこっそり教えてくれた。






「レイリール。一つ聞きたい。おまえは消えるのか?」


 レイリールは少し驚いたように目を丸める。


「イランが言ってた。あいつの勝手な憶測だと思ってたけど」

「ハハ、兄ちゃん。難しい言葉を使うようになったね」


 レイリールはごまかすように笑った。


「茶化すな。おれは確かにバカだった。なぜこんな力が使えるようになったのかも深く考えずに、ただおまえを追っていた」


 アラドはレイリールを睨むように見る。


「消える……んだな?」


 ごまかすのは無駄だと分かったレイリールは、仕方なく頷く。


「そういう契約。この島の生活が終わる時、君達の中にあるぼくの記憶が消える」

「全て?」

「うん。ここで暮らした記憶自体が消える訳じゃないけど、今ここで話しているぼくが誰だったか分からなくなる」

「どうすればいい」


 レイリールは首を振る。


「どうもできない。もう既に決まっているんだから。ぼくは消えて、君達は新しい人生を歩みだす」


 なぜ、とは聞かなかった。そんな事聞きたくもないし、どうだっていい。リールは勝手に消えようとしている。それが分かるだけで充分だった。


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