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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十話 モンスター
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30-9.モンスター

 カットはまだ顔を上げられていないキットを見る。席に戻ったブルーはサーシャと二、三、話した。するとサーシャはキーシャを小突いた。


「え、うそ、やだ、なんで」


 キーシャは渋々サーシャと一緒に、さっきまでブルー達が座っていたキットの前の席に来る。






 サーシャは目を細めて睨んでいるような目でキットを見る。キーシャはあまり話をする気はなく、困り顔でサーシャの隣に座っている。


「で? あんたリールに何したって?」


 サーシャは単刀直入に聞いてくる。キットはサーシャを見て答える。


「セックス、した。怯えさせて、怖がらせた……」

「それで放置されて落ち込んでたっての? ざまあないわね」


 サーシャの言葉に、キットは若干イラついた。


「おれは愛した……何度も、何度も、何度も」

「何度もってどういう事? いなかったの、一日じゃなかったっけ?」


 ポテトが疑問符を浮かべて、カールに聞く。


「バカ、おまえ、つまりだな」


 説明しているカールと、それを変な顔で聞いているポテトは放っておいて、サーシャは喋りだす。


「わたしを凌辱してた男はね、わたしの事を好きだって言ってたわ。そう言いながら、わたしの意思などお構いなしにわたしを犯してた」

「お、おれ達聞いてていいんでしょーか」


 アクロスがそわそわと居心地悪そうにする。サーシャは構わず喋り続ける。


「好きだなんて言いながら、兄貴の言う事には逆らえず、わたし達を乱交パーティに連れ出していた」

「それは……ひどい目にあったな」


 サーシャの声と手は、微かに震えている。キットは先ほど感じたサーシャへの苛立ちを抑えた。しかしサーシャが意図する事は分からない。


「ダンに言うんじゃないわよ。言ったら殺すわ」


 キット達のすぐ後ろの席で、ダンは縮こまりながら小さな声で「き、聞こえてます」と呟く。キーシャは震えながら話し出した。


「わわ、わたし……は、そ、そ、その兄貴にいつも、弄ばれて……た。そ、そいつは、わたしを嬲って、反応を見て、楽しんでた……」


 キットは表情を変えないが、頭の中でプチッと何かが切れた音がした。キーシャは下を向いたまま喋り続ける。


「こ、子供、できて、絶望……した。流れ……た時は、死のうかと……思った……」


 キットは思わず腰を上げる。


「その男がこの場にいたら、おれが殺してやる……!」


 カットはあまりの話に頭を抱えている。ポテトも想像を絶する世界に絶句している。グルジアはサーシャとキーシャに声をかける。


「おまえさん方、苦労したんだなあ」

「フン、別にもう昔の事よ」


 サーシャはあくまでも強気を装って鼻を鳴らす。キーシャはまだ話し続けた。


「くく、苦しくて、し、死にたくて、たまらない時に、リールが来た。リールが、わたし、達の、代わりになろうとした。わ、わ、わたし達の代わりに殴られて……」

「場所を教えろ。今すぐ殺しに行く」


 殺気じみたキットを、サーシャは「バカね」という言葉で制する。


「許したのよ、あいつ。そいつらを攻撃して、苦しめて、それを謝ったのよ。バカじゃないの? あのまま殺しちゃえばよかったのに。わたし達がどんな目にあってたかも知らないで。だから嫌いなのよ、あのバカ」


 キットはたまらず瞳を潤ませた。


「下手な同情ならいらないわよ。わたし達が願ってるのはあのバカの幸せだけ。わたしとキーシャに安全と居場所をくれた。それでもう充分なのよ。まだ何かするとか言ってたわね。後で一発引っぱたいとくわ」


 キットは肩を震わせながら下を向き、頭を抱え込む。


「リールを怖がらせたですって? 本当にざまあない。許されて、のこのこ帰ってくるなんて何様のつもりよ」


 キットは辛そうに目を閉じる。サーシャとキーシャは席を立って戻っていく。戻り際、ダンは少し立ち上がって、サーシャの手に触れる。


「何?」


 サーシャは睨むような目のままダンを見る。


「い、いや、なんでも」


 席に戻ったキーシャは隣のオラデアを見る。オラデアもその視線に気づく。


「どうした?」

「な、何でも、ない」


 ダンもオラデアも、二人の過去を知っても二人と距離を取ろうとはしなかった。






 キットは目を閉じながらも、涙が出そうになっていた。するとカールが口を開く。


「リールはいい女だよなあ。そう思わねえか」

「なんだよ、じいちゃん、急に」

「わからん。ただそう思っただけだ。体だってきれいだ。あんなに傷だらけになったのによ」

「なんの話?」


 ポテトは分からないと言うように首を傾げる。


「ん? おまえ覚えてねえか。あいつおまえを庇って血だらけになったんだよ」


 キットは目を見開く。


「不思議な事にすぐ全部消えちまったがな」


 それを聞いてアクロスも口を出す。


「あー、それわかるよ。あいつ傷隠すのはすげーうまいんだよな。触ると痛がるくせに、見た目だけは何も感じないような顔してさ」

「なんの話だ」


 キットはアクロスを睨む。アクロスは少し口が滑ったと言うように頭を掻く。


「おれ達がここに来て、それからメラニアとミルキィが出ていった日、あいつ傷を負ったんだよ。おまえ達に見つかった時には既に傷ついてた。あの時、なんでおまえ達がリールと一緒に港に来なかったのか知らねーけど、その後いなくなってたのはたぶん傷を癒しに行ってたんじゃねーかな……?」


 キットはアラドと牽制しあって、リールを追いかけなかったのを思い出す。キットは震えた。


「な、何なんだ、おれは。おれはあいつにとっての何なんだ……」


 キットがそう呟いている間に、ローリーがヴィルマと一緒にキットの前の席に来た。






 ローリーはちょっと困ったような顔で、キットの前に座る。


「あ、あの、わたしは蚊帳の外で全然わかんないんだけど……」

「わかんないのに来たのか?」


 カットが聞くと、ローリーは気まずそうに「うん」と頷く。カットはそんなローリーをちょっとかわいいと感じる。背の低い小さなヴィルマは、特に面白くもなさそうに立っている。


「わたしは興味ないけど、ローリーが一緒に来てって言うから」

「あ、じゃ、こっち座る?」


 そう言ったのはポテトだ。ポテトは小さなヴィルマが気になるようだ。「じいちゃん、邪魔!」と、カールを追い出し、ヴィルマの席を空けた。ヴィルマは呼ばれるままそこに座ってしまった。


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