30-4.モンスター
「きれいだな……」
そう言うキットの表情には覇気がない。レイリールにキスし、体にキスマークをつけていく。
「い、痛いよ、キット」
「黙れ……」
首筋、胸、二の腕、わきの下、乳房、お腹、それから太ももの内側に特に多くキスマークを残していく。レイリールの乳首を捻るように掴み、乳房に噛みつく。
「痛い! キット、もうやめて!」
覆いかぶさっているキットを、レイリールは蹴って押しのけようとするが、キットはそれを簡単に払いのける。
「も、もうやめて! き、君はできないだろう!?」
「……そう見えるか?」
レイリールはキットの下半身を見て怯えた。
「犯したくて、犯したくて、犯したくてたまらないな。おまえをおれのものにしてやる……!」
キットの表情には怒りが湧いていた。キットはレイリールの中へ入っていく。
「ま、待って!」
「待つ理由などない」
抵抗するレイリールなど意に介さず、無遠慮に入っていく。
「待って、待って、待って!」
ずんっと突くキット。
「入った」
キットは笑みを浮かべて、見下すようにレイリールを見る。
「ハッ、ハハッ、やっとおれのものになった」
キットはなおも抵抗しようとしているレイリールの腕を掴み、足を広げさせた。
「さあ、愛してやる。朝まで覚悟しろ」
「キ、キット……!」
キットはレイリールを強引に愛していく。レイリールは歯を食いしばってそれに耐える。
「気持ちいい……気持ちいいな。まだできる……まだ全然足りない……」
キットはレイリールにキスを浴びせる。
「なあ、おれを愛してると言え。愛してると言えよ」
レイリールは息も絶え絶えに答える。
「あい……してる」
「もっとだ。もっと言え」
「あい……して、る。あい……してるよ、キット……!」
レイリールはほとんど泣きながら叫んだ。
そして何度も続いた行為が終わった。レイリールは横たわったまま動かない。キットはベッドの端に座り、ぼーっと空を見つめていた。それからしばらくして、レイリールの横に戻って、レイリールの頭にキスをした。
「すまん、もう一度していいか……もう激しくしない……」
レイリールを仰向けにし、もう一度入ろうとする。
「……立たない。なんでだ……もう一度入りたい……おまえの中に入りたい……」
キットは頭を垂れてうつむいていた。
「満足したか、キット」
突然レイリールの強い声が響いた。キットはゆっくり顔を上げる。
「もういいだろ、おまえ。ぼくを抱いて気づいたはずだ。おまえはぼくを愛していない。愛しているのは自分だけだ」
レイリールの目から涙が零れる。
「ぼくを愛していないのに、ぼくを抱くな……!」
キットの表情が崩れ、苦痛を感じているかのように歪む。
「おれは、何か間違ったか……!? 愛してる……愛しているはずだ……!」
レイリールはしゃくりあげるほど泣いていた。
「何を愛してるんだよ、おまえ」
「おまえだ……おれはおまえだけだ……!」
レイリールは首を振る。ティッシュを取って涙と鼻水を拭き、そして横を向いた。
「少し寝させてくれ……疲れた」
キットの傷ついた左手が震えている。キットは顔をしかめたまま横になってレイリールを抱きしめた。
「わからない。わからない。おれは何をしたんだ……!」
レイリールとキットが戻ったのは翌日だった。港で街の方角を眺めていたカットが、歩いてくるレイリールとキットに気づく。
「戻ってきた」
カットの言葉を聞いて、後ろにいたアクロスとヤマシタも振り返る。カットはレイリールとキットを見つめた。レイリールの首元にはキスマークがいくつも覗いている。しかし二人の表情は暗く、レイリールは憔悴しているようにも見える。近づいてきたレイリールとキットに尋ねる。
「何をした?」
「何……なんて、わかってるだろ……」
レイリールが疲れた顔で答える。
「そういう意味じゃない。キットに聞いている。リールに何をしたんだ」
「……抱いた。何度も、何度も……ぼろぼろになるまで抱いた」
それを聞いてアクロスが引いたように言う。
「なんだそれ、こわ……」
カットは誰の事もまともに見ようとしないレイリールをじっと見た。特にキットの方を見ない。まるで怯えているように。
「……リール、おれを大人に戻してくれ。アクロス、おれの服を頼む」
「お、おう?」
カットは服を脱ぎ始める。
「痛みは絶対に肩代わりするな」
「う、うん……?」
なぜ今カットが大人に戻ると言い出したのか分からないまま、レイリールはカットを大人に戻す。大人になったカットは痛みに唸り、それが治まってきた頃、服を着だす。
「間抜けな絵面だと思わねえか。大人が子供になったり、子供が大人になったりよ……」
誰も何も答えない。カットは服を着終わった。
「何のためかなんてわからねえ。おれがわかるのは一つだけだよ」
カットはキットの前に立った。
数秒の沈黙。次の瞬間、キットの顔にカットの拳が飛んだ。キットはたまらずふらついて膝を折る。
「ヒッ……」
レイリールは悲鳴を上げかけ、震える。
「怖いなら向こう向いてろ、リール」
背中越しにレイリールにそう言い、カットは指を鳴らしながら、キットを見下げる。
「悪いな、キット。今のは手始めだ。今からがホントのリールの分だ。おまえにリールを愛する資格なんてねえよ……!」
レイリールはカットがキットを殴る音に怯えた。
「カ、カット、お願い、やめて……」
レイリールはキットを庇うように、カットの前に割り込む。
「わ、わかるだろ!? 全部ぼくのせいなんだよ! ぼくは人の心を惑わすモンスターだ。ぼくが彼と出会ってしまったからこうなった。ぼくがいるせいで全てが狂ったんだよ! ぼくさえいなければ、キットはキットの夢を叶えられた……!」
カットはそう言うレイリールを抱きしめた。
「おまえはバカだ! おまえのおかげで全てが動き出したんだよ! おまえがおれ達に出会ってくれたから、おれ達はここにいるんだ!」
キットはレイリールに手を伸ばす。
「リール……やめろ……触るな」
カットはレイリールの頭を抱えながら、もう一度キットを殴った。
「それしか言えねえのか、おまえ。おれの兄ちゃんはどこ行ったんだよ。おれが憧れた、かっこいい兄ちゃんはどこに行ったんだ」
キットは何も答えられなかった。




