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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第三十話 モンスター
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30-2.モンスター

 レイリールの精神世界の中、メサィアと呼ばれる少年は頬杖をついたまま、無表情で前を見ている。


「モンスターを消すつもりの計画の中で、モンスターを暴走させてしまうとはな」


 レイリールは足を組んで、天を仰いでいる。


「彼にイタズラしてしまったのは事実……むしろ結果的にはよかった。愛されたいと願う力(あのモンスター)のした事が、かえっていい方向に転がった」

「レイリール……おまえはあの(あるじ)のいう事に従うのか」

「結果的にはそうなるな。まあ子供を作るなんて、おまえの望みでもあり、主の目的を叶える手段でもあったんだから、結果は同じだった」


 少年は軽くため息をつく。


「ぼくは子供にメサィアの力を移したいとは思っていない。ぼくの前の奥さんはぼくとの間に子供ができなかった事を悔やんでいた。だからぼくは死ぬ前に子供を作ってみたいと思っているだけだ」

「ぼくだって子供や……誰かにこの力を押しつけたいなんて思っていない。そう言ったのはキットをごまかすための方便さ」

「……アラドを諦めさせるための計画はどうなっている」

「それが問題。モンスターが暴走すると、計画が狂う。モンスターは死にたがっていない」


 少年は眉をひそめる。


「モンスターが暴走しているのは、アラドに対してじゃない。主に対してだ」

「愛されたいと願いもするさ。ぼくは二度とお父さんに捨てられたくないんだ」

「おまえはぼく……」

「ぼくはおまえ。主の愛情を求める、主のための道具」

「モンスターめ……!」


 レイリールは天を仰いで笑った。


「ハッ、どっちが」






 翌日、子供の姿に戻ったアラドは昼食の時間になって、いつも通りの席に座っていたが、食事が配膳された後、少し考えて自分の食器をキット達のいる座敷の席へ持っていった。キットの前、カットの隣に座る。


「なんだ?」


 キットが不思議そうにアラドを見る。


「ん、今までおれ、おまえ達とゆっくり話した事なかったな、と思って」


 カットとアクロスも少し警戒してアラドを見る。キットはさすがに意味もなくケンカ腰になる事はせずに、ただ「用件があるなら早く言え」と言う。


「今は食事の時間だろ? 一緒に食べようよ。おれ、おまえ達の食事も食べてみたかったんだ」


 食事はそれぞれの好みに合わせて、メニューも違って作られている。キット達はアラドの意図も理解できないまま食事を始める。アラドはキット達の食事が乗せられている大皿に手を伸ばす。


「それ、食べてみていい?」

「ああ、皿取ってきてやる」


 カットが立ち上がって、取り皿を持ってくる。


「ありがとう。……ああ、結構いける。というか普通にうまい」


 アラドがそう言うと、アクロスが返事する。


「あ、まじで? おれ最初は香辛料独特だなーとか思ってたけど、食べなれると割といけるよな」


 カットはアラドの皿に乗っている肉料理が気になる。


「おまえのもらってもいいか?」

「もちろん」


 カットはアラドが切り分けてくれた肉を食べる。


「うお、なんだこれ、めちゃくちゃうまい」

「カットは肉好きなのか?」

「ああ、でもこんなうまいの初めてかも」


 カット、アクロスは普通にアラドとなごんでいる。キットも静かに口を出す。


「……おれもくれ」

「いいよ」


 アラドは皿をキットの前に置く。キットは特に表情もなくぱくっと食べ、「うまい」と呟く。そしてあっという間に残りも平らげた。


「あ、おれにもくれよ……」


 食べ損ねたアクロスが肩を落としている。


「おかわりはないのか」


 キットはまだ名残惜しそうに言う。それを見てアラドは笑顔を見せる。


「ハハ、気に入ってくれて何より」

「もっと食いたいな」

「今度作ってやろうか?」

「おまえ料理できるの?」


 アクロスが意外そうな顔でアラドを見る。


「簡単なものならできるよ」

「これ簡単なのか? おれにも作ってくれ」


 カットもよほどおいしかったようでアラドに頼む。四人はわきあいあいと食事していた。






 座敷の様子を、椅子の席からダン、ドル、オラデアが見ていた。ドルは少し笑んでいるオラデアを見る。


「おまえ、なんか機嫌よさそーだね?」

「ああ、あいつおれが見込んだ以上の男かもしれねえなと思って」


 オラデアは以前、アラドやキットに「気づけねーんなら、おれがする」と宣言した事があった。その口足らずな言葉を二人は理解していなかったが、アラドは今それに気づきかけていると、オラデアは感じた。リールを幸せにするために、アラドはキットとの決着をつけに行っているのだと思えた。


 ほとんどの子の食事が終わり、人がまばらになった食堂にオラデアはまだ座っていた。


「オラデア、まだ残ってんの?」

「ああ、一応な」

「じゃ、冷たいお茶でも持ってくるよ」


 ドルがお茶を汲みに行っている間に、ダンは「おれは先帰るぞ」と言って帰った。ドルはオラデアにお茶を淹れるついでに、まだ座敷で話をしているアラドやキット達にもお茶を配る。


「お、サンキュー」

「ありがとう」


 それぞれドルにお礼を言ってお茶を飲み、一息ついた所でキットが話を切り出す。


「そろそろいいだろう。要件を言え」

「せっかちだね、おまえ」


 アラドはナプキンを軽く畳んで横に置く。アクロスとカットは二人の邪魔をしないように、隣のテーブルの席に移った。アラドはまたお茶を一口飲んでから話し始める。


「話してみてわかった。おれ、やっぱりおまえの事、嫌いじゃないよ」


 キットは黙ってアラドを見つめている。


「正直おまえには負けるかなって、ずっと思ってたんだ。不安で不安でしようがなかった。おまえかっこいいもん。おれと違ってなんでも持ってる」


 アラドは少し姿勢を崩し、天を仰ぎ見る。


「おれはおまえと仲良くしたい……けど、そうはならないんだろうなあ」


 訝しげに見ているキットの前で、アラドはくっくと笑い出す。


「おれ、今はおまえに負ける気しないわ。わかったんだよなあ、全部わかった」

「……何が言いたい?」


 アラドはキットに向き直り、テーブルに頬杖をつく。


「もう離す気はないって事」


 それがリールの事だとキットにはすぐにわかったが、その次の言葉までは予期できなかった。アラドはにやっと笑いながら、低く声を発した。


「……した」

「何?」

「した。意味わかるだろ?」


 キットは驚きの表情になり、動きが止まった。


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