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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十九話 キット
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29-3.キット

 キット達は翌日も変わらず自分達の仕事をした。大陸の港で、船に今日の荷物を運びながら、アクロスはぼーっとしているキットに声をかける。


「キット、本当に島を出るのか?」

「わからん……」


 カットとアクロスは朝もキットから話を聞き、リールと子供を作った男は消えてしまうという話を一応は理解した。カットは考え込むように眉をひそめている。


 その内ブラックの様子を見るために一日街の方にとどまっていたリールがやってくるのを見つけた。


「ああ、ごめん。君達、まだしてくれてたの。悪いね」


 リールの表情も元気がない。


「リール……!」


 カットはリールに詰め寄ろうとするが、何を言えばいいか分からず呼んだままになる。リールは平静な顔で答える。


「ブラックは大丈夫だ。子供の姿にした時の負荷も考えられるから、しばらく診ておいてもらうようにした」


 アクロスはリールに尋ねる。


「ブラックは消えるのか……?」

「もうしないよ、もうしない」

「でも、できてたら」

「最後までした訳じゃない。ブラックは最後までぼくを抱かなかった」

「そ、そうなのか」


 アクロスは思わずキットを見るが、キットは無反応だった。船に乗ったアクロスはまたリールに尋ねる。


「そもそもメサィアの力がある事の何が問題なんだ?」

「……ぼくは永遠に監視される。許されたのはこの島にいる時間だけだ」

「赤ん坊を作れば解放される、のか?」

「……そう」


 それを横で聞いていたキットは歯ぎしりして頭を掻く。リールはそんなキットを静かに見つめる。


「キット、ぼくは君に君の夢を叶えてほしい。だから……ぼくの事は忘れてよ」


 カットはそう言うリールとキットから目を逸らした。そして島の港に着く。


「ごめん、先に行くよ」


 リールは待っていたアラドと共に島の中に戻っていく。カットはそんなリールの背中を見送りながら、苛立たしそうに頭を掻いた。


「おれが……子供を作って消えてやれば……!」


 そうすればその後キットはリールと一緒になれると言いたげなカットを、アクロスはたしなめた。


「バカ、そんな簡単にするもんじゃないだろ」


 キットは黙って荷物を運び出していた。






 家で事務作業をしているリールの所にカールが来た。カールはいつものとぼけたような表情でリールに声をかける。


「リール、おれと子供作るか?」

「え?」

「な、何言ってんだ、じいちゃん」


 カールの後ろについてきていたポテトがたじろぐ。


「子供作ればリールが自由になるって話じゃなかったか?」

「いや、そう、だったけど」

「おれはリールに恩がある。できのいい孫にも恵まれた。別に消えたって構わねえよ」

「な、なな、何言ってんだよ! クレイラはどうするんだよ!」

「だってあいつ一応旦那がいるんだろ? そりゃ一緒にはいてえが、それとは別問題だろ」

「そうだけど! でも、バカ! じ、じいちゃんが死んだら、おれはなんのためにこんなとこにいるんだよ! 一人ぼっちになりたくねえよお……!」


 ポテトが泣きだしそうになっている横で、リールは静かに口を開く。


「そんな心配しなくても、もうする気はないよ。もう疲れた……」


 ポテトは途端に冷静な顔に戻ってリールに向き直る。


「そしたらおまえはメサィアとかいう力から解放されないんじゃないの?」

「……他の方法はまだ残ってる」

「何?」

「それは言えない」

「言えよ、バカ。っていうか、本当そもそもにしておまえがブラックを犠牲にしようなんて本気で考えてたわけ? この島の計画っておまえを治すためにあったんじゃないのか? いったいどこからどこまでが本当で、どこからが嘘なんだ?」

「ん? どういう事だ?」


 カールが顔に疑問符を浮かべる。


「だからこいつがブラックを、ブラックじゃなくても誰かを犠牲にしてまで、自分の自由のためにこんな事するかっていう話」


 リールは目を背けて苦笑する。


「ハッ、買いかぶりすぎだよ」

「下手なごまかしやめろって。おまえが話さないんなら自分で調べる。こんなふざけた計画、おれが暴いてやる」

「……あまりやりすぎないで」

「何それ? おれはこの子供の姿ってのも頭に来てるんだからな」


 ポテトはそれだけ言って部屋を出ていく。カールはリールの頭をぽんぽんと叩いた。


「心配するな。あいつは賢い。なんとかしてくれるだろ」

「うん、知ってる……」


 リールは視線を伏せて呟いた。






 その夜、アラドは家のリビングのソファに座るリールの頭を抱いていた。


「怖かったろ」

「ハハ、ぼくが……?」


 アラドが言うのはブラックがケガをした事だ。血しぶきを見て、リールは錯乱した。そしてその時、アラドはリールを落ち着かせるためにリールを引っぱたいてしまった。アラドはリールの頭をぎゅっと抱きしめる。


「叩いて悪かった」

「なんで兄ちゃんまで同じ事言うんだ」


 アラドはリールがキットにも叩かれたのを思い出して眉間にしわを寄せる。ふとリールの体から力が抜けた。


「お父さん……」


 リールは小さな声で呟く。


「ぼくはあなたを恨みます。どうしてぼくを置いていったんだ……」


 アラドはリールが催眠状態になったのに気づく。アラドに頭を抱かれるとなぜかリールは催眠状態になって、昔の記憶……メサィアの記憶を思い出す。


「ぼくはあなたに復讐する。あなたがくれたこの力で、あなたの血を引くあの子を苦しめ……」

「リール! レイリール! 思い出せ! おまえはレイリールだ!」


 アラドの叫びにリールは少し頭を動かす。


「……兄ちゃん?」


 自分を呼ぶリールの声にアラドはほっとする。


「兄ちゃん、大好き」


 リールはぎゅっとアラドの体を抱きしめる。


「リ、リール」


 アラドは思わぬ告白に、強くリールを抱きしめ返す。そして体をずらせてリールに唇を近づけようとしたが、気づくとリールは寝ていた。アラドは残念そうに肩を落とす。仕方なくリールを自分にもたれかけさせたまま、しばらく座っていた。そしてその内自分も眠くなり、目を閉じた。






 寝る前にキットはイランの家に来ていた。キットはリビングテーブルの横にぼーっと座っている。イランはそんなキットを不思議そうに見つめる。


「どうしたんだ?」


 キットはぼそっと呟く。


「酒が欲しい」

「酒? おれあまり飲まないから……ちょっと待ってろ」


 そう言ってイランは一度家の外に出た。


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