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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十八話 ブラック
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28-3.ブラック

 朝になり、リールとブラックは起きた。


「おはよう」

「おはよう」


 二人とも静かな表情で挨拶する。リールはブラックのトランクスの上からズボンを履く。そしてブラックを子供の姿に戻そうかと考えたが、自分が直接ブラックを子供の姿にすると、ブラックの負荷が大きくなってしまうかと考え直す。


「ブラック、悪いんだけど、朝食は後にしてもらえる? みんなに見つからないように一度島の外へ出よう」

「わかった」


 リールが出ていくと、ブラックもリビングにカイナルがいないのを確認して、トイレへ向かった。リールを触っていた感触を思い出して、頬を染める。その間にトイレのドアをノックする音が聞こえて、ビクッと体を震わせた。


「ブラック、入ってる?」


 カイナルの声だ。


「あ、ああ」


 ブラックはできるだけ短く返事する。子供の時もブラックの声は低いが、大人になるとさらに低い。それ以上喋ると大人の姿に戻っている事を悟られてしまうかもしれない。でもカイナルならば知られても問題ないか? と考えを巡らせていると、またカイナルの声が聞こえた。


「まあいいや、ぼく食堂の方のトイレ行くよ」


 カイナルが家を出ていった気配を感じ、ブラックは安堵して自分の部屋に戻った。そしてリールが来るのを待った。






 家に戻ってきたリールを既に起きていたアラドが出迎えた。アラドは部屋からではなく、外から来たリールを不思議そうに見る。


「リール、どこ行ってたんだ?」

「ん、ちょっと今日の準備するものがあってね」


 リールは平静を装いながら部屋の中に入り、ショーツを履き替えて部屋から出てくる。アラドはいつもと違う気がするリールの様子に少し首を傾げる。


「何かあったか?」

「何もないよ?」

「そうか……」


 それから二人は一緒に食堂へ向かった。






 食堂ではダンが席に座ったカイナルに声をかけていた。


「よ、おはよ。ブラックはどうした?」

「……今日は疲れてるみたいだよ。まだ寝てるんじゃないかな」

「ああ、昨日もそんな事言ってたな。大丈夫か、あいつ」

「大丈夫じゃない?」


 カイナルは特に興味なしという顔をして答える。それからキッチンから出てきたアンナに声をかける。


「あー、アンナ。ブラックの分、包んでよ。ブラック、ちょっと疲れてるみたいだから、後で持ってく」

「あら、珍しいわね。わかった」


 カイナルがちょうどアンナにそう言っている所で、リールとアラドが食堂に入ってきた。そしてリールも同じ事を言う。


「アンナ、悪いんだけど、ぼくとブラックの朝食包んでもらえる? 今日はブラックが外で研修があるんだ」

「研修? 島外に出るのか?」


 アラドが初耳だと言うように聞く。


「そうだよ。ごめん、前もって言っておくの忘れてたかな」


 リールがそう言うと、ダンが横から声をかける。


「それ他の日にずらせないのか? あいつ昨日から疲れてるみたいだぞ?」

「……ぼくが彼に休むように言ってたんだよ。今日の研修で帰りが遅くなるかもしれないから」

「そうなのか?」


 カイナルも頭の後ろで手を組んで、口を出してくる。


「あーそれ、ぼくも聞いてたかも。それであいつ朝起きてこなかったんだな」

「……そういう訳だから、頼むよ、アンナ」

「……そう言えばそんな話、してたわね。すっかり忘れていたわ。わかった。準備しとく」


 なぜかカイナルとアンナはリールに話を合わせてくる。アラドはそんなリール達を不思議そうに見ていた。ダンがまたリールに声をかける。


「キット達と行くのか?」

「いや……ちょっとまだ準備があるから、キット達とは別で行くよ。ヤマシタに迎えに来てもらう」


 ヤマシタは島外にいる大人の姿をした唯一の関係者だ。アラドは眉をひそめてリールを見る。


「二人きりではない……んだな?」

「研修って言ってるじゃない。ぼくはただの付き添いだよ」

「そうか……」


 リールの表情に少しの違和感を覚えながらも、アラドは渋々引き下がった。






 アンナはサンドイッチを包み、それをリールに渡す。


「ちょっと多めにしといたわ。研修頑張ってね」

「ありがとう」


 リールはそれを受け取って食堂から出ていく。アンナはにこにこしながらリールを見送った。






 リールはキット達が荷物を入荷するため出港していったのを見届けると、隠れていたブラックに声をかける。ヤマシタの船が来るまでの間、リールはブラックと朝食を食べる。


「カイナルに話した?」

「何をだ?」

「いや……」


 カイナルは昨日の夜、ブラックが大人に戻っている事を、いや、リールがブラックの部屋にいる事を気づいていたのかもしれない。だが朝の様子だとカイナルがそれを知っていても問題はないだろうとリールは考えた。


 所有しているボートはキット達が使っているため、ヤマシタがレンタルしたボートで子供の島に着く。リールは冷たい表情のままヤマシタに声をかける。


「ヤマシタ、今日はブラックの研修がある。わかったな?」

「? はい」

「キット達は港にいるのか?」

「ええ、荷物を積んでいる頃かと思いますが」

「そうか。じゃあ忘れるな」

「はい……」

(なぜブラックが大人に戻っているんだ?)


 ヤマシタは大人の姿でボートに乗り込んでくるブラックを見て不審に思うが、説明しようとしないリールに無理に聞く事はなかった。






 ヤマシタの運転するボートが大陸の港に近づくと、荷物をボートに積んでいたカットがそれに気づく。


「ヤマシタだ」


 カット達はヤマシタがボートを借りていったのを知っていた。キットとアクロスもそのボートを見る。そこからリールと百八十四センチメートルの男が出てきたのに気づく。


「ブラック、なんで大人に?」


 アクロスが驚いてブラックに駆け寄る。一度みんなが大人に戻った事があるので、それがブラックだという事はすぐ分かった。


「へえ、結構でかいな」


 今の子供の姿だと百四十六センチメートルしかないカットが、ブラックを見上げながら言う。アクロスとカットがブラックと話している間に、キットはリールに問う。


「なぜ大人に戻っている?」


 リールが答えないでいると、後ろからヤマシタが答えた。


「今日はブラックの研修があるんだ。ブラックには色々仕事を任せているからな。島内管理のため、研修を受ける時もあるんだよ」


 キットはリールを訝しげに見ていた。


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