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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十五話 カール、グルジア
145/209

25-3.カール、グルジア

 カールは意識はないままのポテトを負ぶった。


「リール、おれには薬師の知り合いがいる。そこの村まで行こう!」


 リールもまだ傷が治りきっていないためふらついていたが、なんとかカールについていく。


「ニウエ族の村、二、三度行った事があるんだ。二度と来るなと追い返されたけど。今こんな事態なら、追い払われたりはしないはずだ、たぶん……」


 カールは百七十三センチメートルと、全体的に身長の低い有尾人の中では背が高い方だが、それほど体力があるわけではない。ポテトを背負ったカールの足取りは遅く、翌日の夕方になってようやくニウエ族の村に着いた。






 ニウエ族の村の者達は、種族の違うカールと、海蛮人のリールを冷ややかな目で見た。リントウの家でもリントウはまるで歓迎せずカール達を出迎えた。リントウは咳き込み、その度に体に痛みを覚えるように顔をしかめた。


「話はわかった。ポテトの傷の手当はさせる。それに熱冷ましもやろう。だがカール、村によそ者を入れる事は掟破りなのだ」

「わかってるよ、リンちゃん。おれ達は村の外にいる。だけどしばらくいさせてくれ。今、おれ達の村は危ねえんだ。海蛮人がいっぱい入り込んできてる。あんな恐ろしい所、もう帰れねえ」

「……いいだろう。村の者には話しておいてやる」


 そう言ってからリントウはまたも咳き込み、唸った。


「リンちゃん、病気か? そう言えばちょっと痩せたんじゃねえか?」

「フン……不治の病さ。わしももう長くはないだろうな」

「じょ、冗談言うな、リンちゃん! リンちゃんまで死なないでくれよ!」

「わしが生きようと死のうと、貴様に関係あるものか。それよりさっさと村の外へ出ろ。ここはおまえ達のいていい場所じゃないんだ」






 カールとリールはポテトを包む毛布をもらって、村の外の森の中に来た。リールは焚火の用意をし、カールが食料と一緒に火種をもらってきて火をつけた。


「ポテトの熱、下がらないね……やっぱりこの熱は特別なんだ……」


 リールは少し疲れたようにうなだれたまま言う。


「大丈夫、大丈夫だ。ポテトは息をしてる。死んだりしない」

「うん……」


 座るのも疲れたリールは横になる。


「大丈夫か?」

「うん……ぼく結局何もできないんだなって……フレイクも死なせてしまった」

「フレイク……」


 カールは思い出してまた泣いた。失ったものはもう戻らないという寂しさを抱えて泣いた。






 リールの頭の中では、メサィアと呼ばれる少年の声が響いていた。


「機関が有尾人の島を攻撃する国へ、抗議の声明を出す事を決めた。もう戻って来い、もう一人のぼく。そこでぼくらにできる事はもう何もない」






 リールは半分目を閉じたまま、カールに言う。


「カール……君さえよければぼくらの国へ来ないか……? ここでの戦闘はまだしばらく続くだろう。君達をそんな場所に置いていくなんて、ぼくにはできない。ポテトの傷も完全には治っていない。だがぼくらの国の技術なら、ポテトの傷にも適切に対処してくれるはずだ」

「海蛮人の国なら……」

「それにポテトは賢い。ポテトなら勉強すれば、ぼくらの国でも立派に生きていけるかもしれない」

「勉強……」


 カールはぱちぱちと爆ぜる火の粉を見て呟く。リールはもう眠りそうなほど目を閉じかけていた。


「もう連れてきてはいけないと言われているけども……でもキットが、キットなら、有尾人が外の世界に出ても対等にやっていける、そんな世界を作ってくれるはずだ」


 そのリールの言葉はもうカールに聞こえる言葉になっていなかった。リールはそのまま眠った。






 カールは翌朝、リントウの前で頭を下げていた。


「リンちゃん! リンちゃんも海蛮人の国へ行こう! そこならリンちゃんの病気も治るかもしれねえ! このままリンちゃんを死なせるなんて、おれにはできねえよ!」

「バカなことを……! 海蛮人の国だと……!?」

「リンちゃんだって死にたいわけじゃないんだろう!? 病気が治ればまた戻ってくればいい! リールが手筈を整えてくれると約束してくれた!」


 リントウはカールを殴りたそうなほど顔をしかめていたが、それを後ろで聞いていたリントウの孫が口を出してきた。


「ばあちゃん、いいんじゃないか? おれはばあちゃんに死んでほしくない。まだ今の内なら山を降りる体力があるだろう? 今この人が来たのは、山の神様がくれたチャンスかもしれない」


 孫にそう言われてリントウは考える。リントウの他の孫や子には反対する者もいたが、リントウは最後に旦那の意見を聞いて決める。


「このまま死を待つより、おまえが生きる可能性に賭ける方がずっといい。行っておいで。おれ達はおまえの帰りをずっと待っている」


 海蛮人の脅威にほとんど晒されていないニウエ族だから出る言葉だった。リントウはカールなどには見せないしおらしい顔をして旦那の言葉を聞いた。そしてニウエ族の村を出る事を決心した。






 山を降りるまでは旦那と子供、孫がリントウを見送りについてきた。リントウよりさらに十近く高齢で、足腰のそれほど強くない旦那はそこでリントウを見送った。その先、数日かかるハウイ族の村までは子と孫が一人ずつついてきた。


 カールはまだ熱が下がらないポテトを、リールと交代で負ぶいながら歩いた。


「くそっ、おれがもっと若ければ……」


 ポテトを背負っている事で、カール達の旅は度々足が止まる。リールは少し考えた後、ぼそっと言った。


「できる、かも」


 リールはカールの首の後ろに手を当てる。リールが不思議な力を送り込むと、カールは二十代くらいまで若返った。


「何だ? どうなってる?」


 カールは若くなった手足を見るが、鏡もないためあまり変化に気づいていない。リントウとその子達は驚いてリールを見ている。


「リントウ、君も」


 リールがリントウに触れると、リントウも二十代くらいの若さになった。


「ばあちゃんも若くなった!」


 リントウの孫が叫ぶ。リントウは試しにぴょんぴょんと跳ねる。その後すぐに咳き込んだが、面白そうに笑う。


「げほっ、げほっ……ハッハ、体が軽い。よく動く」

「なんだ、おまえ。変わった奴だと思ってたけど、こんな魔術まで使うのか」


 カールは不思議な力を使ったリールを恐れもせず言った。


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