25-2.カール、グルジア
「……という訳だ。おまえ達、間違ってもカールに気を許すなよ!」
食堂の中でリントウは子供の島の女の子達に、カールの素行の悪さを語っていた。それを聞いていたポテトは不満そうに言う。
「違う、じいちゃんだけが悪いんじゃない。じいちゃんを誘う女が悪いんだ。みんなじいちゃんなら後腐れなく遊べると思って、じいちゃんを誘ってくるんだよ」
「ポテト、おまえは知らんだけだ。こいつの女に対する執着は異常だ。そうだな? カール」
「う……ん、まあちょっと遊んだりはしたかなあ」
カールはいつもの座敷の席で、バツが悪そうに座っている。カールの答えを聞いても、ポテトはまだ不満そうに言う。
「違う! じいちゃんが悪いのは誘いにすぐ乗っちゃう事くらいで、それ以外は悪くない! おれは知ってるんだ。じいちゃんの噂を聞きつけて、旦那に構われてないおばさんとか、処女を捨てたい女がじいちゃんを誘いに来てた事!」
ポテトはリントウに真っ向から反論する。当のカールは言い返しなどせずに、頬を掻いているだけだ。ブルーは椅子を動かしながら立ち上がる。
「ポテトとリントウのどっちの話が本当かわからないけど、リントウの言いたい事はわかったわよ。いくらわたし達でも、孫がいるようなおじさんの誘いに乗ったりしないわよ」
「要はカールが女の子に手を出さないように見とけって話でしょ。みんなで見張っていれば、カールだってそう手を出したりできないんじゃない?」
サーシャも言う。アンナは特に口を開かない。リントウは大きく頷いた。
「うむ。わしはいずれ家族の元へ戻らなければならん。その後の事はおまえ達に頼むしかない」
「リントウ、帰っちゃうのね」
「ああ、わしには待っている家族がいるからな」
女の子達に話し終えたリントウは、再度カールの前に立つ。
「カール、この島のみんなは家族だ。おまえも本当の家族と呼べる者を作れ。そうすればもうおまえが一人ぼっちで寂しいとかいう言い訳は通用せん」
「リンちゃん、厳しいなあ……」
カールはたじたじとなって縮こまる。女の子達はそれぞれ食事の支度や、仕事に戻っていった。
一年近く前、有尾人の住むカプルカ島で、キットと別れたリールはスパ族の村に来ていた。スパ族の村の近くの港には、スパ族を征服しようと海蛮人の船が来ていた。スパ族は当然に反抗して海蛮人と戦った。
リールは戦いを止めようとしたが、同じく海蛮人の一人と見られたリールはスパ族の者から襲われそうになっていた。リールは村外れまで逃げてくる。
そこでリールはカールと出会う。フレイクとポテトは反対したが、カールはリールをかくまった。カールは切り傷や擦り傷を負っているリールの頭を撫ぜた。
「こんな娘がよ、おれ達の敵であるわけはねえと思う」
「じいちゃん! じいちゃんは女に甘すぎるんだよ!」
「そうだぞ、父さん。海蛮人なんかかくまってるとバレてみろ。おれ達だってどうなるかわからないぞ」
カールはそれでもリールをかくまうと言って聞かなかった。
「おれもつまはじきもん、こいつもつまはじきもんだ。今さら何が怖いんだよ」
それから海蛮人とスパ族の村の交戦は日々ひどくなっていた。カール、フレイク、ポテトは食料の調達も兼ねて、村の様子を見に行く。そこでは今まさに交戦中だった。海蛮人は武装したスパ族の男達だけでなく、逃げ惑う老人や女、子供達にまでも銃を向ける。
リールもこっそりカール達の後をつけてきて、その惨状を見た。リールは思わず飛び出して、海蛮人の前に立ちはだかる。しかしあちこちで交戦している中で、それは僅かな力しか持たなかった。
フレイクは昔別れた妻が、他の男の子供達と一緒に逃げているのを見た。それに銃が向けられている事に気づいたフレイクはとっさに飛び出していた。
フレイクは撃たれ、倒れた。リールとカールはフレイクに駆け寄ったが、フレイクは苦しそうに血を吐き、そして息を引き取った。ポテトは怒った。涙を流しながら、撃った海蛮人に襲いかかろうとしたが、それをリールとカールが必死に止めた。
「ポテト、やめろ! おまえまで殺されちまう!」
リールとカールはポテトを羽交い絞めにしたまま、林の中まで逃げてきた。だがポテトの怒りは治まっていない。ひたすらに暴れ、ついにはリールとカールを振り切った。リール達を海蛮人が追ってきていた。
「ポテト、危ない!」
ポテトの体を数発の弾が貫通した。まだ弾が飛んでくる中を、リールはポテトを庇うように覆いかぶさる。リールにも数発の弾が食い込む。ポテトとリールを撃った者達は、リール達に攻撃が当たった事に満足し立ち去っていった。カールは腰を抜かしそうになりながら、涙を流しポテトとリールに近づいた。
「ポテト、リール、おまえ達まで死んじまうのか? おまえ達が死んだら、おれは一人ぼっちじゃねえか。頼むから死なないでくれ」
リールは傷の痛みに顔をしかめさせながらも、顔を上げる。
「まだ、死んでない。ポテト、君を死なせはしない」
リールは気を失っているポテトにキスをした。カールには分からないが、リールの不思議な力がポテトに流れ込む。ポテトはがはっと咳き込み、それからはあはあと息をしだした。
「ポテト! 生きてる! よかった、よかったなあ!」
カールはポテトを抱きしめるが、リールはポテトの額に手を当てる。
「ぼくの細胞を混ぜた唾液を与えた。だから体力は持つと思う。けど、熱が出てる……! ぼくが治そうとしたせいだ……!」
「サイボウ……? 熱……? 本当だ、熱い。リール、おまえは大丈夫なのか? あちこち血が出てる」
リールは精一杯辛さを出さないように微笑む。
「ぼくは大丈夫。ほら、もう傷が塞がった」
リールは傷を負っていた腕を見せる。カールは本当に治ったか確かめるため、恐る恐るそこに触れた。まだ表面を覆っただけで中が治りきっていなかったため、リールは痛みに顔を歪ませたが、カールはそれに気づかなかった。カールはすぐに傷が治ったリールを恐れなかった。ただ傷が治ってよかったと安堵した。




