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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十四話 ドル・リーズパーク
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24-4.ドル・リーズパーク

 心配そうにドルを探していたリールを、ドル達は見つける。


「ドル! よかった。無事だったのか!」


 汗を流しながら走ってきたリールを、ドルは軽くため息をつきながら迎える。


「おれは全然無事。むしろ心配なのはおまえの方」

「ん? どういう……」


 ドルはリールがこの計画が終わった後、死にたいと望んでいるという事を話した事を話した。


「喋っちゃって悪いね。おれはおまえのお兄ちゃんだけど、完全な味方って訳じゃないんだよな」

「ハハハ、君のそういう所は案外ぼくは好きなんだけどね」


 リールは少し困ったような笑顔を向けている。オラデアはそんなリールに顔をしかめる。


「おい、ごまかすな。おまえは死のうとしてる。それは本当か?」


 リールは静かにオラデア、ドル、ダン、ラウス、タルタオを見回した。


「言い方一つ……かな。ぼくは人として生きる方法を探しているだけだ。そして人には寿命がある。そうだろう?」






 タルタオは驚いたようにリールに近づく。


「見つけたのですか? 人として生きる方法を」


 リールは肯定とも否定とも言えないような首の動かし方をする。


「言っただろう? 実験だ。ぼくは長期間、君達を子供の姿にする魔法を使う事で、メサィアの力を空っぽにしようとしている。君達の体に負荷がかかりすぎないように、君や兄ちゃんを使って力を調整してはいるけれど、常にメサィアの力を使い続けてる。そうすればメサィアの復活する力も弱まるのではないかと期待して」

「なるほど。この姿にはそんな意味も……」

「じゃあ、今すぐ死のうとか、そういう話ではないんだな?」


 オラデアの問いにリールは一瞬だけ無表情になったが、ごまかしているのを悟られないように軽く笑って答える。


「ハハ、ぼくにはやりたい事がある。簡単に死んだりなんかしないさ」


 それを聞いて安心したダンとオラデアは、ドルを小突いた。


「いて、……おかしいなあ」


 ドルは小突かれた所を掻く。家に戻りかけたオラデアはまた振り返って聞いた。


「そう言えばこの島の計画が終わったら、おまえが遠くに行く事になるって話はどうなってるんだ? それじゃおまえのやりたい事ができないんじゃないのか?」

「ああ、それだけどね……行かなくて済みそうだよ。予定が変わったんだ」


 リールは特に笑いもせず言う。


「そうか……! それはよかったじゃねえか」


 オラデアは思わず顔をほころばせた。


「実はね、この島を出たらみんなにホールランドで生活しないか、提案してみるつもりだったんだ。君達はぼくの力の影響を受けてるから、その後の経過を見る意味でも、近くにいてくれた方がいいしね」


 その話を聞いたオラデア、ダン、ドルは、みんなで何かをやるにもそれは都合がいいなと頷いた。そして満足そうにして談笑しながら帰っていった。






 タルタオは不思議そうな顔をする。


「いいんですか、レイリール様。あなたのもう一つの目的は……」

「問題ない。むしろそれよりいい方法を思いついたんだ。みんなの記憶からぼくを消すのではなく、すり(・・)替える(・・・)。その方が都合がいい」


 タルタオはこの島の計画で、リールは最後にみんなの記憶からリール自身の記憶を消し、みんなの前から消える予定だと聞かされた事を思い出す。そうしてリールはメサィアとしての立場に戻るのだと思っていた。


 わざわざ記憶を消す理由もタルタオは知っている。


「なるほど。残酷なあなたらしい」

「ぼく、残酷かい?」


 リールは少しショックを受けたような、きょとんとした顔でタルタオを見る。


「ええ、あなたは誰より残酷ですよ。ただあなたの一番のお気に入りでいたいわたしにとっては、都合がいいので止めはしませんけどね」


 リールはリールを焦がれて追う者、つまりはキットやアラドの記憶から消えようとしているのだ。そうする事でその気持ちを終わらせようとしている。


「ぼく、彼らのためにやってるつもりなんだけど」

「それが残酷なんですよ。わたしが彼らなら、全力で引っ叩かせてもらいますね」

「それは……わからないな。ぼく、また間違っているのか……?」


 リールが考えこもうとした時、後ろから声がかけられる。


「リール、いいかい?」


 その声を聞いて、リールとタルタオは振り返った。


「あなたまだいたんですか」


 そこにはラウスがいた。ラウスはリールとタルタオの会話をもちろん聞いていた。そして声をかける前に「記憶をすり替えるなら、ぼくにも都合がいい」と呟いた事は、リールもタルタオも気づいていない。


「考えたんだけど、ぼくは先にこの島を出ようかと思う。実はポテトの学習能力が予想以上に高くてね。彼にしっかり教育を受けさせるために、色々準備しようかと思うんだ」


 リールはそれを聞くと、先ほどの会話を忘れたように明るい表情になった。


「へー、それはいいね。それじゃぼくの方も君に協力するように、ヤマシタや他のMAに伝えておくよ」


 その時、向こうから帰っていったはずのドルが走ってきた。ドルはリールの前に来て足を止める。


「リール、おれは自分の勘が間違ってるとは思ってないから。だからおれはリールの側にいるよ。だから、絶対に一人でどこかに行ったりしないで」


 ドルはそれだけ言うと、リールの返事も聞かずまた走っていった。タルタオは横からリールを見上げる。


「彼の記憶もすり替えるんですか」

「どう……かな」


 リールはドルの去っていった方向を静かに見ながら答えた。


次回 第二十五話 カール、グルジア

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