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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十四話 ドル・リーズパーク
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24-3.ドル・リーズパーク

 暗い島の夜の中、ドルを見失ったリールは携帯電話を握り、ダンに電話した。ダンの携帯電話がぶるぶる震えているのに、携帯ゲームをしていたオラデアが気づく。


「ダン、おまえの携帯鳴ってるぞ」

「うん? こんな時間に誰だ?」


 ダンが電話を取ると、リールの震えた声が聞こえる。


「ダン、お願いだ……ドルを止めて……!」


 リールから話を聞いたダンはオラデアにも声をかけ、家を飛び出した。






 ドルは崖の上で、大陸から続く水平線を眺めていた。


(おれは誰にも必要とされてない。どこにも行く場所もない)






「ドル! どこ行った!?」


 ダンはラウス達にも声をかけながら、以前同じように行方不明になったルテティアを探していた時の事を思い出す。


「どこに行ったのかな……? 島の西側の崖とか……?」


 確かドルはそう言っていた。ダンはイランにも声をかけに行っていたオラデアの横を走りながら言った。


「オラデア! 西の崖だ!」






 ドルはまだ海を眺めていた。


(おれには何もない。何もないから、何かができると思った時にそれに縋ってしまう。リールはこの島の計画。おれはそれを支えるお兄ちゃん。それでいい。それでいいと思ってたけど……おれにはやっぱり何もないのかな。やりたい事も、欲しい物もない。生きる理由も……)


 ドルは崖の先へ一歩踏み出した。崖の下の岩には波が打ち付けている。ドルの足は震えた。


(そう、死ぬのは怖い。おれはただここにこうしている事しかできない)


 その時、ドルはダンの声が聞こえた気がした。思い出す。ダンが初めてドルの体にある痣を見た時、何も言わずに頭を撫でてくれた事。たったそれだけでドルは涙が溢れそうになった。生きてていいんだと言われたような気がした。






「ドル!」


 今度ははっきりダンの声が聞こえ、ダンが走り寄ってくる。振り向いたドルはダンに抱え込まれるようにして捕まえられた。


「うわ、わ、何!? 危ないって!」


 ダンはドルを崖の先端から引きずり離す。


「ドル! おまえ飛び降りようとしてたのか!?」

「いたた、ちょっと放してよ。そんなこと考えてないよ」

「本当か!? 本当だな!?」


 ダンはドルを崖から充分に離してから、ようやくドルを解放した。そこに遅れてオラデアが重い体を揺らせて走ってくる。


「ぜえ、ぜえ、おまえら、おれを痩せさせる気か」

「オラデアまで……」


 オラデアはドルの前まで来ると、疲れ切ったようにどすんと地面に座る。


「おまえ、死ぬ気なのか?」


 オラデアはまだぜえぜえ言いながら、ドルに聞く。


「だからない、ないって」


 ドルは両手を振って答える。


「なんだ、リールの早とちりか……」


 ダンも気が抜けたように地面に座り込む。ドルも二人の前に座った。


「早とちり……って訳でもないんだけど……死にたい気持ちになる事はあるよ。おれには何もないから。だからそういう時は海の見えるとこに来る。それでどこかへ行けそうな気がするから。でも、それだけなんだよなあ……」


 ドルは空を仰いだ。空には少しの雲に隠れた月と、星が光っている。


「おれはまた殴られる人生に逆戻り。それだけ。おれには何もない。それを再認識するだけ」


 ダンとオラデアもドルにつられて空を仰ぐ。風が吹いて、月が雲から顔を出す。


「一緒に、何かやるか」


 ダンが空を見上げたまま言った。


「え?」


 ドルはダンを見る。ダンもドルを見た。


「この島の計画が終わったらよ、みんなで何かやるんだよ」


 オラデアはあぐらをかき、頭を掻く。


「馴れ合いはごめんだぜ。だが悪くねえ」


 ドルは頬に当たる風を感じながら、二人の顔を見る。二人の言葉はドルに対する同情から出たものではない。二人ともドルよりだいぶ年上ではあるが、そこには確かな友情があった。


「……そうか。この島の生活が終わったからって、何もみんなばらばらになる必要はないんだ」

「ハハ、当たり前だろ。せっかく友達になったんだ。今生の別れなんてなしだろ」

「今生の別れ……」


 ドルは何か決めたようにきゅっと膝を抱く。


「じゃあ、リールを止めようよ。リールが化け物だっていい。おれはリールに生きていてほしいんだ」

「何言ってんだ? ドル」


 ドルはダンとオラデアにこの計画の事を話した。ダンとオラデアは眉をひそめてそれを聞いた。






「リールは、いや、レイリールだ。レイリールは自分の存在が周りを不幸にしていると思っている。だからこの計画を最後に死のうとしている」


 その話をドルを探していたラウスとタルタオも聞いた。イランはドルを探すようにお願いしていたキット達やブラック達に、ドルが見つかったと報告しに行っていた。


「レイリールが死のうとしている? それは本当にレイリールがそう言ったのかい?」


 ラウスは確認するようにドルに聞く。


「はっきりとは聞いてない……けど、リールは自分が不死の怪物だから死を望むと言ってたし、この島の計画が終わったら消えるとも言っていた」

「それが本当なら、おれはリールを一発ひっぱたいてやりたい気分だぜ」

「ああ、おれもだ」


 ダンが指を鳴らしながら言い、オラデアも頷く。


「……そんなに心配する事もないと思いますけどね。あの人も以前のルテティアや、ドル、あなたと同じですよ。死を望んでいても、同時に恐れもしている。それに不死の怪物……まさにその通りですよ。あの人は死ねない」


 タルタオの言葉は冷たくも聞こえたが、タルタオはリール達が死ぬはずはないと信じているからこそ、そう言っている。ラウスも頷いた。


「とりあえずその件については、ぼくがリールに問いただしてみるよ。だからあまりみんなに吹聴しないように……」

「いや、おれは直接リールに聞きに行く」


 オラデアが足を踏み出す。その後にダンとドルも続く。歩きながらドルはぼそっと言う。


「そう言えばリールのメサィアの力は、愛されたいと願う力なんだって」

「メサィア? なんだそりゃ」


 ドルがダンとオラデアに説明している後ろで、ラウスは顎に手を当てた。


「愛されたいと願う力……?」

「そうか。だからあの人からメサィアの力が消えない……じゃあ誰の愛も求めなければ、メサィアの力が消える……?」


 タルタオの呟きを聞いて、ラウスはまた考え、一人で呟く。


「それなら誰からも愛されなくなったら……」


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