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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十四話 ドル・リーズパーク
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24-2.ドル・リーズパーク

 リールはアラドという少年の事を兄ちゃんと呼ぶが、本当の兄でない事はすぐ分かった。共同風呂で体中の痣を見られた後から、アラドはドルに声をかけてくるようになった。


「ドル」

「何?」

「今度一緒に勉強しないか? わからない所はイランやラウスに教えてもらえる」

「んー、おれはいいかなー。わかんないとこがあったら聞きに行くよ」

「そうか……」


 それから食事の時も、ドル、ダン、オラデアの空いている席にアラドが来た事があった。


「ドル、ダン、オラデア。今日はそこで食べてもいいか」

「いいぜ」

「おう」


 ダンとオラデアはもちろんと言うように返事する。アラドは空いているオラデアの隣に自分の食事を乗せたお盆を置く。


「どうした。リールとケンカでもしたのか」


 ダンが聞くと、アラドは少し顔を赤らめる。


「違うよ。ただあんた達と少し話してみたいと思って……その、エドアルドみたいにもっとみんなと話してみたいと思ったんだ」

「ハハハ、そんなにおもしろい話ないけどな」

「そーそー。オラデアの昔話がおもしろいくらい」


 ドルはいただきますの前にご飯をつまみ食いしながら言う。


「おれの話なんておもしろくもねーだろ」


 オラデアはいつものぶっきらぼうな調子だ。


「聞きたいな……おれももっとみんなと仲良くなりたい」

「おまえ、そんな素直な奴だったんだなあ」


 ダンが今さらのように言うと、アラドはまた少し頬を紅潮させて頷いた。ドルはアラドを睨んだりはしないが、笑いもしない。平静を装っていつものようにお喋りする。


「こいつさ、四人も彼女がいた事あるって信じられる?」


 ドルはオラデアを指差しながら言う。


「みんな金目当ての女ばっかですぐ別れたけどな」

「女関係ならアラドの方がすごそうじゃないか? 美人だし、女どもがほっとかないだろ」

「おれは……女苦手……」

「へー意外」


 ドルは学年は一つ違うが、年齢は同じ十七歳というアラドとの共通点を聞いても、心には何も感じなかった。自分と同じように、アラドが体に多くの傷跡を持っているのを見ても、何も思わなかった。


 アラドは自分でパンを焼いて、持ってきてくれた事もあった。


「ドル、おやつにパン焼いたんだ。食べないか?」

「あーうん、ありがと」

「おれ達の分もあるのか?」


 ダンがオラデアと一緒に横から口を出す。


「もちろんだ。食べてくれ」


 ダンとオラデアはうまいうまいと言いながら、ぱくぱく食べた。ドルも一個もらい食べた。


「……うん、うまい」

「そうか、よかった」


 アラドは少し頬を紅潮させて笑った。でもドルは心に何も感じない。


「なんか最近、アラド、おれ達によく声かけてくるね」


 アラドが去った後にドルは言う。


「おれ達に……っていうか、おまえにじゃね」

「おれあんまりアラドの事、好きじゃないんだけどな」

「そうなのか?」


 歩いていくダンとオラデアの背中を、ドルは小走りで追いかける。


「兄貴でいる気ないくせに、兄貴面してさ」

「うん? 何か言ったか?」

「なんでも」


 ドルはアラドがリールに対して兄以上の感情を持っている事も分かっていた。それなのにいつまでも「兄ちゃん」と呼ばれている事は気に食わなかった。






 みんな一度大人に戻り、そしてまた子供に戻してもらった日、ダンは子供の服に着替えた後、首を傾げる。


「改めて考えてみると、子供の姿なんて異常だよな。なんでこんな事してるんだ?」

「ダン、今さらなの」


 ドルは呆れたように言う。


「こういう実験だって言ってたよ。オラデアも聞いたでしょ?」

「あー、イランの奴は病気だったリントウの体力を回復するためだとも言ってたけどな」


 オラデアはよっこいしょとでも言いたげに、ラグの上に座る。


「アラドは大した事は話さなかった。キットの奴はこの計画はリールが自由になるためにあると言っていた」

「……おまえ、この計画の事調べてたんだ?」


 オラデアは「ああ」と頷く。


「リールがこの計画が終わったらもう会えなくなるって言ってたのが気にかかってな。当のリールはこの計画が終わったら遠くに行く事になると言っていた」

「そりゃ寂しいな。おれはリールにゃ恩があるから、いつでも会える場所にいようと思ってたんだが」


 ダンもお気に入りのビーズクッションの上に座る。


「おかしいと思わねえか……? なんでキットは自由になると言っていたのに、リールは遠くへ行かなきゃならないんだ?」

「そう言えばそうだな」

「……遠くに行った先で自由になるって事だろ。それより二人とももう夕食の時間だよ」


 ドルはのんびり座った二人を背にしながら言う。


「そういう考えもあるのか……?」


 オラデアはまだ首を傾げながらも立ち上がった。






 子供の島が終わる。ドルは崖の上で深く息を吸った。そしてリールとの会話を思い出す。ドルはさっきまで島の中のいつもの空き家でリールと会っていた。


 ドルは畳の上に座っていたリールの頭を抱きしめていた。


「リール、おれはリールとずっと一緒にいるよ。死ぬ時も……」

「ドル……ぼくは不死の怪物だ。そりゃあ死を望みもする。だが、君は違うだろう? 君の人生までぼくに巻き込む事は、ぼくはしたくない」

「おれはもう一人になりたくないんだ」


 ドルはぎゅっと強くリールの頭を抱く。


「ドル……君はぼくやもう一人のぼくと似ているな」

「もう一人の……? ああ、メサィアって呼ばれてる兄みたいな人」

「あいつは、いや、ぼくらはモンスターの力を持っている」

「モンスター?」


 ドルはその言葉の意味を聞くために、リールから離れ、その前に座る。


「モンスターとはメサィアの力そのもの。メサィアの力とは『愛されたいと願う力』だ」

「……なぜそれをモンスターと呼ぶの?」

「愛されたいと願うがゆえに、不思議な力を発現し、バカな行動を取る。それは人を惑わし、心を掴み、操る」


 ドルは下を向いた。


「心を操る……おれはリールを操ろうとしているのかな」


 リールは沈黙する。ドルは立ち上がった。


「おれはおまえの変な力の事は気持ち悪いと思ってるし、おまえの事が特別好きな訳でもない。でも、だからお兄ちゃんだ。おれには他に何もない」

「ドル!」


 リールの呼ぶ声を振り切ってドルは走った。いつも行く西の崖がある場所へ。今はただ飛んでいきたかった。ここではないどこかへ。


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