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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十三話 レイリールの望むもの
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23-3.レイリールの望むもの

 アラドとキットはレイリールを両脇から抱えながら、泣きじゃくっているブラックを不思議そうに見る。


「こいつはなぜ泣いてるんだ?」

「……リールとぶつかっただけですよ。ほら、とにかくリールを座敷にでも寝かせてあげてくださいよ」


 タルタオの言う通り、アラドとキットはレイリールを座敷まで運ぶ。キットは仰向けに寝かせられたレイリールのあどけない顔を見てぼそっと呟く。


「……キスしたい」

「あっぶねえな、おまえ!」

「何をする」


 アラドがキットの頭を押さえると、キットはそれを振り払う。そして二人は胸倉を掴みあって睨み合う。


「ちょっとあなた達、リールを挟んでケンカするのやめてくださいよ」


 タルタオが注意すると、二人はフンっとそっぽを向いた。レイリールの様子を面白そうに眺めていたアクロスが近寄ってくる。


「リールがこうって事は、リールにそっくりなあのメサィアもそうなの?」

「ええ……あの人もお酒を飲むと、誰彼構わず手を出して……この人達はね、根はとても寂しがり屋なんですよ。いつも誰かに愛されたいと願ってる」

「ふーん、キスだけ?」

「もちろん最後まで……それ目的で飲まそうとする人もいるから困ったものですよ」

「へえー。それでよく子供ができないな?」

「それはそうですね……あの人に子供ができたとは聞いた事がない。もしできればメサィアの後継ぎ候補……一大事になりますね」


 タルタオ達が話していると、リールが伸びをしながら起き上がる。


「何言ってるんだよ、タルタオ。ぼくに簡単に子供ができる訳ないだろ」

「おや? メサィア。なぜあなたが起きて……」






「あんたは……」

「おまえは……」


 アラドとキットは同時に呟いて顔をしかめる。リールは膝を立ててそこに肘をつく。


「ふん、君達はすぐにぼくの事が分かるな。野生の勘というやつか。ぼくはいいと思うんだけどな。もう一つの計画には君達のどちらか……まあこいつは嫌がってるけど」


 リールは夕食前の準備に動いている食堂内を見渡した。


 まだテーブルの下に潜り込んだままのヴィルマをサーシャ、キーシャが覗き込んでいる。ラウスはにこにこしながら食堂内が見渡せる場所に立っている。


 イランはさっきのヴィルマとリールのキスが気になっているのか、心ここにあらずという感じでぼーっとしている。


 ブルー、ローリー、ルテティアは食事の配膳をしている。ダン、ドル、オラデアは席に座り、何か話している。カイナルはまだ涙が止まらないブラックに話しかけている。


 座敷の席に座っているエドアルドも、カットとさっきの騒ぎについて話している。そこからは見えないが、キッチンではアンナとリントウが食事を盛りつけ、それをカールとポテトが手伝っている。


 みんなリールを見る事もあるが、リールの変化には気づいていないようだ。


「なるほど家族……これを壊すのか。乗り気はしないね」


 リールは他には聞こえないようにぼそっと呟く。


「リール、なんでおまえに子供ができないんだ? 病気?」


 アクロスが軽い調子で聞く。


「そう……かな。ぼくはある意味ラブドールとして作られた。子供なんか簡単にできないようになってるのさ。でもこいつなら……」

「ラブドール?」

「とは何だ?」


 アラドとキットが二人同時に聞く。その瞬間リールの手が素早く動き、自分の顔を叩きつけるように口を押さえた。メサィアと呼ばれるリールはそれで退散する。


「ラブドールってあれでしょ。あの……」


 説明しだそうとしたエドアルドの口をリールの手が塞ぐ。そしてリールはにっこりとひきつった笑みを浮かべながら、エドアルドの顔を覗き込む。


「エドアルド、君、この前自転車が欲しいって言ってたよね? ぼくが買ってあげよう」

「あ、ほんと?」


 エドアルドは簡単に買収され、口をつぐむ。キットはアクロスの方へ向く。


「アクロス、ラブドールとは何だ」

「あ、えーっと……」


 キットの後ろで、リールは言わないでと言うように目を潤ませながら、手を合わせている。


「えーっと、そう! つまり、かわいい人形みたいって意味だ!」


 アクロスは人差し指を前に出し力説する。そう言われてリールはぽっと顔を赤らめた。アラドはそれを聞いてほっとしたように肩を落とす。


「なんだ、おれはまた悪い意味かと……」


 アクロスはうまくごまかしきったというような表情をしているが、キットは疑わしそうにアクロスを見ている。


「ほら、あなた達、何してるの。もう食事の時間なんだから席に着きなさい」


 いつの間にかアンナ達もキッチンから出てきて席に着き始めている。カールはいつも向かいの席に座っているグルジアがいないのに気づく。


「グルジアがまだ来てないぞ」

「あの人ったら、また隠れてタバコでも吸ってるのかしら」


 アンナがぷりぷり怒りながら立ち上がりかけたが、リールが座敷から降りて声をかける。


「いいよ、アンナ。ぼくが探しに行こう。……ああ、君達はついてこなくていいからね」


 リールと一緒に立ち上がりかけたアラドとキットを、リールは止める。何か言いたげな二人を遮るように、リントウが座敷から降りてサンダルを履いた。


「わしが一緒に行こう。リール、おまえに聞きたい事もあるしな」

「うん? いいよ。行こうか」






 リントウは有尾人の女の子だ。赤毛の髪と赤毛の長い尻尾を持っている。今の見た目は十二歳くらいの女の子だが、実年齢は六十五だ。気が強い性格で、いつもきつい目つきをしている。


 リントウとリールは二人揃って外を歩く。グルジアの事だから、食堂の裏か自分の家でタバコを吸っているのだろう。まずは食堂の裏を回りながら、リントウが聞く。


「おまえ、さっき作られた、と言っていたな。どういう意味だ?」

「ああ、聞いてたの。えと……ぼくは普通に生まれてきたんじゃないんだ。作られた人間なんだよ」


 リールは試験管の中で生まれ育ってきた事を、なんとかリントウにも分かるように説明する。


「だからぼくには両親というものがいない」


 リントウはそれを聞いて深く頷いた。


「なるほど。おまえが家族を欲しがった理由が分かった。おまえには家族がいなかったんだな」

「うん……兄、みたいな人はいるんだけどね」


 リールはもう一人の自分という存在がいる事もリントウに説明した。


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