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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十三話 レイリールの望むもの
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23-2.レイリールの望むもの

 テーブルを回ってきて、ラウスはリールの手を取る。


「やあ、レイリール。久しぶりだね?」

「やあ、ラウス」


 レイリールと呼ばれたリールはにこにこと返事する。


「変な事言わないでくださいよ、この人は最初からこの人ですよ」


 タルタオが睨みながらそう言うと、ラウスは軽く笑って退散した。






 アラドとイランは、レイリールのヴィルマへのキスを目撃した事に慄いたまま、気まずそうに席に座る。いつものようにお喋りしながら入ってきたダン、ドル、オラデアも席に着く。キット、カットも現れ、座敷の席に座る。


 レイリールは周りを見渡して、「ん-」と唸った。


「思ったより人が増えたなあ。特にキット、彼はいつまでここにいるんだ?」

「彼がいると何か不都合でも?」


 タルタオが質問する。


「少しね。だって彼には成さなければならない事がある。成してほしい事がある」


 レイリールは意味深にそう言いながらも、手はグラスを取る。


「アクロス、もっとお酒ちょうだい」

「ああ、いいぜ」


 レイリールのグラスにお酒を注ぐアクロスを、タルタオが睨む。


「あなたですか、この人に飲ませたのは」


 アクロスは「ハハハ」と、笑ってごまかす。レイリールはまたグラスを空けた。


「ちょっとレイリール様、あなた、そんなに飲んで大丈夫なんですか」


 タルタオは心配そうに頬の赤いレイリールを見つめる。


「お酒は好きだよ。誰でもいいからキスしたい気分だ」

「やっぱりダメじゃないですか」


 タルタオはにこにこ話しているレイリールから、グラスを取り上げた。






 ちょうどその時、有尾人の一人であるポテトがキッチンから出てきて、テーブルに置いてある酒瓶を取った。


「酒持ってったのおまえか。おまえ、もう飲むなって言っただろ。アンナが怒るから持ってくよ」

「ポテっちゃん、リールが酒癖悪いの知ってるのか……?」


 レイリールの様子を窺っていたイランが、ポテトに尋ねる。


「こいつ、前にもじいちゃんと飲んだ事があるんだよ」

「なんだ、リール。飲んでるのか。またちゅーしてやろうか?」


 カールもレイリールの様子に気づいたのか近寄ってくる。


「やめろ。もう見たくない」


 ポテトはカールをレイリールに近寄らせないように行く手を阻む。二人の言葉を聞いてアラドが焦ったように立ち上がった。


「な、なんだ、またとか、もうって!」

「安心しろよ、ほっぺにだから」


 ポテトがそう言うと、アラドは心底ほっとした顔をするが、カールは気にせず話し続ける。


「なんだ、ポテト。おまえだってリールとちゅーした事あるんだぞ?」

「は? いつ?」

「おまえがケガした時にな。おまえを治そうとして、おまえに細胞? を混ぜた唾を飲ませたんだ」

「え、何それ。聞きたくなかった」


 ポテトとカールは話しながら戻っていく。アラドが涙目になってレイリールを睨むと、レイリールはどう弁解したものかと、気まずそうに笑った。






 その時、キットがレイリールに近づいてきた。キットは驚いているような、感動しているような表情でレイリールを見ている。


「お、おまえ。おまえだ。おれが探していたのは」


 キットはレイリールの手を掴もうとするが、レイリールはそれを振り払った。


「フン……キット。ぼくは君の気持ちには応えられないと言ったと思うけどな」

「おれはおまえが好きだ! おまえはおれの全てだ!」


 キットはみんなの目も気にせず、大声で告白する。キーシャが「きゃ」と小さな黄色い悲鳴を上げて、頬に手を当てる。あまりにも堂々とした告白に、女の子達はみんな頬を染めた。さすがのレイリールも顔を赤くしてしかめ面をする。


「悪いが、キット。ぼくは君の気持ちに応える気はない」

「なぜだ!? おれにはおまえしかいない!」


 食い下がるキットの前に、アラドが立ち塞がる。


「応える気はないって言ってんだろ……!」


 アラドとキットは睨み合う。レイリールは酔いが回ってきた頭を押さえた。タルタオはレイリールの手を取って立ち上がらせた。


「ちょっと酔い覚ましに行きましょう。あなたやっぱり飲むべきじゃありませんよ」

「待て。おれの女を連れていくな」


 タルタオはキットを睨む。


「あなたも少し頭を冷やしなさい。この人は分かれても、別の人になっているわけじゃないんですよ」


 タルタオはよく分からない事を言って、レイリールの背中を押していく。追いかけようとするキットを、アラドが止めた。二人は睨み合い、口論しだす。


「おまえは邪魔だ」

「いい加減に諦めろよ……!」






 レイリールは眠そうな目で食堂の入り口まで来た。外からはカイナルとブラックが歩いてくる。


「探してもらって悪いね、ブラック」

「おまえは放っとくと、ご飯も食べずに絵を描いているからな」


 レイリールとタルタオが入り口から外に出ると、そのカイナル、ブラックと鉢合わせした。レイリールは二人を見て、にこっと笑った。タルタオは一瞬のレイリールの気配に気づく。


「はっ! カイナル、ブラック、どきなさい!」

「ん?」


 カイナルが不思議そうな顔をした横で、レイリールは少し腰を曲げて、ブラックの唇にキスをした。そしてそのままブラックの上に倒れこむ。突然のキスに硬直したブラックは、レイリールを支える事ができず、一緒に倒れた。


「何? なんで倒れたの?」


 カイナルは慌てもせず、ブラックの上に倒れているレイリールを見る。


「この人、お酒を飲みまして、眠気が限界だったんだと思います」


 タルタオが既に眠ってしまっているレイリールをゆすっていると、ブラックは腕で目を覆い、歯を食いしばってしゃくりあげだす。


「ブラック、泣いてるんです?」

「そりゃ好きでもない奴から、いきなりキスされたら泣きたくもなるでしょ」


 カイナルはブラックを起こそうと手を伸ばすが、ブラックはひたすら泣いている。


「好き、だけど……好き、だから……!」


 ブラックの言葉をカイナルは訳が分からないというように聞いている。タルタオはため息をついた。


(そうか。ブラックは好きすぎて逆に手が出せない人だったんですね。この人ったらそんなブラックの心をかき乱して……)


 タルタオはなおも強めにレイリールをゆすったが、レイリールは起きない。タルタオは睨み合っているアラドとキットを呼んで、レイリールを座敷の席まで運ばせた。


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