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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十二話 ラウスが来た経緯
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22-2.ラウスが来た経緯

 ラウスは協力者を仰ぎましょうという自分の提案に、頑なに「ダメだ」というベレチネに困っていた。いくら睨まれたって、百五十センチメートルもないベレチネなど怖くはない。しかし女性には優しくするのが信条のラウスは、強硬姿勢を取る事もできない。


 ベレチネは新たなメサィアが誕生するリスクは避けたいと言う。


「メサィアの力を消す方法が分かればそれでいい。わたしはあの子をメサィアの力から解放したいだけなのだ」


 ベレチネはなぜかずっと胸の下辺りを抑えながら、話している。ラウスは少し考えた。


(新たにメサィアを作る……ぼく自身はさらさらそんな気はないが、他の人間がそれを考えないとは確かに言い切れない。だが、やはり一人でどうにかできるものでも……いや、とりあえず可能な限りこの研究所を調べてからだ)


 そう考えると、ラウスはベレチネに頷いて見せた。


「わかりました。とりあえずぼく一人で善処してみます」

「そうか。では頼む」


 ベレチネは手を滑らせて、服の下から何かを取り出す。それはどこから調達したのか、爆弾らしきものに見えた。ベレチネはぼそっと呟く。


「ここに死体が二つ転がる事にならなくてよかった」


 ラウスはその台詞に驚いた。


(心中覚悟……!? かわいい女の子もいない場所で勘弁してほしい……ってそうじゃなくて、それだけの覚悟って事。参ったな、そこまでされると本当に誰かにここを教える訳にはいかなくなる……)


 ラウスは改めてしかたないなと思い直し、ため息をついた。






 ベレチネはその後も可能な限り、ラウスの動向を監視していた。ベレチネはリールがいなくなった事で研究室長の座は解任されたが、まだ会社に在籍する事が許されていた。その会社でじっと資料を眺めているラウスを見ている。ラウスはその視線に辟易してため息をつく。


「室長……ベレチネ。そんなに心配しなくても、他言しませんよ?」


 ベレチネは小さな体でも顎を上げて、座っているラウスを精一杯睨み下ろす。


「信用……していない。今のわたしに強い権力はない。おまえを四六時中監視する事はできないんだ。だが見れる時は見る。万が一おまえに不審な点があれば、一緒に死ぬ事くらいはできるからな」

(えー、ストレスたまっちゃうな、もう)


 他の研究員の目に触れないように夜間に資料を眺めているラウスは、別の部署で残業しているブルーという子に声をかける。そして誰もいない時を見計らって、ブルーにキスをし、体を求めた。


 ブルーの手をデスクにつかせ、ラウスはその後ろで下着を下ろす。まぐわっている時に後ろの入り口に人の気配を感じた。その気配はベレチネに決まっている。ラウスは後ろを睨みながら顔をしかめた。


(バレちゃったかな……まあいいか)


 そしてブルーとの行為が終わった後、ズボンのベルトを締めながらラウスは考える。


(あんな脆弱なおばさんが、あんなに必死になって……それを無下にするほど人でなしじゃないっていうのに)






 その後、ラウスは会社で誘っていたブルーが消息不明になった事を知る。ラウスはブルーの住所を調べ、住んでいたはずのアパートに探しに行ったり、ブルーの同僚にその行き先を聞きまわったりしたが、行方は知れなかった。


 ダメ元でブルーが行方不明になる直前の会社の監視カメラを調べてみる。するとそこにはブルーと話している金色の髪の子が見えた。


(リール……!? リールは今ホールランドにいるんじゃないのか!?)


 それはもうリールがそこの施設を抜け出し、ホールランドの洞泉宮に行ったようだという情報が入ってきて十ヶ月程経っていた時だった。ラウス達は一度はホールランドの使者からリールを逃がそうとしたものの、リールが自らそこへ行ってしまったという情報を聞いて、既にリールの事を諦めていた。


 ラウスはその映像を見た後、ベレチネの元へ行く。


「あの研究所は、うちの会社の所有物じゃない。どう考えてもメサィアが関係する施設。なら、ホールランドのその筋の人間と連絡を取る手段が、あなたにはあるはずだ……!」


 ベレチネは軽くため息をつきながら、首を振る。


「そんなもの、わたしにあるわけがないだろう。わたしはあの人に会っただけだ。あの人が会いに来た」

「あの人……?」

「メサィア……本物のメサィア。あの人は突然いた。ドアも開いていない。気づいたらそこにいたんだ。そしてわたしにあの研究所のカギを託し、そのまま帰っていった。わたしはただあの人が会いに来るのを待つだけさ」


 ベレチネから何の情報も得られないと分かったラウスは踵を返す。そのラウスをベレチネは不思議そうに見た。


「おまえ、何を焦っている……?」


 ラウスは足を止めて振り返った。


「ベレチネ、ぼくは長期休暇を取る」

「おまえ、前回の休暇から一年経ってないぞ?」

「じゃあ、会社を辞める!」

「何を言ってるんだ、おまえ」


 ベレチネは訳が分からないと言うように首を傾げる。


「あの研究所の件は続けてもいい。だが今はそれよりも優先する事がある」


 ラウスは話し出す。


「リールが、来たんです」


 ベレチネはぴくっと眉を動かす。ベレチネは実はそれを知っていた。リールはベレチネに会いに来たのだから。リールはメサィアの力を消すための秘密の計画を実行中だと話し、それにベレチネも参加しないかと言ってきた。


 だがベレチネはそれに頷きはしなかった。リールの表情は以前と違い、とても明るくなっていた。それを見る事ができただけで充分だと思えたのだ。そしてメサィアの力を消す方法を見つけたのなら、それでいい。


 だがベレチネはその事をラウスには話さなかった。ラウスはカメラの映像にリールが映っていた事を話している。


「ぼくは彼女を追いたい」

「……そうか。だが探す当てはないな」


 ベレチネはリールがどこにいるのか聞いたが、リールは「内緒だ」と笑って教えてくれなかった。ベレチネは少し考えて言った。


「あの研究所になら、あの人は現れるかもしれないが……」


 それを聞いたラウスはろくに物も言わず、走り出して行った。


「……読めない男だな」


 ベレチネにとってラウスは少し不可解な男に映った。


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