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子供の島の物語  作者: 真喜兎
第二十話 ローリー・ニューバーン
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20-6.ローリー・ニューバーン

 ローリーは片付けながら聞いた。


「わたし……どうすればいいかな? どうすればアラドの辛いのを代わってあげられる……?」


 アラドはうつぶせで寝ている顔をローリーの方へ向ける。


「知らねえよ……! 代わってもらう気もねえ……!」


 ローリーはアラドを仰向けにし、額の汗を拭ってあげた。


「水、飲む?」

「ああ……」


 ローリーは水を汲んできて、起き上がったアラドに渡す。ローリーは椅子にちょこんと座った。


「わたし、なんにもできないんだね」


 アラドは何も答えずに水を飲んだ。






 一方、アラドと同じように吐いたタルタオの背中を、異変に気付いたエドアルドがさすっていた。


「病気? うつさないでよ」


 エドアルドは言いながらも、水を持ってきてタルタオに渡す。


「すみません、でも病気ではありませんよ。あまりに唐突に来たので、トイレに駆け込むのがぎりぎりでした。まさかあの人、レイリール様……」


 エドアルドはタルタオの最後の呟きを聞いて、顔に疑問符を浮かべる。


「なんで時々、リールをレイリールって呼ぶの? リールとレイリールで何か違いがあるの?」

「……あの人は本当はレイリールと呼ばれるべき方なんです。本物のメサィアの力を持っているのは今はレイリール様の方なんですから」

「ん? よく意味が……」


 その瞬間、エドアルドはどくんと心臓が波打つのを感じた。いや、それはエドアルドだけでなく、子供の島の住人全員が感じた。タルタオは自分の体を押さえる。


「大人の姿に戻る! あの人やっぱり……!」


 タルタオは「死んだのか」という言葉は飲み込んだ。タルタオは百五十センチメートルの体から、百六十八の体へ戻る。エドアルドは百五十三の身長から、百七十二センチメートルの体へ。


「何これ! 体痛った! 服きっつ!」


 エドアルドは急激に体が大きくなった痛みに思わず尻もちをついて、声を上げる。そして自分の手足を眺め、洗面所の鏡を覗き込む。


「これ元のぼく……だよね? 戻っちゃったじゃん。どういう事?」

「……知りませんよ。とにかくわたしは着替えますよ」

「わかった。ぼくも着替えよ」


 エドアルドが部屋に入ると、タルタオも急いで着替えを済ませ、家を出ていった。






 ブルーはリールが戻ってないか見に行くと言って、なかなか戻ってこないローリーを心配して、外に出てきていた。リールの家に近づいたブルーは心臓が波打ち、体が大きくなっていくのを感じる。百五十二だった身長は百六十七センチメートルになった。ブルーは特に胸とお尻がきつくなった服を見る。


「なんで急に?」


 ブルーは向こうから誰か走ってくるのが見えて、思わずリールの家の石垣の内側に隠れた。走ってきたのはタルタオで、タルタオはブルーに気づかずリールの家の前を通り過ぎていく。ブルーはつんつるてんになった服が恥ずかしくて、しばらく座り込んでいた。するとリールの家の敷地に入ってきたラウスに見つけられた。


「ブルー? 何でこんな所に」

「さい……っあく」


 ブルーは一番見つかりたくない相手に見つかって顔を赤くする。ラウスも急に大人の姿に戻った事に驚き、リールにその理由を尋ねようとリールの家に来た所だった。同じようにリールを探しに来る人の気配を感じたラウスは、ブルーを連れて人の気配がない道の方へ行く。


「ちょっと、どこ行くのよ」

「君、誰にも見られたくないんだろう? とりあえずあのオフィスの所まで行こう」






 ローリーは元の十七歳の少年に戻ったアラドに追い出され、リールの家の玄関を開けて外へ出た。ローリーは百四十五から百五十四センチメートルになっていた。ローリーの足取りはとぼとぼと重かった。そのローリーを百七十二センチメートルになったアンナが見つけて走り寄ってくる。


「ローリー! リールは?」

「んーん、いない」

「どこ行ったのかしら、あの子……アラドは?」

「最初は具合悪そうだったけど、もう平気だって。なんで大人に戻っちゃったかは分からないって」

「そう」


 アンナは後から来た子達にローリーから聞いた話を伝える。ローリーがカイナルの家の前に差し掛かると、周りを見張るかのように立っていたカイナルに見つかった。


「ローリー! あんた、外に出るなって言ったろう!?」

「どうしたの、カイナル。何かあった……?」


 そう聞かれてカイナルは家の方をちらっと見ながらも、首を振る。


「な、何もないよ。急に大人に戻っちゃったくらいだ」

「アラドが具合悪くなっちゃったからだよね……」

「アラドが……? あ! あんたまさかアラドの命の危険とやらを肩代わりしたのか!?」

「んーん、できなかった。リールがいないとわたしは何もできない」

「そ、そうか」


 カイナルはほっとして息をつく。カイナルにアラドは大丈夫そうだと告げると、ローリーはそのまま家に戻って部屋に入り、着替えて横になった。






 リールはずっと眠っていた。リールの側にはブラックが祈るように座り、その後ろにはリールの気配を追ってきたタルタオが椅子に座っていた。


「リールの熱は消えてない」


 ブラックは低い声で呟く。


「ええ、わかっていますよ。この方はすぐに復活なされる。今はこの人が本物のメサィアなのだから」


 それから何も話さないまま夜は明け、朝日が昇る頃、リールは目を開けた。


「ぼく、死んだのか……そしてまた、生き返ってしまったのか」


 リールは深く息を吸い、吐く。その気配を察したブラックが目を覚ました。ブラックは息をしているリールを見て、涙を浮かばせながらリールの手に頬ずりする。


「よかった……よかった……!」

「ブラック……」


 リールは大人に戻っているブラックとタルタオを見る。


「まさかの計画失敗だ。兄ちゃんは無事か? 体がまだ動かせない」

「アラドは大丈夫だと思いますよ。大人に戻った時、わたしも負荷から解放されましたから」


 タルタオもいつの間にか目を覚まして、リールの言葉に答える。


「そうか……ここはブラックの部屋か……ぼくの事はみんなには知らせてないんだな?」

「ええ、知っているのはわたしとブラック、カイナルだけです」

「そうか。こんな気味の悪いぼくを、みんなに知られてしまうのは少し心苦しかった」


 リールはそう言ってからまた眠った。次の眠りは呼吸のある穏やかな眠りだった。


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